G1で“セコ乗り”ができない理由とは?
2013.1.24
西塚信人(以下西) 去年と言えば、G1レースに良く騎乗されていましたよね。ダービー初騎乗?
田辺裕信騎手(以下田) そうですよ。西塚厩舎で乗せてくれなかったからね。
[西]いやいや、何を言っているのかな。
[田]エフテーララーヤでスプリンターズSに出たでしょう。
[西]うははは。そう言えば、ダービーの時にあなたの前でモンストールを引いていたんですよ。
[田]あっ、そうだったかも。
[西]信ちゃん、もっと速く歩いてよと言われたんだよね(笑)。
[田]そんなこと言ったかな(笑)。
[西]確かに後ろが詰まって、渋滞気味になっていたんだよね。スローペースに落としたんだよ(笑)。
[田]わはは。スローペースに落としたのを後ろに気付かれてしまったんだね。
[西]俺も初ダービーだったんだけど、内側からスタンドをみたら、もの凄いお客さんだったわ。
[田]確かに、お客さんは凄く多かった。
[西]どんな感想を持ったの。
[田]オークスとの違いがよくわからなかった。
[西]うはははは。そうくるか。
[田]牡馬と牝馬の違いはあるけど、距離も一緒だし、お客さんの数もたくさんいて違いがわからなかったですよ。
[西]逆に言えば、オークスも多いと感じたわけだよね。
[田]いや、オークスもお客さん多かったですよ。
[西]いやぁ、名言だね。NHKマイルCも多いと感じたの。
[田]多いと思ったけど、やはりオークスとダービーはスタンド前からスタートするので、向正面とは雰囲気が違いますよね。
[西]向正面ね。ファンファーレ、聞こえないでしょう。
[田]ファンファーレは拍手で消されてしまうし、向正面だとほとんど聞こえないですよね。そういう感じなので、G1という雰囲気とかあまりないかもしれません。
[西]実況とかも聞こえないでしょう。
[田]聞こえませんね。
[西]G1ということに話を戻すと、人気になる馬にも乗ったよね。
[田]人気ってどの馬?
[西]マルセリーナもいたじゃない。
[田]人気だったかな(編注:ヴィクトリアマイルで3番人気3着)。
[西]ヴィクトリアマイルの4コーナーでは、一瞬やったと思ったでしょう。
[田]思わなかったですよ。
[西]あっ、そう。
[田]遅い流れだったから、行くところがなくてたくさん詰まっている馬たちがいたんですよ。たまたま、僕は前が開くスペースがあった。他のジョッキーのコメントをみてもらうと、前が開いていれば勝てていたとか、もっと際どい勝負となっていたという話が載っているはずですよ。
[西]あっ、そういえば松岡もそんな話をしていた。
[田]みんな後ろにいた馬たちは脚があったんですよ。でも、みんなが前が開いて進路があっても、同じ着順だったかもしれないわけで、それも競馬ということですよ。
[西]ヴィクトリアマイルと安田記念(17着)では違った?
[田]やはりG1でも牝馬限定と牡馬相手では違いますよね。安田記念も乗せていただきましたけど、相手が強かった。
[西]ハナズゴールはどうだったの。走るよね。札幌記念でも良いレースしていた。
[田]よく2400mを乗ったなぁと思いますよ。
[西]距離長いの。
[田]集中力が切れてしまうんですよね。
[西]馬の集中力が続かないんだ。
[田]いや、俺の。
[西]うははは。あなたのね。
[田]直線からスタートして、またあの長い直線が待っているんですよ。直線の1.5倍を走るんですからね。僕だけじゃなくて、馬も大変ですから。
[西]そりゃそうだけどさ(笑)。引っ掛かったりするの?
[田]若干だったんだけど、最近は引っ掛かるようになっているんですよね。
[西]この前は1200m(京阪杯)だったよね。
[田]そのあと1600m(リゲルS)で浜中が乗って勝ったんですけど、引っ掛かっていましたからね。よく2400m乗ったなぁ。
[西]でも、そういう意味では桜花賞を回避せざるをえなかったということで、体調とレースが噛み合っていればと思わせられるんだけどね。
[田]それがクラシックの難しさなんじゃないですか。
[西]秋もローズSを回避せざるを得なかったからね。
[田]そういう不運というか、リズムが合わなかったことはありますよね。
[西]そうだ、トリップは?
[田]あの馬は乗りやすい。
[西]ダービーの後はダート路線にも進んだよね。
[田]血統的にはダート適性があるし、その可能性についての話は出ていました。でも、芝でも走っていましたので、クラシックを走れますからね。
[西]乗っていて、ダートが合いそうな感覚があったりするの。
[田]ある、ある、ある。パワータイプという感覚があって、高速競馬だと合わない印象を受けますよ。
[西]去年はたくさんG1に乗ったわけだけど、G1を勝てそうだという感覚とあるの。
[田]ありません。
[西]うはははは。まだないんだ。
[田]いや、全然相手が強いですから。G1を勝つ馬というのは本当に強いんですって。
[西]一緒に走っていて、そう感じさせられるんだから、そうなんだろうね。
[田]運もあるんだろうけど、基本的にG1を勝つ馬は強いし、強くないと勝てないと思いますよ。
[西]福島のメインレースで相手が強いと感じる感覚とは違ったりするの。
[田]一緒ですよ、一緒。
[西]うははは。そこは一緒なんだ。
[田]強いんですって。でも、G1ではセコくというか、内で死んだふりをしていることもできないんですよね。
[西]ブッチャけ、なんでできないの。G1でセコ乗り、良いと思うんだけどなぁ。
[田]みんな自分が大事だから、動かないんですよ。
[西]なるほどね。
[田]どんな人気薄で、チャンスがないと口にしていたとしても、心のどこかでは、あわよくばという思いがあるから、動かない。
[西]素人と言われるかもしれないけど、田辺がここまで培ってきたセコ乗りの技術を集約して、何回かG1に騎乗していたらラッキーパンチがあったりするんじゃないかと思ったりするんだよね。
[田]球数が少ないよね。
[西]うははは。
[田]数打ちゃ当たるでしょうけど、球が少ないですよね。
[西]なるほどね。
[田]あとは、余裕を持って内でジッとしていろと、G1の舞台ではなかなか言えないですよね。
[西]そうかもしれないわ。
[田]本音を言えば、少しはチャンスがあるという馬で、セコ乗りをしてみたいですよね。
[西]あっ、ハマったらチャンスがあるという馬ね。
[田]駄目ならば駄目で仕方がないけど、勝つ可能性はあるから、賭けて内にジッとしているということですよね。でも、それで詰まったら、外出していたら勝てていたんじゃないかと言われてしまいますから。チャンスが少ないG1ですから、調教師の先生たちだけでなく、馬主さんをはじめ、携わった人たちがたくさんいますので、そうなりますよね。
[西]いやぁ、それは難しいね。
[田]でも(トリップを管理する)松田(博)先生は、厩舎の実績で人気になったりしますけど、本当に冷静で。ある馬で、『そこまで強くないから、直線までジッとしていろ』と言われたことがあります。
[西]僕が言うのもおこがましいけど、管理馬を自分から動いて行って勝てるほどじゃない、と分析できるのは凄いよ。
[田]『周囲は強いというけど、そこまで良い脚は使えないから』と言われたんですよね。残り300~400mまで動かずにじっとしていろと言われました。
[西]そこまで話をされるんだ。
[田]大まかにですよ。手応えが良く直線に向いたとしても、ほんの少ししか脚を使わないから、前が開いてもまだ行くな、という感じでした。本当に的確ですよね。
[西]本当に凄いわ。
[田](ハナズゴールを管理する)加藤和宏先生は逆に、何も言われないんですよ。G1でも『任せる』と言われるんです。やはり、騎手として活躍されていますので、こう乗ってくれ、ああ乗ってくれと言われたとしても、少し予想と違ったらそうならないということをご存じなんですよね。
[西]予想通りの展開になることの方が少ないわけですからね。
[田]馬は機械じゃないですからね。
※以下次回に続く。今年から募集している西塚助手への「指令」は、まだまだ募集中です。上部リンクからお送り下さい!