まだまだ寒さの残るこの時期に、“冬毛”について考えてみましょう
2013.3.14
今週は編集部から
「冬毛について教えてほしい」という指令が届きました。そこで、今回は
“冬毛”をテーマにしたいと思います。
寒い時期になると、パドックなどで毛の長い馬をみかけることがないでしょうか。
それがまさに
“冬毛”なのですが、馬の中には、寒い冬の時期に毛が伸びていく馬がいるんです。そのままにしている馬もいれば、一部だけ刈り込んでいる馬もいます。
馬の中にはと言ったのは、生えてこない馬もいるからなんです。この冬毛が生える理由については、実は諸説あるのが実情なんですよ。
寒さから体を守るため、新陳代謝が落ちるため、あるいは手入れが行き届いていないためなど、実に様々なことが言われています。
その中のひとつに、日照時間の変化を脳が感知することで毛が伸びるというものがあります。冬になって日照時間が短くなったことを感知するから、といわれているんですね。
冬毛が生える理由のひとつとして、寒い冬から身を守る効果があるはずです。でも実際は、寒くなってから毛が伸びはじめるのでは遅いわけです。ですから、日照時間の変化に反応して毛が伸びていくのでしょうね。
それを裏付けるものとして、実は怪我などによって馬房で舎飼にされている馬は、毛が伸びるんですよ。
その効果を応用していることになるのかもしれませんが、ライトコントロールという対応方法があります。
単純なことですが、馬房の蛍光灯を夜になってもある一定の時間まで点灯させておくんです。
これは、光を長く照射することで成長ホルモンが分泌され、化骨を促進させるなど、2歳馬の成長を促進させることを目指してよく行われているんです。
そして、冬毛もまたホルモンの影響を受けて伸びると言われていて、毛が伸びることを防ぐ目的でこのライトコントロールが行われることがあります。
余談ですが、光とホルモンの関係でもうひとつ、ライトコントロールを受けている牝馬は発情しやすくなる傾向にあるとされているんですよね。
それと、これはあくまで僕の個人的な思いなんですが、冬毛が伸びるのは牡馬よりも牝馬の方が多いとされているんですが、それもホルモンとの因果関係を示していると思っているんですよ。
冬毛が伸びてしまい、なかなか生え変わらない馬にはどうするかというと、刈り込むことで対応したりします。
パドック解説などでも、「冬毛が伸びていますが」というフレーズを聞いたことがあると思います。冬毛に対しては、あまり良いイメージが持たれていないという印象があります。
その理由として、見栄えがあまり良くないという方もいれば、新陳代謝が悪そう、という方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、獣医さんに聞くと
「能力発揮という点に関して基本的に影響はない」と言われました。
僕の少ない経験のなかでも、冬毛が伸びていても勝つ馬がいましたので、冬毛イコール能力発揮に影響する、とはならないのではないでしょうか。
また、冬毛が伸びていても、艶があって、光って見えるほどの状態もあるんですよね。
実際、冬毛と能力発揮の因果関係は科学的に認められていません。見た目の印象なのかもしれませんし、馬の全能力を発揮させるという本質とは無関係なのかもしれません。
ですが個人的にも、できれば短い毛の状態が望ましいと思っています。
昔から馬肥ゆる秋などと言われますが、多くの馬が調子を上げてくると言われる春や秋の時期の馬たちは、やはり長い毛が抜けて皮膚が見えるほど良い状態になる、という感覚があります。
人間でもどこが悪いというわけではなくても、「何となくだるい」ということがあると思います。同じように、馬にもそのようなときがあります。
それが馬にとっては冬であり、冬毛がそのひとつのサインであったりするのかな、と考えなくはありません。
ところで、最近はトレセンで働いていて、冬毛が伸びた馬たちをみかけることが本当に少なくなりました。
運動を負荷されることで新陳代謝が良くなるため、馬服を着せることで寒さを感じないため、あるいは飼料が良くなったためなど、様々なことが言われていますし、そのどれも要因として十分に考えられるでしょう。
ただ、先ほど申し上げたようなライトコントロールを行うことで、冬毛を伸ばさないようにすることが絶対に良いこととも言い切れないわけですよ。本来馬が持っている成長ではないわけですから。野菜で言えば、ビニールハウスと露地物の違いでしょうか。
まだ完全に冬毛について解明されていないだけに、冬毛が伸びることが成長を促進する、という可能性も否定はできないわけです。
あくまで、それぞれの馬に携わる我々人間の判断に委ねられるわけです。だからこそよくその馬を観察して、対応していかなければならないんですよね。
最後に、何よりも皆さんにお伝えしたいことは、“競馬場のパドックでの冬毛と牧場での冬毛は違う”ということです。
特にこの時期は毛が生え変わる時期ですから、冬毛が残ってしまっている馬も多いはずです。
ですが、競馬場のパドックにいるということは、しっかりと調教が行われ、追い切りが行われ、しっかりと段階を踏んで仕上げられているということです。
競馬場のパドックを歩いている馬たちに関しては、毛が長いからといって、しっかりと調教が行われていないということでありませんので、誤解しないようにお願いしたいと思います。
ということで、最後はいつも通り、あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。質問、疑問などもどしどしお送り下さい。マジメなものから突拍子のないものまで、何でもOKです! どうぞ、よろしくお願いいたします。