“使える脚”を計算して乗った、ある条件戦での話
2013.6.6
松岡正海騎手…以下
[松]西塚信人調教助手…以下
[西][西]あっ、海外と言えば、アイルランドに行ったときの話もほとんど聞いていないんだよ。ギターの練習していたということぐらいですから(笑)。
[松]だって、本当にギター練習してたから(笑)。
[西]なるほど。話は変わるんだけど、松岡のレベルでも騎乗について指示って出たりするの?
[松]全然出ますよ。
[西]あっ、そうなんだぁ。単純に、騎手、もしくは騎手経験者しか競馬に乗ったことはないわけで、プロに任せておくのが一番良いと思ったりするんだよね。
[松]何が良いか、というのはわからないじゃない。正解はわからないわけだよ。
[西]もちろん。でも、確率から言ったら、プロに任せた方が良いという気がするんだよ。もし、ここが勝負というときに、全然思っているのと違う指示が出たときは、それを破ってでも勝負にいきたいということはあるわけでしょう。
[松]それはあまりないよ。だって、そういう馬は、それまでずっと乗っていることが多いからね。
[西]それまでに、馬と関係者ともにコミュケーションが取れているということだよね。
[松]そういうことです。
[西]こちらの勝手なイメージなんだけど、年間100勝していたときは、関係ねぇぜ的な騎乗というか、そういう雰囲気があったんだよ。
[松]あったね。また、そういうときは言われないものなんですよ。
[西]あっ、そういうことね。ブッチャけ最近は言われたりするの。
[松]言われませんよ。
[西]成績と関係あるのかな。
[松]それもあるだろうし、時代もそういう時代であるのは確かだよね。
[西]言いたいことはわかってくれるでしょう。自由というか、奔放な雰囲気があった。
[松]脚が使えるかどうかわかないのに、一番後ろから行ってみたりしてね。また、そういうときに脚を使うんだ、これが。
[西]いま、その頃を振り返って、何か感じたりする?
[松]全く同じ気持ちですよ。特に変わったこともないし、後悔とかもない。
[西]こう乗った方が良いとか、あるいはこういう調整にしようとか、こちらからすると、騎手のそういう言葉が聞きたいんだよね。
[松]でも、騎手からすると、たとえば前に行ってほしいと言われたときに、自分では後ろから行った方が良いんじゃないかと思ったとする。それで、後ろから行って負けたときには「ほら、みたことか」と言われることになるし、クビになってしまうわけですよ。それならば、言われた指示通りに乗っておいた方が良いと思ってしまう。いまの時代はクビになってしまう時代ですから、余計に言いづらいよ。
[西]次郎さん(小野次調教師)に出ていただいたときに、乗り替わりのデメリットについて言っていたんだよね。1度乗っただけで能力を把握して、それが敵となったときにはもの凄くマイナスとなるということを言っていた。
[松]確かにアダになることはありますよ。ただ、レースというのは時の運もあるし、欠点がプラスに働くこともありますからね。あまり気にしないかもしれない。能力がある、ないというのは見るけれど。例えば左にいく癖がある馬がいるとする。その馬がダービーで1番人気で、自分が3番人気。そのときに1番人気の馬が左にいくから右から寄せていくとか、そういう考えにはならない。絶対能力しか見ないですね。
[西]そう考えるんだ。
[松]だって、その日は真っ直ぐ走ることができるかもしれないじゃない?
[西]その日だけね(笑)。
[松]能力を見て、癖は見ません。ひょっとしたら、その騎手と息がピッタリで、これ以上ないくらい上手く乗れるかもしれない。
[西]わかる、わかる。
[松]そういう馬が得意という騎手かもしれないわけで。
[西]昔、エアグルーヴの伊藤雄二先生が、ピルサドスキーに負けたとき(97年ジャパンC)に、「ミック・キネーンに1度乗せた(95年阪神3歳牝馬Sで2着)のが失敗だった」と言っていたと読んだことがあった。
[松]能力を見ていたんだよ。この馬はこのくらいの能力、ということを見ているんでしょうね。それに対して、ピルサドスキーが後ろから行ったら捕まえられるとか、前に行ったら捕まえられないとか、そういう手応えがあってのことだと思う。ミックは日本の競馬も良く知っているし、ペース判断もできるし、メンバーを見てイメージがつくんだよ。迷いもなく、即決していたはず。
[西]最初は岡部さん(バブルガムフェロー騎乗)と豊さん(エアグルーヴ騎乗)を見ていて、途中から豊さんだけをマークしていたらしいよね。
[松]絶対能力値を見抜いていたんだよ。
[西]脚を測るというか、自分の馬がこのくらい、相手がこのくらい、だからこう乗る、というような計算とかするの?
[松]しないね。自分が乗っている馬の脚しか計算しないです。だって、どのくらい脚を使うか、というのは正直やってみなければわからないですからね。使うと思ったのに、というコメントがあるくらいだから(笑)。
[西]はい、はい(笑)。
[松]脚ということで言うと、オールザットジャズと500万下で対戦したことがあった(11年鳥屋野特別)んだけど、とても印象深い。領家厩舎のビッグスマイルに乗って、僕が圧勝したんだけど、そのときに脚を考えていたんです。返し馬に行ってオールザットジャズが一番良く見えたし、ゆくゆくはオープン馬になっていくと思っていて、差されるならばこの馬だと思った。だから、自分の馬の特徴からもこの馬の後ろから行くという選択肢はあり得ないと思っていた。
[西]なるほど。
[松]ただ、そうは言っても500万下。各馬、条件が付くからここにいるわけで、もしペースが遅くなったりするなど、さまざまな可能性も考えていた。考えた結果、「直線で5馬身引き離していれば差されないかもしれない」ということで、あり得ないくらい早仕掛けをしたんだよね。
[西]来るのは間違いないと思うわな。
[松]来るものと思っていた。でも、その当時はまだオールザットジャズも甘いところがあって、結局勝った。オールザットジャズはその後連勝していったんだけど、そのときには「意外と分からないもんだな」と思ったんですよね。
[西]ただ、結果的にはその早仕掛けのお陰で勝つことができたんじゃないの?
[松]いや、突き放した(4馬身差)んだよ。直線でとても楽だったから、後ろから行っていても勝っていた。
[西]あっ、そう。
[松]ご存知のようにオールザットジャズはオープンで重賞を勝っていて、ビッグスマイルは条件馬ですよ。ひょっとしたら、あそこで圧勝してしまったことがビックスマイルに良くなかったのか、勝つことだけでなく、馬のことも考えるべきだった、とも思う。
[西]うーん、でもそれは難しくないかな。
[松]結果からいえば、あそこで馬のことも考えて乗っていても勝っていたわけで、そういうものじゃないとも思うんだよね。競馬というのは、馬本位でつくっていって、何回走れるか分からないけど、その全能力を発揮できるようにしていかなければいけない、と思ったレースだった。
[西]相手よりも自分の馬ということなんだね。
(来週に続く)
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