関東馬の大半が追い切りを行う、南馬場についてご説明します
2013.6.27
今回は、以前より読者の方々から質問をいただいていた、トレセンの馬場についてお話をさせていただきます。
まず基本的なところで、美浦は厩舎が南と北に分かれて建てられていて、南と北にそれぞれ馬場があります。そこは栗東との違いですね。
南の厩舎は南馬場で調教し、北の厩舎は北というように、それぞれ分かれて調教していると思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、南の厩舎の馬が北に行って調教を行っても良いですし、逆に北の厩舎が南の馬場で調教を行っても良いんです。
現状では、8割以上の馬が南馬場で追い切りを行っていると言っても過言ではないように思います。
その南馬場、内側からA、B、C、Dコースとなっていって、Aがダート、Bがウッドチップ、Cが芝とポリトラック、そしてDがダートとなっています。
さらに、その内側に主に調教に向かう前の準備運動などを行う角馬場が6箇所あります。
そのうち3つがダグ専用。ここはダート、ポリトラック、ウッドチップとなっています。そして2つがハッキングや軽いキャンターができるようになっていて、こちらはウッドチップとポリトラックです。あとひとつは、障害練習ができる馬場になっています。
例外的な動きをする厩舎もありますが、角馬場に入ってから各コースに行く、というのが一般的と言って差し支えないでしょう。
我が尾関厩舎の場合も、角馬場からAコースに行ったり、チップコースに行ったり、坂路に行ったり、あるいは坂路からウッドチップに行ったりという流れが主流というか、多い感じです。
それぞれの特徴についてお話をしますと、Aコースというのは普通キャンターを行っている馬たちがほとんど。稀に追い切りを行っている馬もいますし、ルール上は問題ないのですが、一番内で狭く、コーナーがキツイんです。
AコースはDコースとともに、ゲートが設置してあるため、練習や確認で出したりします。
あとは、Aコースは速いキャンターを乗らないので、引っ掛かることなく、落ち着いて乗ることができる馬たちがいるんです。
角馬場でも軽いキャンターができますが、朝一番は大渋滞となり、密集してしまっているので、それを嫌う厩舎やうるさくなってしまう馬たちが角馬場ではダグだけ踏んで、Aコースで軽いキャンターを行います。
乗っている方としては、Aコースで掛かってしまうようになると、大変になってしまいます。リラックスして乗ることができるコースをひとつは持っておきたいのです。狭いために、逆に物見をしづらいのも良かったりするのでしょう。
最近、Aコースで普通の調教をする馬たちが増えているのは、そういう面もあるのかもしれません。
実際、ウッドチップのみで追い切りを行っていると、ウッドチップに向かうだけでテンションが上がって、引っ掛かりはじめたりするんです。
ここへ来ると“苦しいことをやらされる”とわかるんですね。我々は、そのように苦しがって馬場に向かうような馬に育ててはいけないのです。現実的には、馬場に向かいたがらない馬たちはいますが…。
あと、これはDコースにも言えることなのですが、ダートでキャンター、あるいはダグを踏むということの良さもあります。蹄への刺激ということもありますが、チップしか走らせていないとチップの走り方になってしまうんですよね。
ウッドチップを走るのとダートを走るのでは、走り方が違ってきますので、ダートでキャンター、ダグを踏むことも大切なんですよ。
ただ、Dコースも含めて、ダートはどうしても天候に状態が左右されますし、クッション性ということではウッドチップやポリトラックの方が優れているとされています。
ですから、雨の日は避けられますし、脚元に問題がある馬たちは避けられることになります。
次は、Bコースのウッドチップです。芝、ダート、ポリトラックというなかでは一番負荷がかかるとされていますから、使用頻度ということでは一番です。
脚元への負担が少なく、負荷が求められるというのがセールスポイントとされている一方で、ミスステップが起こりやすく、大きな事故となってしまう可能性があるともいわれています。
最近は、追い切りは外を通るようになったこともあって減ってきましたが、以前は4コーナーで予後不良となってしまう馬たちが結構いたようです。
外と言えば、以前にも少しお話をしましたが、そのタイムはファンの方々にも役立つかもしれません。
2歳馬たちで、ウッドチップで追い切りを行って70-40を切ってくるような馬がいたら、要チェックです。2歳馬でそのようなタイムで動くのは難しいんです。
よく美浦の坂路で50、51秒台というタイムが出ると話題になったりしますが、正直こちらは、調教で動く馬はしばしば出るタイムす。
我々、実際に乗っている人間としては、例え坂路で時計が出ていたとしても、フラットコースで動けていないと『やれる』という意識ではなく、半信半疑だったりするんです。
ブッチャけさせていただきますと、ウッドで良い時計が出ている馬は『やれる』と思えるんですよ。
ただ、普段の調教でもウッドチップばかり乗られている馬は、慣れていますので、タイムが出やすかったりはします。
あとは乗り手が騎手か助手かでも大きく違ってきますので、もしファンの方々がチェックするときにはそこまでみていただければと思います。
それでも、美浦のウッドで2歳馬が外を通って70-40を切ってくるというのはなかなかできることではないんです。
次はCコース、ポリトラックと芝です。
ここではポリトラックについてお話をしますと、とにかく走りやすいのは確かです。ウチの厩舎ではほとんど利用しないのでそこまで詳しくはわかりませんが、グリップが効いて、乗っていてもフットワークが綺麗になる感覚を覚えますし、推進していくような感じなので、時計が出るのは納得させられますよ。
ただ、ブッチャけ、ポリの時計は信用できません。普通キャンターでさえ15-15くらい出ているんじゃないかと思うくらいです。
ちなみに、時計ということでは芝も出ます。
以前、乳酸値の話をさせていただきましたが、ウッドとポリでは圧倒的にポリの方が乳酸値が上がらないんです。ということは、それだけ負荷が掛からないということです。
ただ、天候に左右されずに調教が行えるのは他の馬場にない特徴です。
雨が多いこの時期には、使用する厩舎、馬は増えてきますが、ファンの皆さんは時計を鵜呑みにされない方が良いかもしれません。
そして最後は、ダートのDコースです。
畠山さんとの対談でも話題になりましたが、1周が2000mということで、ここで乗り込んで耐えた馬というのは結果が出てくるので、負荷については期待できると思います。
ただ、脚元のことなどを考えると、やはりチップということになるのでしょうね。クッション性は、乗っていても違いを感じます。
ただ確かに、脚元を考えればチップということになりますが、逆にダートコースを乗ることで、痛いなりの走りができるようになりますし、痛いところを把握した上で調教を進めていくことができるということもあるでしょう。
最近では、ウチの厩舎などは上がり運動としてDコースを歩いています。
これは運動的な効果というよりは、馬場を歩ける方が競馬に行っても良いので、そういう効果なども狙ってのことです。
堀厩舎はハッキングをしていたりしますが、個人的には広いので、広い場所でしっかりと走れるようにする調教としては効果があるとも思います。
馬に乗っていて、馬の集中力といいますか、他に気を取られることなく走ることができているかというのは、わかりづらいですがとても大切だと思います。Dコースは地方競馬よりも広いだけに、そういう面での効果も期待できるわけです。
逆にダートが嫌われるところは、先ほども申し上げたように天候に左右されるということでしょう。
コースにはそれぞれ特徴があって、それらを上手く使っていくことで、その馬のベストを求めて調教が行われているわけです。
北馬場にはウッドチップコースがありません。4つ、坂路を入れると5つのバリエーションがある南馬場の使用頻度が高いのは、そういう理由なのです。
※西塚助手への「指令」、質問、西塚助手へのメッセージなどを募集しています。上部リンクからお送り下さい!