魅力あふれる競馬を、100年後も残していくために
2013.8.8
大竹正博調教師…以下
[大]西塚信人調教助手…以下
[西][西]それにしても、若い人たちが馬券を購入しないというのは、大きな問題ではありませんか?
[大]何にお金を使っているのでしょうか。車でもないと聞きます。
[西]よく携帯電話にはお金を使う、と言われますよね。
[大]ゲームですか。競馬、あるいは馬券の方が面白いと思いませんか?
[西]現実ですからね。ただ、給与の額から、そこまでお金を使えないということもあるように思います。
[大]FXみたいな馬券、ないのかなぁ。
[西](笑)。株みたいな馬券も良いかもしれませんよ。
[大](笑)。あと、クラブ法人の権利も売買できるようにしても良いと思います。もう少し融通が利いて、みんなが楽しいと思えるようにしていっても良いと思うんですよ。
[西]あ、それです。“楽しい”というのが基本であるべきですよ。馬主さんはもちろん、馬券を購入するファンの方々も楽しいと思えることが大切だと思います。
[大]競馬場は人間の本性をさらけ出すところであっても良いとも思うんです。普段街を歩いているときよりも、綺麗な女性がいて、お金が欲しくて、一発逆転を狙って、それを素直に求めることができるのが競馬場であっても良いのかな、とも思うんです。もっと、本能に従って良いのかもしれませんよ。生き物を扱っているということでもありますし、競馬って、本能に響く存在なんでしょう。
[西]パドックで5本脚で歩いてしまってはマズイですけどね(笑)。そういえば、大竹厩舎の馬たちにはそういう馬が多くありませんか?
[大]そうなんですよ(笑)。
[西]ひょっとすると、もっとギラギラ感があっても良いのかもしれませんよね(笑)。
[大]スマートになり過ぎなのかもしれませんね。
[西]最近持ち乗り助手として再確認していることなのですが、担当馬が4コーナーで抜け出してくるときの、あの快感は何にも代えがたいものですよ。
[大]そうですよ、それ。競馬の醍醐味じゃないかな。担当馬、あるいは馬券を買った馬が直線で抜け出してくる快感は代えがたいはずですよね。
[西]大袈裟な言い方と言われるかもしれませんが、そういう快感を味わったために、それが人生の目標となったりする可能性さえあるはずなんですよ。
[大]そういうアウトロー的な格好良さが求められなかったりもするんでしょうね。雀荘通いしている大学生とかいるんですか?
[西]いまはオンライン麻雀じゃないですか。
[大]そんなのあるの?
[西]僕はやりませんが、凄いのがありますよ。それ以外でも、合コンとかやっているんですかね。
[大]どうなんだろうね(笑)。
[西]パート1国入りと騒がれましたが、そこにはスポーツ化ということが中心で。それと興行という側面は相反するとも思うんですよ。
[大]日本競馬は世界に追いつけ、追い越せで頑張ってきた。ただ、文化の違いというか、競馬の立ち位置の違いという面はありますよね。例えば、海外ではスクラッチという制度があります。馬場や何かによって当日エントリーを取り消すことができるというものですが、そういった例からも分かるように、馬優先であったり、強い馬を残すというルールが整っていると思います。それと、日本では、公正は公平だという意識がありますが、それはイコールではないですよね。もう少し柔軟な対応があっても良いはずです。
[西]公正と公平は違う。わかります、わかります。また、売り上げが下げ止まらず、経費削減が行われています。
[大]そもそも、競馬の成り立ちを考えたとき、賞金の原資は馬主の人たちが持ち寄ったお金。つまりステークスマネーでした。いま凱旋門賞などは登録賞金を1200万円近くとすることで、賞金の高額化を図っています。それとスポンサー制度の導入です。馬券の売り上げだけでなく、そういう部分にも原資を求めていくことは決しておかしいことではないでしょう。
[西]登録料が高額であるということは、より本気というか、勝算がある馬しか登録してこなくなるということでもあるわけですよね。それと賞金ということで言えば、世界的にはスポンサー名が冠に付くくらいになっていますので、それによって馬主さん、さらにはファンにサービスが提供されるならば歓迎されるべきでしょう。
[大]最近、特に痛感するのが、もう少し馬が中心であるべきだということなんです。普段は火曜日から土曜日まで解放されている検疫業務ですが、この時期は北海道に人手が取られるので、火曜日は休みとされているんです。でも、馬は一番大事な資産であり、競馬の主役なんですよ。極端な言い方をしますが、普段から週休1日でトレーニングされているわけで、その頑張りが競馬を支えている。それなのに、その馬たちがより良い競馬を提供するために移動することが、人間の都合で妨げられているんです。
[西]現場としては、残業手当を支払っても、そこは頑張ってもらいたいところですね。
[大]いろいろな問題があるのもわかります。ただ、そもそも競馬会の職員の方々には、競馬や馬が好きでいてもらいたいと思うんです。その報酬は馬が走ることで得ているんですから。
[西]絶対に忘れてはいけないことだと思います。ある人が、“走っているのが馬じゃなければ駄目なんだ、という思いを忘れてはならない”と言っていたのですが、重い言葉です。馬って、人知を超えている部分があって、本当に魅力的なんですよね。
[大]そこが他のギャンブルと違うところですよ。
[西]実際、自分が想像している以上の力をみせてくれることがあります。それが競輪やボート、あるいはオートバイにはそれはないはずですよ。
[大]そこは馬が持つ大きな魅力のひとつです。そこを伝えていかなければいけないですよね。簡単じゃないけど、それが大切。調教師としては、競馬に送り出す馬で伝えていきたい。
[西]最近、馬の普段とは違った面白さに魅せられているんですよね。というか、こういう言い方をしたら失礼かもしれませんが、先生って見かけとは違って馬をよく見ていらっしゃいますよね。
[大]どういう意味(笑)。
[西]僕たちは先生が獣医師の資格を持っていらして、馬を触っていることはよく知っているんです。ただ、一見合理主義といいますか、システマチックに厩舎運営をしているイメージを持っている人もいたりするんですよ。
[大]いろいろな人に助けてもらってはいますが、馬を見ることは欠かしません。炎天下であっても、牧場に行っているとき以外は、全部の馬を見て、触ります。今日遅れたのも、馬を触っていて、いろいろ話をしていたからなんですよ。すいません。
[西]いえいえ、そんなお忙しいときにありがとうございます。全く話が変わりますが、お聞きしたいことがひとつあります。先生もご存知だとは思いますが、「大崎先生の家から15-15」という松山康久先生が使うフレーズについてなのです。大崎さんというのは旧姓でいらっしゃいますよね。
[大]というかそのフレーズ、初耳ですよ。
[西]えっ、本当ですか。松山先生は騎手たちに対して「大崎先生の家から15-15」というような表現をされているんです。
[大]はははは。確かにウッドチップの三分三厘の地点には、以前の実家があります。
[西]そうです。だから「大崎先生の家から15-15」というフレーズが生まれたんですよ。でも、柴山さんのような地方から来られた方はもちろん、若手騎手たちも最初は「大崎先生の家って何?」となるらしいんです。
[大]そうなるだろうね。
[二人](笑)
[西]いやぁ、数々の名言がありますが、「大崎先生の家から15-15」は残してもらいたいですよ。冗談はさておき、最後に調教師さんとしての目標を教えてください。
[大]真面目な話をしますね(笑)。
[西]基本的には、酒を飲みながら、馬や競馬の話をして、それを読者の皆さんにお届けするという主旨なのです。少しは真面目な話をしていただければと思います。
[大]立ち位置としては、調教師は面白いと思います。馬との関わりはもちろん、人間関係も、競馬を取り巻くすべてを見ることができます。演奏で言えば指揮者という感覚なのかもしれません。だからこそ、いま以上に、10年、いや100年後に競馬がどうなっていくのかということを考えなければならない、という思いはあります。競馬って、社会で成功者とされる馬主さんたち、一般のファンの方々が一緒になって夢中になる、それくらい魅力のあるものなんですよ。その主役が馬だからこそ、そうなるんだと思います。そんな競馬を、日本において100年後も、さらにその先も繁栄していってもらいたいんです。
[西]1頭の馬が出走するまででさえ、多くの時間と労力と、そして大金が投じられているんですよね。
[大]1頭、1頭にドラマというか、ストーリーが存在するんですよね。それは競馬が持つとても大きな魅力のひとつでしょう。
[西]いやぁ、今日はお忙しいところありがとうございました。この後は、ぜひ音楽の話を。
[大]あ、いいですねぇ。
※来週からは、西塚助手が皆さんからの質問にお答えします。西塚助手への「指令」も募集中。質問、素朴な疑問を、上部リンクからお送り下さい!