レース前に騎手に対してする話は、微妙で繊細なものなのです
2013.10.17
いやぁ、昨日の台風は凄かったですね。みなさんは大丈夫だったでしょうか。
トレセンは
6時の馬場開場時間が10時に延期され、午後3時までになりました。さらに角馬場とダートコースのみ使用できるという状況のなかで調教が行われました。
朝一は普通に出勤して、延期ということで2時間ほど待機して、そこから5時まで働き続けたんですが、さすがに疲れました(苦笑)。
まあ、風雨のなか調教することもありませんし、晴れてから調教ができたことは良かったです。
ただ、馬場がダート、しかも当然ながら、
不良状態だったんです。
なかには追い切りを延期する厩舎もあったようですが、うちは多くの馬たちが積極的に追い切りを行いました。
追い切る日は厩舎、そして馬によって違ってくるのは当たり前なのですが、何曜日に出走するかによっても変わってきます。
話は逸れますが、実は
美浦トレセンというのは標高が20mの地点にあるそうなんです。生まれ育ったはずなのに今回のことで初めて知ったんですが(苦笑)、そのために水はけが良いそうです。
朝一では地下馬道に水が溜まってしまったようですが、結局調教が始まるときには収まっていました。
今週は、そんな状況のなかでの追い切りでした。
さて、今週は
PN乱菊さんからいただいた、
「騎乗する騎手にどれくらいの指示またはお願いをするのですか? 指示なしで騎手任せもあるんでしょうか?」というご質問にお答えしたいと思います。
いきなりブッチャけさせていただきますが、個人的には
もの凄く微妙というか、繊細な部分を含んでいると思っています。
騎手に対して伝えることというと、まずは馬の特徴ですね。
例えば、
右にモタれる、行きたがる、あるいは馬混みを気にするというような、我々厩舎サイドが知り得る情報を提供することになります。
どう乗るかということについては、基本的には調教師が直接、あるいは我々調教助手や担当厩務員さんを通して伝えることが多くなります。
僕としては、初めて乗る、いわゆるテン乗りの場合は、癖や特徴をある程度伝えた方が良いと思っています。それが武豊さんであろうと、(横山)ノリさんであろうとです。
ただ、馬の特徴を伝えることと、どう乗るかということは全く別です。
特徴を伝えることは、どう乗るのかということと同じくらい繊細なことで、そのひと言が勝負を分けることがあるんです。もっと言えば、同じ言葉でも、言う側、聞く騎手側、または状況によっても違うものになるんじゃないかと思います。
ひとつ例を挙げますと、あるトップジョッキーに
『モタれるところがあります』と言ったところ、4コーナーで騎手は外へ持ち出しましたが、ハナ差負けてしまったんです。
引き上げてきた騎手の方からは
「見ていても、実際乗っても、モタれるところはなかった。ただ、モタれるところがあるという言葉が気になったので、敢えて外に出したが、もしそこで内を突いていたら勝てていた」と言われたということなのです。
もちろん、逆に特徴を告げたことで成功することもたくさんあります。
今年の
桜花賞も、
(丸山)元気は
クリスチャン(デムーロ)に勝てるようにと、一生懸命に話をしていたそうです。
何が言いたいかというと、言葉を選ぶのはもちろんですが、相手、そして状況によっても言葉を選ばなければならないということです。
先程のケース、聞き手の騎手によってその言葉の重みというか、影響力に差が出てきます。先ほどのように言葉を意識して外に出す人もいれば、気にすることなく内を突く人もいます。実際、情報を収集する人もいれば、何も聞かない人もいます。
また、伝える側が調教師なのか助手なのか、その立場でも違ってくるでしょうし、それぞれの個人差もあります。例えば、強気な人もいれば、いわゆる“泣き”の人もいるわけですよね。
あと、僕自身を例にあげさせていただきますが、関わり方も影響するはずです。例えば、初めて会話をする人と、松岡や田辺をはじめ普段から付き合いがあって、僕の性格や馬に対する感覚を良く知る人では受け取り方に違いが生まれることはあり得ます。
それより何より、“モタれる”というひとつの癖にしても、前回はモタれたけど、今回はモタれないということもあるわけですよね。
僕自身の感覚としては、一応知り得る情報は伝えますが、後は返し馬で乗った感覚でお願いします、というのが一番良いのかなと思っていますし、そう伝えるようにしています。
昔、西塚厩舎のとき、武豊さんにノボワールドという馬に乗ってもらったときには、
「田辺(その前走で騎乗していた)が『結構かかる』と言っていました。お願いします」という伝え方をしたことを覚えています。
ただ結局、距離も短くなっていたこともあって、引っ掛からなかったんですよ。
そう考えると、
あまり伝え過ぎるのも先入観を生んでしまうので良くないでしょうし、伝えなさ過ぎるのもまた良くないと思います。
一方、最初に話をしたことですが、どのようなレースをするかということについては、もし伝えるならば基本的には調教師からということになります。
あとは、オーナーからのリクエストもあります。西塚厩舎時代は、行ってほしいというリクエストもありました。そのときには
「とにかく行くつもりで乗ってください。それで行けなかったとしても、行く姿だけはみせてください」と伝えていました。
まあ、それでも思う通りに行くことの方が難しかったりします。そういうなかで、やりましたという姿だけはみせてほしいということを伝えさせていただきました。
このように、騎手との話は、勝負を分ける可能性もあるくらい重要なことなのです。ハッキリしねぇと言われてしまいそうですが、そのくらい繊細だということです。
実際、右にモタれると聞いていて、しかも素振りをみせている馬に乗ったときに、それが右回りだったときに外に出すかと言えば、外には出さないです。また、引っ掛かると聞いて、その素振りをみせている馬ならば、ゲートから出していかず、そろっと出します。
これは、実際に乗った感覚を、我々の言葉が後押しする形で、心理に影響しているということになります。そういう繊細さが含まれているということなのです。
上手く説明できていないかもしれませんが、騎手への馬の情報伝達というのは決して簡単ではないということなのです。
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