“続けて乗る、乗せる”ことのメリットは大きいはず
2013.11.28
田中勝春騎手…以下
[田]西塚信人調教助手…以下
[西][西]最近、ウチの厩舎の攻め馬に乗っていただいているんですが、個人的にモタれる馬が多いように思うんです。
[田]多いかもな(笑)。
[西]そうなんですよ。トモのハマりに要因があったりするのかなと思ったりしているんですが、どうですか。
[田]まあ、ひとつ言えることはバランスが良くないんだろうね。
[西]いやぁ、そういう面を含めて、癖などを把握するのは難しいですよね。
[田]実際、乗ってみないとわからない部分があったりするからな。例えば、普段は引っ張ると右に行く。でも、速いところで放すと真っ直ぐ行くので、少し気をつけてみてくださいという言い方が良かったりするかな。上手く言えねぇな(笑)。
[西]その言葉選びのセンスってあると思うんですよね。ただ、ある程度は返し馬で把握されていらっしゃいますよね。
[田]レースももちろん観ているし、返し馬で把握はする。でも、返し馬とレースでは違うこともあるからね。
[西]返し馬が良かったのに、レースになったら『あれっ』ということもあるわけですよね。
[田]その逆もあるし、実際走ってみるまでわからないよ。
[西]レースによっても違うでしょうしね。あと、騎手同士で癖を教えあっていたりますよね。それは正確だったりするものですか?
[田]癖があるから言うわけだよね。だから、聞く方としては癖があるという認識をしていれば対応できるし、それが出なければラッキーということなんだよ。何もないと言われていて、出された方が困る。まあ、実際レースで乗っているわけだから、騎手同士はやはり正確だよ。
[西]いまの時代は乗り替わりが当たり前となってきていますので、余計に気を遣いますよね。
[田]時代の流れと言ってしまえば、それまでだけど、やはり最初から自分で乗っていくのが良かったりするんだよね。
[西]やはり、そういう感覚はありますか。
[田]最初から乗っている馬を放したくないというのとはまた違うんだよなぁ。言葉が難しいんだけど、乗っていたいんだよ。
[西]続けて乗る面白さみたいなものもありますよね。
[田]そうなんだよ。乗り替わりが良いか悪いかはわからないけど、少しレベルが落ちる馬が何人も手替わりすると、走らなくなってしまう可能性が高くなると思う。思惑通りの成績が残せず、僅かに何かが足りない馬というがいるんだけど、そういう馬はあまり替えない方が良い結果が出るんじゃないかと思うんだよ。
[西]ただ、そういう馬たちというか、あと少しというときにむしろ替えたがるというか、乗り替わりのタイミングとされています。
[田]もちろん馬のタイプなんかもあるんだけど、乗せる方もこの馬にはこの騎手、この騎手にはこういう馬というような感覚で乗せた方が良いと思うんだよね。
[西]合う、合わないはあると思いますし、トップの方がすべてに対応できるということではないはずですよね。
[田]乗り方の癖だってあるわけだよ。例えば、重心の位置、拳の入れ方など、いろいろあるんだ。馬も背中の敏感な馬もいれば、口の敏感な馬もいる。
[西]そうですよね。
[田]背中や口が敏感な馬に、当たりの硬い、強い騎手よりも当たりの柔らかい騎手の方が良いわけだよ。ズブい馬には少し重心が後ろに掛かる騎手を乗せた方が良いし、逆に敏感な馬は前目の重心で乗る騎手の方がスッと折り合いが付きやすい。
[西]そういう意識って大事ですよね。馬に合わせてということですよね。
[田]馬との呼吸が合う騎手を選んで乗せた方が良いと思うんだけどね。
[西]そう考えると、ウチの馬たちに対して、調教助手3人それぞれも合う、合わないがあるということだったりしますし、助手と騎手の相性もあったりするということになりますよね。
[田]あるよ。だから、アンチャンの頃は、ウチの助手3人のそれぞれの乗り方の特徴を観察していたんだ。そして、それぞれの馬に対してなるべく同じような乗り方をするようにしていた。
[西]そうなんですか。そうなると、上手いとか、下手とかのレベルではなくなってきますよね。
[田]どれだけ神経を使って、観察しているかということなんだよ。普段乗っているように乗ることができないと、馬も指示を聞かなかったりする。
[西]助手さんの乗り方をコピーしないと駄目ということですよね。
[田]そう、モノマネだよ。乗る方が「俺が俺が」でいってしまうと、馬が普段と違うから構えてしまうんだ。
[西]深いですねぇ。でも、馬場に向かって行かない馬とか、角馬場で変なことをする馬というのがいますが、そのときは上手に対応できている乗り手と同じように対応すると上手くいったりします。
[田]この前、ある1頭の牝馬がいたんだ。地下道から向かうと、Aコースに飛び込んでいくんだよ。わがままさせないようにと、1回抑え込んで飛び込ませないようにしたら、もうヘソ曲げてしまって、イライラし続けてしまった。駄目だと思って、やらせたら納得して、落ち着いちゃったんだよ。
[西]わかる気がします。
[田]そういう意味では昔は、北か南しかなかったから、乗っている姿を見る機会が多かったけど、いまはコースも増えて見る機会そのものが少なくなっているから、より意識して観察しないと駄目なんだよね。
[西]うちの厩舎で番組を組むときには、癖が付かないようにということで、敢えて乗り替わりをするようにしたりもするんですよね。それはどうなんですかね。
[田]馬にもよるし、状況にもよるよ。ただ、基本的には替えない方が良いと思うけど。替えても良いけど、意識が大事だよ。例えば、普段洋一(矢原助手)が乗っている馬に信人が乗るときに、普段の接し方から乗り方まで、どこまで観察していて、意識することができているか。大切なことだよ。
[西]いやぁ、重い言葉ですね。あと、これはうちの親父が僕に繰り返し言ったというか、遺言みたいなものなんですが、騎手に対して文句を言うのであれば、乗せ続けなければ駄目だということなんですよね。
[田]親父は良いこと言うねぇ(笑)。
[西]ありがとうございます。
[田]いや、失敗して怒られるのは当たり前だよ。ただ、怒るのであれば乗せ続けないと駄目。乗り替わりをさせるのなら、何も言うべきではないよ。もの凄く怒っておいて、それで乗り替わりというのは良くない。
[西]甘いとか言う人がいるかもしれませんが、決してそうではないですよね。
[田]踏みつけるだけ踏みつけて、それで捨てるんじゃ、思いがなくなってしまうよね。
[西]何とか頑張ろうとか、思わなくなってしまいますよね。あとひとつ、お聞きしたかったのが、勝春さんは膝を開けた状態で馬を追われますよね。あれはどういう意味があるんですか?
[田]膝を開けることで、衝撃を膝で調整することで、馬の背中の動きを邪魔しないようにしているんだよ。
[西]あっ、そういうことなんですね。いや、いろいろ楽しいお話をお聞かせいただきましてありがとうございます。最後に、今年ここまで好調でいらっしゃいます。
[田]特別好調ではないよ。だってまだ52勝(対談当時)だから。
[西]イメージとしては好調だと感じるんですけど。
[田]そんなことはないよ。
[西]こんな言い方をしたら怒られてしまうかもしれませんが、まだまだ勝春さんはやってくれると期待しています。もちろん、自信があるのでしょうけど。
[田]当たり前だよ(笑)。まだまだ若い奴らには負けないし、やれる自信もある。
[西]最後に素敵な言葉をありがとうございます。またぜひ、2回目をお願いしたいと思っていますので、早速予約をお願いいたします(笑)。
[田]OK(笑)。
[西]今日は本当にありがとうございました。
※次回からは、西塚助手が皆さんからのご質問にお答えします。上部リンクからお送り下さい!