当事者となった経験から、現在の裁決に関して思うこと
2014.4.3
ご存知の方々もいらっしゃると思いますが、先々週、
スパークルキャットが2着となったレース(3月21日中山5R)で、審議ランプが点灯しました。
昨年ルールが改正されて以降、着順が入れ替わる可能性があるとき以外は審議ランプが点灯しなくなりました。そのため、ランプが点灯すると、着順が入れ替わる可能性があるとされています。
この時、実は私西塚は臨場業務に行っていました。この“臨場”について改めて簡単にご説明しますと、調教師及び代行の資格を持つ調教助手が、出走馬に対して、装鞍所に馬を引きつけ、鞍を装着して、レースが確定するまで責任を持って対応するということです。
ですからこの時、審議について裁決委員の方々から私が説明を受けることとなりました。
もし、そこで異議を申し立てる場合には、私が行うことになるわけですよ。
今回は、引き上げてきて
スパークルキャットに騎乗していた吉田豊さんとお話をした際に、
「大勢が決していた後なので、事象の有無に関わらず、変わることはない」と仰っていたんです。
その際の検量室の様子ですが、裁決委員の方々の精査が終わると、被害馬の関係者として、臨場業務を行った人間と騎手が裁決室に呼ばれ、パトロールフィルムを見ながら説明を受けます。
「江田さんの動きは走行妨害にあたりますが、しかしそれによって着順が入れ替わったとは言えないとして、着順はそのままに確定します」と言われました。
その後、周囲から冗談半分に
「3万円持ってなかったのか」などと言われたりして、一瞬ハっとしたんです(苦笑)。
どういうことかと言いますと、もし決定に対して申し立てをしたい場合、3万円を添えてその場で行うことが認められています。
臨場業務は装鞍所に馬を引きつけ、鞍を付けて、送り出し、レース後で迎えて、後検量を経てパトロールフィルムを見てウチの先生に報告するという流れだと思っていましたが、それ以上の責任があるということを改めて実感させられました。
ところで、新しい降着のルールになって1年が過ぎ、降着となるケースは減っています。
あくまでこれは個人的な感覚なのですが、パトロールフィルムを見ただけではわからない部分、もっと言えば競馬に乗っている騎手にしかわからない部分というのが絶対にあると思っています。
いまのルールが良い悪いは別にして、着順が入れ替わったと認められた場合のみ降着となるとされています。
つまり、入れ替わったどうかわからない場合には、そのままとするということですよ。
入れ替わったどうかを判断する基準のひとつとして、被害馬の手応えというものもあると思います。しかしそれは映像だけで正確に、しかも完璧に判断できるかどうかということについては、極めて難しいと思うんです。
また、減速してから再び加速したその度合いも判断の基準ということですが、エンジンの掛かりが遅いタイプもいるわけで、その不利が致命傷になってしまい、加速が認められないケースもあり得るでしょう。
そこも難しいと思いますし、さらなるルールの進化というか、改善が求められると感じます。
誤解してほしくないのは決して批判ではありません。まして、僕が調教師試験を受けているからということでもなく、いま現在このルールで施行されている以上は、それに従わなければなりません。
ただ、法律もそうですが、より良い方向に向かって改善されることは決して悪いことではないはずです。
例えば、以前小林久晃さん(元騎手)と対談したとき、
「俺たちにとって競馬の映像は3Dなんだ」と言っていた言葉が忘れられません。
やはり、競馬に乗ったことがないとわからない感覚というのは存在するはずです。
もちろん、騎手経験者の方々が裁決委員に入ったとしても本当に交わせたかどうかということについては見解がわかれることもあるでしょう。簡単にいかない部分があると思います。
逆に、僕自身も裁決委員の方々に対し、VTRを見ただけで
「これは交わせた」と言い切ることはできませんし、絶対に交わせたという確信は持てないです。
その部分は本当に難しいと思いますし、元騎手の調教師さんや助手の方々だったならば、なおさら慎重になるんじゃないかと思います。
それこそが、久晃さんの3Dという言葉だと思うんです。
改めて申し上げますが、今回の裁定については何の不服もありません。
ただ、当事者となってみて感じるのは、新しいルールはルールなのですが、改善される余地を感じるというか、正直ルールが持つ難しさみたいなものを感じさせられました。
主観を言わせていただければ、もし交わしていたのならば、例えあの事象があったとしても勝っていたはずです。
我々としては、スパークルチャットを次走に向けて良いコンディションで送り出せるように改めて頑張るだけなのです。ところが、我々関係者と馬券を購入している方々とは納得感が違うのでは、と想像します。
ルールに則って競馬が行われているわけですが、そのルールは馬券を購入する側の立場に立ったものではないということなのかもしれません。競技としてはそれで成立するのでしょう。
ただ、馬券を販売して、購入していただいて、そのお金が資金源となっているのがJRAの競馬です。
そうである以上、馬券を購入しているお客様方が納得できるかどうかということも大切なのではないでしょうか。
よく裁判において社会通念上という言葉が使われますが、ファンが納得するというか、もっと言えばわかりやすさという面があっても良いのではないかという思いを持ちます。
そういう言い方をすると批判と言われてしまうかもしれませんが、決してそうではなありません。今回当事者になってみて、競馬がより良い方向に向かい、産業として再び盛り上がってもらいたいという思いからも、ルールが関係者だけではなく、馬券を購入しているお客様方にとっても、よりわかりやすく、納得できる形になっていってもらいたいと切に願うものなのです。
※西塚助手への質問、「指令」を募集中。競馬に関する質問、素朴な疑問をお送り下さい!
|