デビューに向かう2歳馬も“下ごしらえ”が大事です
2014.5.22
来週に
ダービーを控えていますが、今年も2歳馬が入厩してくる時期になってきました。尾関厩舎でも、いま現在4頭の2歳馬が調教に励んでいます。
そのなかで一番順調と言えるのが、一番先に入厩してきた
リミットブレイク(牡、父サクラバクシンオー、母マザーウェル)かと思います。こちらは東京開催でのデビューも視野に入っている感じです。
あとは、先日のJRAブリーズアップセールで購買された馬も調教が進められています。
ところで、前回までお送りしてきた
柴田未崎騎手との対談でも申し上げた通り、我が尾関厩舎では入厩してきた初日、あるいは入厩してきた馬たちに騎乗する担当が僕、という流れになっています。
この時期の2歳というのは、僕だけでなく多くの関係者の方々が
「難しい」と言われていますが、本当に難しいものです。
4頭以外にもう1頭入厩していたんですが、化骨が遅れ気味ということで歩様が悪くなってしまい、牧場にUターンしてしまいました。慎重の上に慎重を重ねて進めていても、そうなってしまうことが往々にしてあります。
逆に言いますと、2歳のこの時期に順調に調教を消化できていることそのものが、大きなアドバンテージとなるということです。
あと、この時期の2歳馬は、物見をしたり、あるいは音に対して敏感だったりというのはある程度覚悟をしていると言いますか、想定内のことなのですが、そのような状況において自分を見失ってしまう馬というのがいます。
いわゆるパニック状態ということなのですが、そうなってしまうと危険度が増してしまうのです。
このような状態に陥ってしまったときは、落ち着くの待つか、そうならないようにするかという2つしか対処方法がないのが現実です。パニックなのにステッキを入れたら、さらに混乱を助長することになってしまいますからね。
ゲート試験に向けて順調に進めていて、あるときに入るのを躊躇したときに、怒ってひっくり返ることもありました。その馬も自分を見失ってしまうタイプだったんですが、一層気をつけなければ大きい事故に繋がってしまいかねないのです。
また、自分を見失うタイプの馬というのは、自分を持っているというか、我を持っていたりするので、納得させながらひとつひとつ調教を進めていくことが重要だったりします。
そして、それができたときにはいわゆる“走る”馬たちが多かったりするんですよね。
だからこそ、乗り手がそれぞれの馬の特徴について正確に把握して、乗る人間で共有することが大切だと考えるのです。
自分を見失うタイプの馬に対して、拒否したときに叱りつけてしまったためにパニックとなってしまい、そうなりやすくなってしまう場合もあります。逆に叱らなければいけないところで叱らなかったために、悪い方向に行くこともあり得ることです。
ある人が乗ったときには大丈夫なのに、ある人が乗るとモタれるとか、ある人が乗ったら折り合うのに、ある人が乗ると引っ掛かるというようなこともあります。
我々の対応が、馬の一生を決めてしまいかねないと言っても過言ではないのです。だからこそ、2歳馬に対してはより慎重に、できる限り正確にその特徴を把握するように努め、それぞれ乗り手が情報を共有するように努めなければならないと思うのです。
個人的には、料理と一緒と言ったらご批判を受けるかもしれませんが、
“下ごしらえ”が大切だと僕自身は感じています。手順を踏まずに下ごしらえを怠ると、出来上がったときに大変なことになってしまうということなのです。
ゲートで言えば、いきなり閉まっているところから出そうとしても、ほとんどの馬が出ません。まずはゲートに近づくところから始まって、それに対して馬がみせる反応を確認しながら、こちらが対応していくことが大切だと思います。
いまは育成牧場でしっかりと調教をされてきているケースが多いので、入厩してきた段階でゲートを認識している馬がほとんどだったりします。ところが、なかには環境が変化した影響などからゲートに対して近づこうとしない馬もいるのです。
逆に、人間でも天才と言われる人がいますが、そういうタイプは馬のなかにもいて、ゲートに関して抜群のセンスをみせる馬がいるのもまた事実なんですよ。
障害でも、乗り役さんたちに聞くと、いきなり3連続障害を飛んでみせる馬がいるらしいです。
その場合はそういう対応をすれば良いと思います。ただ、何かしら反応をみせたときには、時間を必要とすることになっても、手順を踏んで進めていくべきですよ。
ゲートで言えば、向けたときに一瞬でも躊躇、あるいは拒否をする素振りをみせたとすると、極論かもしれませんが、その時点で駄目です。
それは何かを不安に感じているということなわけで、その時点でゲートに対して不安があるということです。不安があるのに、次のステップには進めませんよね。
それ以外でも、何か上手くいかないようになってしまったときには、最初まで立ち返ってひとつひとつ順を追ってやっていくしかなくなってしまいます。
厳しいと思われるかもしれませんが、ステップアップしていったときのことを考えれば、かなり高いところで合格ラインを設定しておくべきだと考えます。
決して長くはない僕の経験のなかですが、些細な反応であったとしても決して見逃さず、細かいところまで拘りながら馬と接していくことが大切だと実感しています。
そうしないと、また振り出しに戻らざるを得なくなってしまいますから。
また今年も2歳戦が始まりますが、どうかみなさん走っている馬たち1頭1頭はいろいろな下ごしらえが行われて、そこにいると思って見ていただければと思います。
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