今の時計のかかる美浦の坂路は“あり”じゃないかと思います
2014.5.29
ファンの皆様もご存知の通り、いま美浦の坂路は以前よりも時計がかかっています。その日の一番時計を基準にすると、以前は50秒あるいはそれを切るくらいでしたが、最も掛かっていたときは53、54秒くらいまで遅くなっています。
もちろんこれは自然現象でもなく、水捌けが悪いとかそういうことではなくて、負荷がかかるように、意図的にそのようなコンディションにされているんです。
実は最近、JRA職員の方々とこの坂路についてお話をする機会がありまして、いろいろお聞きしました。今回はこの件についてお話ししたいと思います。
トレセンでは各コースの整備を行うために、車でハローをかけられています。皆さんは、競馬場のダートコースをレースの合間に整備する際に行われているのを見たことがあると思います。
このハロー車は、爪でならした後、圧をかけて平らにするという形態になっています。農作業のように耕して、固めるという作業なのですが、このバランスで調整しているのです。
耕すための爪を深くすればするほど、走りづらい状態になり、圧をかけて固めれば固めるほど走りやすくなるということなのです。
これは天候なども考慮しながら調整しているそうなのですが、いまの美浦の坂路は“固める”という行程を弱めることで、負荷がかかるような馬場コンディションを目指しているそうです。
爪を深くすると脚が深くまで入ってしまうために良くないということなので、固めることを抑えるようにしているそうです。
その状態については賛否両論で、負荷が掛かって良いという意見もあれば、危ないという意見もあるそうです。
実際に乗りますと、馬が走りづらそうだと感じますし、固められていたときと同じ走り方とはいかなかったりするんですよ。
ですから、より体をしっかりと使わざるを得なくなり、負荷という部分ではやはり掛かっていると言えると思います。
そういう意味では、程度は別にして効果はあるはずです。もちろん、球節の上まで脚が入ってしまうような状態は受け入れられませんが、このやり方はやり方で“あり”なんじゃないかとは思います。
時計が出なくなったと言う方々もいらっしゃいますが、その馬場コンディションに対しての時計を見ればいいと思うんです。
良馬場と不良馬場では時計が違うのは当然ですし、速い時計で走ったから必ずG1を勝てるということではありません。逆に不良馬場で遅い時計だったからと言って能力がないということは必ずしも言えないわけですよね。
何が言いたいかと言うと、時計が掛かる坂路という現状は、それはそれで良いと思うんです。一番時計が53秒で何が悪いかと言えば、何も悪くないんですよ。
もっと言えば、下が気になりますと、乗り手が馬を起こしますし、馬もより起きて走ることになりますので、坂路が持つ効果がより得られることになるはずですよ。
ただひとつ、馬場状態をコロコロと頻繁に変えられてしまうと、人馬ともに困惑しますので、それだけで避けていただければ良いと思います。
怪我についても、個人的には脚が入る分なのでしょう、切り傷、スリ傷は増えたように思いますが、ミスステップで脚を捻ったというようなことは経験していません。
あとは、他の厩舎の人たちから聞くのは、落鉄は多いということのようです。
あっ、それともうひとつ。賛成派、反対派問わず言うのは、最初のフラットな部分が悪過ぎるということです。そのことについては、僕自身も乗っていて酷いと感じます。
恐らくは、みんなが通るからということもあるでしょうし、雨水等がそこに溜まってしまうからということなどもあるのでしょうが、かなり酷い状態です。
それと、形状ということも影響しているのかもしれません。これについてはまたお話をさせていただきます。
ところで、以前アイルランドで活躍されている児玉調教師にお聞きしたのですが、欧州はより自然の状態で競馬が行われています。
スクラッチという制度はあるものの、基本的には大雨でも開催できるのならば開催され、馬場は日本のように整備はされず、ほぼ自然の状態のままだそうです。
その話をお聞きしたとき、世界一を目指して海外へ挑んでいくということのなかには、そういう馬場コンディションのなかで強い馬たちと戦わなければならないわけで、それさえも克服しなければならないと痛感しました。
美浦では戸田先生のところがそうなのですが、敢えてハロー明けの馬場が良いときを狙うのではなく、馬場が荒れた状態を狙って調教を行うことも大切なんじゃないかと思うんです。
もちろん、ハロー明けの良い状態を狙うことも“あり”で、それぞれの馬、そしてそのときの状態などによって決めれば良いと思います。
話がまとまらなくなってしまいましたが、答えは決してひとつではなくて、その時々の状況を受け入れ、そのなかでより良い方法、選択肢を選んでやっていくことが大切だということなのです。
坂路についても、いまの状態は状態で“あり”だということです。それについて、ファンの方々は馬券検討の際には、いまの美浦の坂路は“時計がかかる”ということを考慮していただければと思います。
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