コディーノと共有できた時間は尊いものだと思います
2014.9.26
杉原誠人騎手…以下
[杉]西塚信人調教助手…以下
[西][西]杉原はいわゆる走らない馬にも乗るだろうけど、良い馬が揃うと言われる藤沢厩舎で調教に乗っているわけで、その差を感じたりするの? 走らない馬ばかり乗っていると、走る馬の感覚を忘れてしまって良くない、という意見を唱える人もいますよね。
[杉]ウチの厩舎の馬たちの手応えを味わうと、正直凄いなと思います。
[西]藤沢厩舎でも、何かボタンの掛け違いで燻ってしまう馬もいるとは思うんだけど、そういう馬たちも含めて、
「この馬凄い」と感じた馬っている?
[杉]やはり
コディーノです。
[西]あっ、そう。そんなに凄かったんだ。
[杉]凄かったです。ノリさんに
「あの馬の背中を味わうことができるのは貴重な経験だ。財産になるぞ」と言われたんですけど、乗ってみて凄いと感じさせられました。上手く言葉にはできないんですけど、すべてが違ったんですよ。
[西]乗り味が凄かったの?
[杉]乗り味というか、何と言えば良いかな。あ、芝コースでの追い切りに乗ったときなんですが、初めて馬の脚が取れてしまいそうだと感じたんです。体が分裂してしまうんじゃないかと思うほど、抜群に体が動きました。北村先輩と併せ馬の形となって、直線でハミを取って結構良い勢いで出ていったんですが、
「脚が取れてしまいそうです」と言ったことを覚えています。
[西]よくわからないけど、凄いということは伝わるよ(笑)。
[杉]すみません、上手く説明できなくて(笑)。でも、そこで(手綱を)放したら、どこまで伸びていくんだろうと思ったのは間違いありません。
[西]コディーノって、凄く脚が速そうな印象を感じさせる馬だった。
[杉]凄く速かったですよ。
ダービー前、
皐月賞が終わってから乗せてもらう機会が多くて、1週間乗り続けるということもあったんです。
[西]凄く引っ掛かると言われていたよね。
[杉]確かに凄く敏感ではありました。周囲に馬がいるとそういう面をみせていたので、なるべく他の馬がいない時間に、1頭で乗るようにしていました。追い切りも気をつけてやっていたんです。そうしたら、徐々に大丈夫になっていきました。もちろん、攻め馬とレースは違いますけど、僕のなかで本当に引っ掛かったのは1回だけしかありませんでした。
[西]その1回はヤバかった?(笑)
[杉]「あっ、これは行かれるぞ」と思いましたね。でも、そこで強引に引っ張ってしまえば、なおさらもっていかれてしまうので、やせ我慢をしながら何とか乗り過ごしました。でも、コディーノに乗っているときは本当に楽しかったんですよ。
[西]そうなんだ。変な動きをするとも聞いたんだよね。
[杉]変というか、動きがとにかく速いんですよ。運動神経が本当に良いということなんだろうと思います。
[西]残念だった(※編注1)よね。
※編注1…疝痛のために経過観察中だったが、容体が急変したために今年6月11日に安楽死の処置がとられた。ラストレースは今年4月6日のダービー卿CT(5着)。[杉]本当に残念です。ショックでした。自分も入院していたときだったんですけど、携帯のニュースで知ったんです。
コディーノが入院していたことは聞いて知っていたんですが、持ち直したというように聞いていたので、まさかと思いました。
[西]これから先、思い出深い存在になるね。
[杉]あの芝の追い切りは忘れられません。他にもいろいろ教えてもらいました。あの馬と共有できた時間は尊いものです。
[西]そういう意味では、同じ時期にコンビを組んでいた
マジックタイムという存在も大きかったんじゃないの?
フローラSでのピンチヒッターは緊張した?(※編注2)
※編注2…マジックタイムは杉原騎手が騎乗して2連勝。後藤騎手に乗り替わって今年のクイーンCで2着に好走し、続くフローラSも後藤騎手が騎乗予定だったが、ひとレース前の府中市市制施行60周年記念で後藤騎手が落馬負傷し、杉原騎手に乗り替わりとなった。[杉]これまでの人生で一番注目された日かもしれません(笑)。
[西]何と言っても重賞で1番人気だからね(笑)。確か、あのとき3場開催だったんだよ。良く杉原が東京にいたなと思ったんだから。
[杉]あのときは10レースで勝った
グランデスバルの騎乗があって、東京だったんですよね。
[西]杉原自身が
マジックタイムで2勝をあげていたわけだよね。あそこでの乗り替わりで、杉原が指名されたわけだけど。
[杉]指名していただけたことは嬉しかったです。前のレースで、後藤さんが落馬してしまっていて、みんなで安否を心配していて。僕は表彰式に向かったところで、職員の方を通して騎乗依頼がありました。
[西]そこで
「はい、わかりました」となったんだね。
[杉]本当に僕で良いんですか? と聞いてしまいました。
[西]うははは。あのとき、他の騎手もいたよね。
[杉]三浦先輩をはじめ、何人かの騎手の方々がいたはずです。牧場の方々と中川先生が話をされて、乗った経験があって、知っている方が良いということで僕が乗せていただけることになったと聞いています。
[西]あのとき、鞍とかはどうしたの?
[杉]置き直しました。
[西]後藤さんより杉原の方が軽いから、そのままで調節もできたんじゃないの?
[杉]そうなんですけど、やはり鞍そのものも違いますし、鐙も違いますので、替えました。重賞ですし、後から後悔するのは嫌だったんですよね。
[西]こういう言い方は失礼だけど、そういうところが大事だったと俺は思うんだよね。
[杉]それはそうですよ。あの時期の牝馬ですし、いま思えばそういう考え方もできるんですよね。
[西]些細なことなんだけどね。もっと言えば、極端だけどパドックで2人引きするかしないかでも影響があると思っているんだよ。あくまでケースバイケースで馬や状況によるんだけど、そういうところも気にするかな。
[杉]なるほどですね。馬ですから、それくらいまで気を使わなきゃいけないのかもしれません。
[西]マジックタイムに話を戻すと、デキはどうだったの?
[杉]2勝させていただいていますけど、そのときよりも気持ちが入っている印象でしたし、返し馬でキャンターにおろしたときも良い雰囲気でした。
[西]レース運びも良かったように思えたんだけど。
[杉]言われていた折り合いも付いていましたし、良い感じで進めることができたと思ったんですけどね。
[西]元々は杉原自身が乗って2勝していて、そこからの乗り替わりだったわけだけど、少し聞き難いことを聞くと、勝っての乗り替わりというのはどんな気持ちだったの?
[杉]それは悔しいですよね。でも、まだそこで自分自身に任せてもらえないということですし、自分自身に足りない部分があるということだと受け止めました。
[西]そう思えるのは凄いことだよ。偉そうなことを言うわけじゃないけど、個人的に思うことは、そこで杉原が不貞腐れたり、変な態度をせず、真摯に自分自身と向き合って、変わらず努力していたからこそ、再びあそこで杉原に声が掛かったんだと思う。厩舎で働いている人間として、同じようなことがあるけど、
「どこかで乗せてあげたい」と思うものなんだよね。
[杉]僕はただただ、自分がまだG1へ向かう馬の大事なところで任せてもらえるだけの存在ではないんだと痛感していただけです。乗せていただいているわけですし、もちろん悔しいですけど、そこで何で俺じゃないんだとは思いませんでした。
[西]ブッチャけますけど、そこで同じようなことを言いながら、でも嫌な雰囲気を出す人もいるんですよ。杉原はそうじゃなかった。だから、あそこでチャンスをもらえたんだと思う。
[杉]調教でも跨がらせていただきましたし、乗り替わりとなった後も、牧場にお邪魔したときに
「調教だけど乗ってもらえるか」と声をかけていただいたんですよね。そうやって、声をかけていただけることが嬉しかったです。
[西]人間って、状況が悪くなったときに人間性が出るものだと思うんだよね。騎手で言えば、乗り替わりのときが一番その人の人間性が出るものだと思う。乗り替わりって、騎手の人たちは当然嫌だろうけど、言う側のこちらも嫌なんだよ。
[杉]それはそう思います。そこは気をつけなければ駄目だと思いますよね。
[西]それができたのは杉原の人間性がそうさせたということだよ。
[杉]減量が取れて、なおさらそういうことを感じさせられました。
[西]なるほどね。でも、そうだよ。乗せる方としても、減量というアドバンテージがほしくて、減量騎手を乗せるんだから。
[杉]減量は大きいと思います。減量があるときにもっと勝てていれば良かったんですけどね。でも、いまも変わらずに声をかけていただいている方々がいます。その方々に何とかひとつでも多く応えられるように、ここからもっと頑張っていかないと駄目だと思うんですよね。
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