【対談・田辺騎手③】毎日王冠のサンレイレーザーは、手綱をしごくふりをしていた
2015.1.28
田辺裕信騎手…以下
[田]丸山元気騎手…以下
[丸]西塚信人調教助手…以下
[西][西]元気に聞きたいんだけど、田辺さんの素晴らしいと思うところはどこ?
[丸]有馬記念と翌日の
東京大賞典の間に、住んでいる区のごみ当番だったので、一旦家に帰って、翌朝5時に起きてごみ捨て場に行ってネットを張ったことですよ。そこから一旦寝て、8時に再び行ってカラスに荒らされていないか確認して、9時にネットを外して、10時に大井に向けて出発したんですから。
[3人](爆笑)
[西]いやぁ、良い話ですね。
[田]なんでも屋さんに頼もうかと思いましたよ。
[丸]田辺さんの家庭には憧れます。そこはマジメに。
[西]でも、凄いよね。あの大観衆の前で騎乗して、一旦家に帰って、翌朝にはごみ捨て場にネット張っているわけですよね。勝っていたとしても、同じだったと考えると凄いわ。
[丸]朝になったらカラスを払っているんですよ。
[西]ははは。言ってくれれば、代わりにやったのに。
[田]えっ、マジですか。
[丸]僕も言ってくれればやりましたよ。
[田]お前、函館に女に会いに行っていたじゃねぇかよ(笑)。
[丸]違いますよ。年末のご挨拶です(笑)。
[西]そういう元気の2014年はどうだったの。確か30…。
[丸]33勝です。30~40勝ならば及第点だとは思っています。
[田]30~40勝は立派だよ。
[丸]良いときがありましたからね。
[西]一番勝ったときって何勝だった?
[丸]92勝です。
[田]そんなに勝ってるの。教えてもらわなきゃ(笑)。
[丸]あのときは凄かったんです。92勝の騎乗停止3回でしたね。
[田]俺、フェアプレー賞だったんだよ。
[西]えっ、そうなの?
[丸]それはおめでとうございます。
[田]ありがとうございます。
[丸]でも、僕もステッキがなければフェアプレー賞だったんですよ。
[田]俺もベストフェアプレー賞を狙っていたんだよ。
[西]ベストフェアプレー賞って何?
[田]制裁点数が0点ということですね。フェアプレー賞は10点以下です。
[丸]フェアプレー賞も凄いですけど、田辺さんはレース勘が凄いですよね。
[西]レース勘ってどういうこと?
[丸]結構、引っ掛かっているように見えるんですけど、あれが実は溜まっているんですよ。
[西]掛かっているようにみえて、実は脚が溜まっているんですね。
[丸]一般の人たちには分かりづらいかもしれませんが、安藤さんもそうでしたよね。
[西]なるほどね。
[丸]あとは“思い切り”ですね。
ヴェルデグリーンなんかそう思いました。
[田]ヴェルデグリーンは何も考えていなかったよ。
[西]メイショウナルトは考えていたんでしょ?
[田]どうかなぁ。
[西]あの日、俺も競馬場に行っていたんですよ。レース前に、田辺と話をしていて、
『この馬は走ると思う?』と聞かれて、
『これだけの馬だから走るんじゃないの』というと、
『そうかな』と言っていたんだよね。
[田]あの時は、西塚信人を通して、西塚安夫先生に聞いたんですよ。
[3人](爆笑)
[西]安夫ですか(笑)。
[田]降りてきていたんだよ(笑)。
[丸]考えてはいますよね。でも、それを外に出すか出さないか。出す人は新聞とかしっかり読んでいますよね。
[西]ちょっと聞きたいんだけど、田辺は行きたい馬がいる、いないとかは意識するんでしょ。
[田]しないですね。行く馬がいるときこそ行きます。
[西]あっ、そう。
[田]行く馬がいるときに行く。そうすると他の馬たちは…。
[西]他の馬たちは…?
[田]速くなると思うわけですよ。
[西]そうするとスローに。
[田]なりません。後ろで牽制し合う形になりますね。前は速くなりますよ。でも、そういうときには、基本的に駄目元というか、行く馬を潰すつもりで行っていますからね。
[西]サンレイレーザーと組んだ
毎日王冠のときには、ある程度位置は取りたいけど、行きたい馬というのはいないような感じだったと思うんだけど。
[田]あのときは、ゲートを出たんです。そこで横を見ながら、手綱を動かしているポーズをしたら、みんなが控えてくれたんですよ。
[西][丸]うははは。
[西]なるほどね。そこで行きたい馬がいたら、田辺が行くふりをしても引かないわけだよね。
[田]でも、僕もやめません(笑)。
[西]ポーズというか、手綱を動かすふりをするというけど、馬はどうなの?
[田]馬には伝わりますよね。
[西]そうですよね。ただ、今年はそれまでの人気薄の田辺ではなく、人気馬の田辺という印象があるんですよ。
[田]そうですか? 人気がある馬じゃないと勝てる気がしなかったりします。
[西]そう考えると、よくあの人気薄で勝っていたよね。
[田]本当ですよ。
[西]あなたが
クラレントで
関屋記念を勝ったとき、帰りに一緒になったよね。あのときに
「人気のない馬で勝つよりも、人気のある馬で勝つ方が簡単だ」っていう意味で、
『西塚厩舎の馬で未勝利を勝つよりも、クラレントで関屋記念を勝つ方が簡単』という名言をおっしゃっていました。
[西][丸]はははは。
[田]そんなこと言ってたかも(笑)。
[西]西塚安夫で思い出しましたが、昨年で七回忌を迎えました。ここまで一周忌、三回忌と、過去を振り返ってほしくないという思いもあって、内輪だけで行ってきたんですが、うちで働いてくださっていた厩務員さんたちのなかに定年退職を迎える方々もいるということで、今回は皆さんにお声掛けさせていただいたんです。
[丸]あ、そうだったんですか。
[西]そこに田辺さんも出席していただいたんですよ。レースが終わった後、疲れているのに、足を運んでいただいたんですよ。
[田]俺も西塚厩舎ですから。
[丸]そういうところは偉いですよね。
[田]だって、信ちゃんのお母さんと、今度会うのはお母さんのお葬式かもしれないじゃない。会う頻度を考えれば、そうなるんですよ。
[西]いや、それは本当だわ。それでも、日曜日の夜と言えば貴重ですよ。
[田]でも、お母さん元気で良かった。変わっていないもんね。
[西]ありがとうございます。でも、厩務員さんたちも喜んでいたよ。
[丸]嬉しいですよね。
[西]何せ、田辺ばかり乗っていたというところがあるからね。田辺には申し訳なかったですけど。
[田]えっ、外国人がいいなって?
[西]外国人が良いなんて言わなかったですよ。それこそ、外国人が乗るならば、裕信に乗ってもらいたいという人たちでしたよ。失礼な言い方ですが、当時はそうでした。お忙しいなか、本当にありがとうございました。いまやトップジョッキーになった田辺さんに、潰れかかった厩舎の調教師の七回忌に出席していただきまして。
[田]潰れたんでしょ。
[西]潰れてはいないって。死んだだけだよ(笑)。
[田]出席していた厩務員さんたちも呼ぶんでしょ。
[西]いつ?
[田]西塚信人厩舎が開業したときですよ。
[3人](大爆笑)
[西]定年されていますし、俺は良くても、厩務員さんたちが嫌でしょ。でも、本当に来てくださって、感謝しています。
[田]いや、迷ったんですよ。中華料理だって聞いて、食べたくないな、って思って。
[西][丸](笑)
[田]でも、餃子美味しかったです。元気も誘ったのに、僕行きませんって言いやがって。
[丸]誘われてませんって(苦笑)。
[西](笑)
[丸]僕が1年目のときに亡くなられてしまったんです。親父はお世話になってます。
[田]ほら、親父が乗っていたら、来るだろ(笑)。というか、津田さんの姿がみえなかったけど。
[西]体調が良くないみたいんだよね。心配なんだけど。
[田]元気は知らないだろうけど、助手さんがいたんだよ。やばいからキャンターしないでくださいって言ったら、角馬場でキャンターされて、ラチの外まで飛ばされてしまったことがあったんだよ。
[丸]えっ、マジですか。
[田]あの時はだから言ったじゃないですか、と言ってしまったけど、いま思えば、角馬場の外に飛んでいく人なんていないよね。
[西]いないよ。
[田]でも、ヤバイ馬のときには、僕が乗りますって言ったよ。
[西]本当にありがとうございました。
[西]話を戻しますが、その
クラレントや
メイショウナルトと夏頑張ったからこそ、ワールドスーパージョッキーに出場できたんだけど、どうだった?
[田]良かったですよ。
[西]どう良かったの? こちら(お金)の方も良かったのかな。
[田]楽しかったね。
[西]ははははは。
[田]だって、自分のポイントだけを意識して乗れるんだから。馬の将来とか、次走とか関係なしで、とにかくそのレースだけを考えて乗れる。
[西]指示とかないの?
[田]ほぼなしでしたね。
[丸]騎乗馬はシャッフルで決まるのに、そこで自厩舎の馬に乗っていましたね(
マーヴェラスジョッキーズTで
ハコダテナイトに騎乗して9着)。
[田]あのレースが一番上手く乗ったんだよ。あれほど走る馬を、これ以上ないくらい上手いセコ乗りができたのに、負けたからね。
[西]内々の前目で、最高のセコ乗りだったね(笑)。
[田]いやぁ、あの日のあの馬は本当にだらしなかった。
[西]でも、最近は減ってきているけど、普段だとその馬の将来も考えて乗ったりしなければならないじゃない。1戦必勝だからまた違った雰囲気なんだろうね。あ、そう言えば元気は最近継続して騎乗しているケースが増えたんじゃない?
[田]ゴマスリが半端じゃないからね。
[西][丸]はははは。
[田]ゴマばっかり。
[丸]ゴマをすってばかりいたら、スタンドにいますよ。休む間もなく、調教に乗っていますから。
※次回に続く
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