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【対談・重岡課長④】馬の脚を保護するためには、馬場は壊れてこそのもの
2015.4.7
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重岡真司・JRA美浦TC馬場造園課課長…以下[重]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]あと、もうひとつお聞きしたいのが、美浦の坂路なんです。簡単に言えば、時計がかかるようになったわけですが、ある意味その張本人が課長だったりするわけですよね(笑)。

[重]バレてしまいましたね(笑)。

[西]以前とは明らかに状態が違うんですが、ひとつだけ胸が痛むのは、本当に歩様の悪い馬たちが躓いてしまって、怪我人が続出した時期があったことです。

[重]怪我のない安全な馬場を目指しています。今回坂路に関して“より強い負荷を求められるように”という意見が各方面からありまして、意図的に深くて、負荷が掛かる馬場になっています。ただ、それは走りづらい馬場ということになりますので、前脚の出が悪い馬が躓く可能性が高くなります。正直、紙一重というか、相反する部分であったりはするんです。

[西]その意図はわかります。これは上層部からの指示だったりするんですか?

[重]まずは“東西格差”という話なのですが、坂路が大きな要因としてクローズアップされます。実際、栗東は高低差が最大32mであるのに対して、美浦は18mとなっています。栗東は自然の山を利用しているのに対して、こちらは平地に土を盛って作っています。

[西]18mというのはマンションに置き換えると何階にあたるんでしょうか。

[重]4階か5階でしょうか。

[西]それに対して栗東は7階か8階ですか。つまり、関西馬はそれに向かって走っているんですね。その差を埋めるために、深い馬場ということなのでしょうが、どこからそんな動きが出たんですか?

[重]そういう物理的な側面がありまして、調教師の方々のなかでも様々な考え方をされています。本来は栗東と同じものを、ということなのですが、なかなか難しいというのが現実なんです。そんな中、栗東に管理馬を連れて行かれる調教師さんたちから「確かに高低差も違うが深さも全然違う。せめて軽くて走りやすい馬場を止めるべきでは」という意見が根強くありました。若いときに美浦に勤務していたとき、ウッドチップや坂路が綺麗な美浦に対して、栗東は極端な言い方をすれば荒れてしまっているという感覚があったんです。そして今回、美浦に来る前に栗東に勤務していたんですが、追い切りを見ていて坂路を上がってくる馬たちの息遣いは苦しさが出ていました。それに対して美浦は息の乱れがさほどではないのです。これは考えなければ駄目だと思ったんですよ。調教師さんたちとも話をしながら、高低差を改善にするにしても時間がかかるが、馬場の状態を変化させることはすぐにできるというご意見もあったので、それならばやってみましょうということになったんです。

[西]個人的には、いまの状態ならばそれで頑張っていくんですが、馬場の状態が頻繁に変えられてしまうということはやめてもらいたいと思うんですよね。悪いならば悪いまま。バラツキが困ります。


[重]我々としても均一性というのは大きなこだわりの部分なんですよ。

[西]それぞれの状況に対して、馬だけでなく、人も慣れという部分があるはずなんです。

[重]馬場状態の均一性は我々も目指すところなんですが、正直なかなか簡単ではありません。何とか均一性を保てるように全力で努めていきます。

[西]話を戻させてください。これは僕自身の思いなんですが、芝コースは自然に負う部分がとても大きいです。例えば、よく皐月賞の馬場が悪いとか言われますが、2ヶ月続いてきた開催の最終週に行われるのですから、良い状態というのはなかなか難しかったりするんですよね。

[重]良いところを言ってくださいますね。例に挙げていただいた皐月賞で“ビッシリとした馬場”を目指そうと思えば、技術的には可能です。ただそうすると、土が掘れたり芝が剥げるエネルギーが、馬の脚に向かうことになってしまうんです。馬場というのは、ある程度耐久性をもたせなければなりません。しかし、それが過ぎれば馬の脚に衝撃が向かってしまいます。馬場が変形、破壊していくことによって、少しでも馬の脚への負担を軽減するように、ということは一番思うことなんです。

[西]そうですね。壊れない馬場、極端な言い方をすればコンクリートの上を走れば、その衝撃は馬の脚に来ますよね。

[重]壊れてこその馬場なんです。ですから、皐月賞の馬場がカーペットのように芝が生え揃っていたというのは、何の自慢にもなりません。2ヶ月開催が行われているのですから、それだけ痛んでいるのが自然な姿なのです。

[西]物理的にはそうですよね。

[重]馬場が壊れることで、少しでも馬の脚への衝撃が軽減されてほしい、というのが我々馬場造園課共通の考え方です。

[西]でも、馬場が保ち過ぎても良くないというのは、本当に難しいですね。

[重]2ヶ月の開催が行われても変化しない馬場は駄目ですが、2週間で変形してしまって、残りの6週間どうするの、という状態ももちろん駄目ですよね。ですから、ほどよい壊れ方をしなければなりません。

[西]でも、それがギリギリで、難しかったりするわけですよね?

[重]天気もありますからね。先ほど話が出た函館ですが、1日不良馬場で競馬が行われたときは、感覚的な見解ですが、良馬場で5、6日開催された傷み具合に匹敵する感じです。

[西]5、6日というと、3週間ということですよね。

[重]当然柔らかくなりますので、壊れやすくなります。同じ1完歩でも、変形の度合いが全く違ってきます。

[西]そうですよね。硬い馬場よりは、同じエネルギーですから、より変形することになりますよね。

[重]土の動きが大きいということは、芝の根も持っていかれてしまう可能性が高くなりますし、土も掘れてしまいます。その状態でレースが続けられると、修正しきれません。

[西]それが初日とかだったら最悪ですね。

[重]もう泣きたいくらいですよ(苦笑)。

[西]そりゃ、泣きたくなりますよね。

[重]中山に勤務していた当時に、皐月賞の後、秋のスプリンターズSが行われる9月に向けて、約半年近く間があります。一方、秋は9月が終わると、2ヶ月間あきますが、そこから有馬、そして年明け、そしてまた皐月賞と、9月からは継続していく感覚で。ですから京成杯オータムHが正月という雰囲気があるんです。そこに向けて、夏の間毎日、毎日、懸命に芝と向き合って、しっかりと育ってきて、さあここからと迎えた初日に雨が降って、ドロドロになったときは、もう例えようのないくらいにガッカリしました。

[西]当たり前ですが、それだけ良いコンディションなので、京成杯オータムHは速い時計での決着が多いですよね。

[重]絶好のコンディションですからね。でも、僕らとしては、速い時計が出ることは嫌で、レコードの赤い文字を見ると震えがきますよ。

[西]そういう感覚なんですか。

[重]僕が中山にいたときに、ゼンノエルシドが1分31秒5という破格のタイムを叩き出したんですよ(01年)。いまはレオアクティブに抜かれてしまいましたけど、当時は破格でした。

[西]レオアクティブは30秒台ですからね。

[重]あのタイムは本当に衝撃的でした。あれで、我々もさらに対応策を考えなければならないということになりました。

[西]話が戻ってしまいますが、9月の中山のあと2ヶ月東京になりますよね。でも、9月初めの良さには戻り切らないんですね。

[重]9月次第という部分が大きいんですよ。あの時期は秋雨前線が停滞したり、台風が来たりする時期で、天候の影響が大きいんです。それと、同じ雨が降るのでも、開催日か週中かで、全くと言っていいほど影響が違ってきます。開催日に降られるのが一番痛い。止んでくれるとこれがまた全く違うんです。


[西]あっ、そんなものですか。週中の雨は捌けてしまうんですかね?

[重]捌けますね。元々、水捌けは良く作っています。

[西]JRAの競馬場はどこもそうだと聞きます。

[重]そうなんですが、やはり雨が激しく降っている最中は水が浮いてしまうこともあります。止んで1時間すればかなり捌けてくれます。開催日かそれ以外か、同じ開催日でも、夜なのか、昼なのかでも違って、それが毎週という年もありまして、もうドキドキさせられるんですよね。

[西]毎週、土日が雨という年もありますよね。

[重]9月の中山が100とします。そこから翌年の皐月賞まで、その貯金を使っていく感じなんですが、毎週土日雨ということになれば、その貯金のかなりの部分を僅かひと開催で使ってしまうことになるんです。

[西]そのなかで、年明けに1ヶ月東京開催がありますが、そこは助かったりするんですか?

[重]貴重な1ヶ月であることは間違いありません。いまは、芝コース全部にシートをかけて保護したりします。1月の中山はオーバーシードもすり切れてしまって、茶色っぽくみえたりますが、3月には緑色になっています。それは1ヶ月の間に保護を行うことができているからです。洋芝の問題は、霜が降りると凍ってしまうことなんです。凍ることによって、細胞膜が破壊されてしまい、結果として茶色くなって死んでしまうんです。暮れの有馬や年明けに向けて、徐々に色が悪くなっていくのはおわかりでしょうが、それはそういう事情なのです。

[西]そうだったんですね。

[重]そこにシートをかけると、霜が降りません。それに地熱も失われないということもあって、1ヶ月であっても緑色になるんですよね。見た目という部分ではとても大きな1ヶ月なんです。

[西]そろそろお時間が迫りました。最後にお聞きしますが、よく「直線で内と外の伸びに差がある」と言われる状況があります。それについて、馬場造園課の方々はそのメカニズムをご存知だったりするんですか? ぜひ、ブッチャけていただければと思います。

[重]では、ブッチャけさせていただきますが、全くわかりません。今週は内が伸びる、あるいは今週から外が伸びるというような意見があることは存じています。しかし、実際に開催中も見て回るのですが、内と外でそこまで大きな差があるという感覚がなかったりするんです。

[西]よく内が伸びないのは、みんなが通るからと言われたりしますよね。

[重]でも、1、2頭分外、あるいは真ん中も、レースである以上は、同じように走っていますので、そこまで大きな差はないはずですよね。

[西]なるほど。馬場って不思議ですし、それだけに本当に大変なんですね。これからも安全で走りやすい馬場づくりに頑張っていただければと思います。我々も、雨が降っている馬場をみたとき、レコードの文字をみたとき、重岡課長の顔を思い浮かべることと思います(笑)。

[重]より馬の脚に負担が少なく、安全で、すべての馬が思う存分能力を発揮できる馬場を目指して、これからもやれることをやっていきます。

[西]本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

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