【対談・佐藤博紀師②】他場からの依頼は騎手冥利に尽きる
2015.5.12
佐藤博紀・川崎競馬調教師…以下
[佐]西塚信人調教助手…以下
[西][佐]僕自身は川崎所属で、大井や船橋、あるいは浦和競馬場で、川崎以外の馬にも騎乗することができるんです。やはり他の競馬場所属馬の騎乗依頼を受けるというのも、またこれが燃えるんですよ。
[西]そういう関係性というのは、我々JRAの関係者たちはいまひとつわかっていないと思います。どういうことかと言いますと、JRA所属馬から騎乗依頼が来たとき、いつも以上に燃えるというのは想像がつきます。でも、同じ南関東4場から依頼が来るというのはどういうことなのか、いまひとつわかっていません。JRAと同じような感じで依頼が来るんですか?
[佐]そうです。説明させていただきますと、基本的には、南関東では、1ヵ月4週間、月曜日から金曜日まで、どこかひとつの競馬場で開催されています。例えば、1週目は大井、2週目は川崎、3週目は浦和、4週目は船橋というような感じで、持ち回りで開催が行われています。つまり、所属競馬場だけでの騎乗ということになると、1ヵ月で5日間しかレースがないということになるんです。それが、他の3場から依頼を受けると、それだけレースに騎乗する機会が増えることになるんです。
[西]ウチパクさんとか戸崎騎手などが地方所属のときは、所属以外からも声が掛かって、毎日どこかで乗っているということだったんですね。
[佐]そうです。だから、他場から依頼があると毎日乗ることができます。それは嬉しいことですし、6着より5着、5着より4着、という思いになります。
[西]佐藤さんが、浦和や船橋に行くときというのは、1、2頭という感じだったんですか?
[佐]そうですね。1頭でも行きますという姿勢でした。他場からの依頼というのは騎手冥利に尽きます。そういうなかで、チャンスを活かして登って行ったのが、真島であり、森泰斗なんですよね。
[西]ファンの方々と同じような感覚でお聞きするんですけど、4場のなかでパワーバランスみたいなものってあったりするんですかね。
[佐]パワーバランス云々というよりも、そもそも大井競馬場が一番開催日数が多いです。
[西]そうなると単純な話、騎手で言えば大井所属でデビューした方が有利ということになりませんか。
[佐]単純に言えば、それだけ騎乗する機会が多くなるということになります。
[西]なんで開催日数に差があるんですかね?
[佐]この話はあくまで仮説として聞いていただきたいんですが、僕が聞いたところでは、そもそも地方競馬は地方公共団体に売り上げ金を渡すという目的で始まったとされていて、第二次大戦で一番被害が大きかったのが東京だったために、大井でより多く開催された。その流れがいまも続いているということなのです。
[西]そういうことなんだぁ。ということは、騎手だけでなく、馬主さんも大井に預けたくなるんじゃないんですか。それだけレースに出走できる可能性が高いわけですから。
[佐]確かに、そういう傾向はありますよ。
[西]これは勝手なイメージで失礼だとお叱りを受けてしまうかもしれませんが、なかでも浦和競馬場というのは昔のままというイメージが強いんですよね。確かに、NAR全国リーディングの小久保先生こそいらっしゃいますが、何となく競馬場そのものが昔のままで、他の3場と比べて華やかさがないイメージがあるんです。浦和の方々には本当に失礼なんですけどね。
[佐]ところが、一番馬券が売れているのは浦和らしいんですよ。
[西]えっ、マジですか。
[佐]昭和の匂いが残っていますが、逆にそういう雰囲気がコアなファンの方々から支持されていると言われているんです。
[西]それは知らなかったぁ。でも、JRAでも言われていることなんですが、若い方々よりも年配の方々の方が購入金額が多く、そういうファンの重要性というのは言われています。
[佐]そういうことなのでしょう。大井は確かに若い方々がたくさんいらっしゃって、入場人員は多いのですが、売り上げは浦和に勝てないんですよ。
[西]川崎はどうなんですか。
[佐]10年前には30億円の累積赤字があったんですが、昨年で完済されました。売り上げそのものも、伸びているようです。
[西]それは凄いですね。
[佐]売り上げの金額で言うと、大井さんはとても多いんです。ただ、これも聞いたところでは、純利益ということになると他の3場の方が良いらしいんです。
[西]話が戻ってしまいますが、そうなると浦和競馬場などは古いままで良いということになりますよね。
[佐]そうですよね。施設に対して何か新しいことをしているわけではありません。でも、馬券は売れる。しかも、土地は埼玉県が所有していますので、経費の面でも恵まれているんですよね。
[西]いやぁ、それは驚きました。ブッチャけさせていただきます。失礼を承知で申し上げますが、我々の感覚ですと、浦和の交流は相手も楽で、ドル箱というイメージなんですよ。
[佐]全然、ブッチャけでいきましょう。
[西]ありがとうございます。距離も1400mなんですよ。中央では1200mが良い馬もいけますし、1600mの馬でもいけるんですよ。
[佐]なるほど。逆に聞きたいんですけど、浦和の馬場は悪いとされているんですが、戸惑う馬とかいないんですか。僕自身は、浦和で中央の馬に騎乗したことがないので、イメージがわかないんです。
[西]中央の騎手の方々のなかには、浦和の馬場に対してマイナスのイメージを口にされる方は少なくありませんよね。
[佐]実際、地方競馬の騎手たちでも同じですよ。僕自身も同じ感覚です。特に2コーナーは、下に川が流れていて、U字溝を逆さに下すような感じで馬場がつくられていて、うねっているんです。
[西]確か浦和は何人か騎手の方が命を落とされていますよね。
[佐]船橋所属の佐藤隆さんと松井さんですね。その2コーナーではないですし、馬場云々ということではなく、馬が故障してしまって、後続馬との接触によってのことでした。ですが、騎手の間では浦和の馬場はみんな気を使うはずです。
[西]あと、交流レースということで言えば、例えば浦和の交流レースは、JRAの枠以外は浦和の馬たちが優先で、空きがある場合のみ、他の競馬場から出走できるということになっているんですよね。
[佐]そうですね。
[西]これ、交流レースを使うことで知ったんですよ(笑)。
※次回に続く
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