藤田騎手の引退に思うこと
2015.9.9
6日の日曜日、
藤田伸二騎手の引退が発表されました。
ビックリしましたが、実は僕の周辺では去年くらいから
「ステッキを置くかもしれない」という噂があって、全くの寝耳に水ではありませんでした。
僕自身としては、レースで騎乗してもらう騎手と調教助手の関係でしかありませんでしたので、乗ってもらう前、あるいは終わってから馬について話をするというだけでした。
話をさせていただく前は、怖いイメージもなくはなかったんですが、実際は全くそうではなくて、現場の僕たちに対しては丁寧に話をしてくれる人なんですよ。
個人的に、印象に残っていることがひとつあります。ある朝調教で角馬場で乗っていると、見たことがない青いヘルメット(騎手を示す色)の人が乗っていて、抜群に上手かった。それが藤田さんだったんです。
毎日、多くの騎手たちが乗っている姿を見ていますし、もちろん皆さん僕なんかとは比べ物にならないくらい上手です。ですから、上手な人を見慣れてしまっていて、今さら驚くこともなかったんですが、あのときだけは
「あれっ、誰?」と目を奪われたんですよ。
その後も、何度か調教のときに乗っている姿を見かける機会がありましたが、やはり何度見ても上手い。
レースでは一緒に乗ることがないので、実際のところはわかりませんが、調教のときなどに常歩で乗っているときでも、上手い人はいわゆる“鞍ハマり”が明らかに違っているんです。
「いやぁ、上手い」と本当に惚れ惚れしますよ。
そして、そう感じさせられる人は、上手な騎手でもなかなかいなかったりするんですよね。馬乗りの技術は、トップクラスのなかのトップクラスなんだと思います。
僕の周辺の騎手の方々と話をしていても、同じような話は出ます。引退に際して、騎手の方のコメントにもあったようですね。
ファンの方々には、ファイターとか、『男』といった個性的な部分が印象強いのかもしれませんが、僕たちにとっては確かな馬乗りの技術を兼ね備えた実力のある騎手、という印象が強いんですよ。
藤田さんがステッキを置く理由について、いわゆるエージェント、騎乗仲介者の存在による状況の変化によって、モチベーションが保つことができなくなったということだと聞いています。
それは
藤田さん自身が出した答えであって、僕がどうこう言うことはできません。エージェントという存在についても、善悪云々は別として、それが時代の流れと言ってしまえばそういうことなんでしょう。
ただ、僕自身としては、そのような素晴らしい技術を持った騎手が競馬界を去ってしまうことで、その技術が継承できなくなってしまうことは、日本の競馬にとっては損失だと思うんです。
いま、エージェントという存在に加えて、出馬方法なども変わったことで、極端な言い方をすれば上位50人で競馬ができてしまうようなシステムになってしまっています。
もちろん、調教を手伝っていただいたりもしていますし、50人だけでは絶対に競馬はできないんですが、もう上位はほとんど固定化されてしまっているというのが現実でしょう。
騎手は良い馬に乗れるかどうかだけが大切、みたいな言われ方をされることもあります。
もちろん、それは大事ですよ。営業も大事ですし、それも実力です。ただ、じゃあ技術がなくても強い馬に乗っていれば勝てるかと言えば、それほど簡単ではないはずです。
“馬7騎手3”とよく言われますが、かつては騎手が持つそれぞれの技術や特徴から、馬との相性などをを考慮されることで、どの騎手を乗せるかが決められてきました。それも大事なんじゃないかと思います。
田辺じゃないですが、厳しいと思われる馬をどうやって少しでも上の着順に持ってこようかと試行錯誤すること、あるいは毎日、いろいろな馬に乗って体で感じること、そういったことが技術となって身についていくんじゃないでしょうか。
何が言いたいかといいますと、もう少し騎手の技術という部分が尊重されても良いのではないか、ということなんです。もっと言えば、勝ち星と騎乗技術の上手さは決してイコールではないはずです。
これは聞いた話なんですが、M・キネーン元騎手が(横山)ノリさんについて
「このジョッキーは馬乗りがとにかく上手い」と評したそうです。外国人ジョッキーのなかでも、名手のなかの名手といわれる騎手に、“上手い”と言わせる騎手が日本にもいるということなんですよね。
ですが、今は技術ではなく、政治的な背景ばかりが重んじられてしまっている印象があります。そういうなかで、確かな技術を持つ
藤田さんの引退というニュースに、本当にいまのままで良いのかという感情を覚えました。
このことについて、ぜひ、みなさんのご意見を聞かせてください。
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