スプリンターズSで2着に激走した、サクラゴスペル秘話
2015.10.14
スプリンターズSで
サクラゴスペルが2着に頑張ってくれました。今回はこのレースを振り返らせていただきたいと思います。
レースまでの過程を振り返ると、とにかく順調ではあったんですが、いつもよりも飼い葉食いが安定しない感じはあったんです。ただ、木曜日の時点で500kgあったので、予想としては490kg台でレースを走れるんじゃないか、とこれまでの経験で思っていました。
それが蓋を開けたら、10kg減の482kgだったんです。
これには装鞍所で聞いたときにはブッチャけ
「えっ、マジ?」と思いましたよ。
「厳しいレースになってしまうのか」という思いも一瞬頭をよぎりました。
でも、馬体を見た感じでは良い雰囲気でしたし、直前ではやれるんじゃないかという思いで送り出しましたよ。
これが例えば400kgギリギリの馬で、そこから10kg減ったというのならば影響が大きいのでしょうが、500kg近い馬で、しかも飼い葉はしっかりと食べてはいましたので、大丈夫だという思いを持つことができたと思うんです。
以前にもお話をさせていただいたように、僕は厩舎では飼い葉の管理を任せていただいています。
馬体重の増減だけで本質的なコンディションを把握することはできませんが、有効な手段のひとつだと思っています。
そして、飼い葉を食べている量や食べ残し具合、そして体重と、それぞれをいろいろな馬で観察してきましたが、たとえ減っていたとしても、食べた上で減っているのであれば、結構大丈夫なことが多いという個人的な感覚があります。
それでも、マイナス体重だったという結果については、責任を感じていますし、その原因については引き続き考察していかなければならないと思っています。
レース後引き上げてきた(横山)ノリさんからは
『抜群に良かった』との言葉をいただいたんですよ。
ノリさんと一緒に仕事をさせていただいてきたことで分かることなんですが、ノリさんにはノリさんに対する対応、話の仕方というものがあるんです。他の騎手の方々にも、それぞれそういうものがあります。
どういうことか言いますと、たとえば
『いまひとつです』というような感じで言った方が良い人もいれば、
『とにかく具合だけは良い』というような感じで伝えた方が良い人もいます。
ノリさんは
『いまひとつです』というように悲観的なコメントを伝えると燃えるタイプ、というのが僕たちのなかに感覚的にあったりするんですよね。
まあ、ノリさんは乗った感覚をそのまま口にしているだけなのかもしれませんけど、そんな感覚があるんです。
そういう部分では、返し馬もノリさんには独特の感覚があると言われていて、まずはしっかりと歩かせるスタイルなんです。ところが、今回尾関先生は
「ゆっくりした感じではなく、サラっとゲート裏に向かってください」と伝えたようなんです。
ノリさんはその通りに返し馬をしていて、後から
『気がついたことは何でも言ってくれ』と仰っていました。もしかしたら、これも今回の好走を生んだ要因のひとつなのかもしれない、と思っているんです。
でも、あくまで結果論でしかないわけで、全く関係がないことかもしれません。もっと言えば、たとえその返し馬で力が良い感じで抜けていたとしても、道中で詰まってしまったら今回の結果にはなっていなかった可能性が高いわけですから、すべてが上手く行ってくれたということなんでしょうね。
実は今回、先輩の助手である二口さんと矢原さん、そして僕の3人で競馬に行っていたんです。
レースは日曜日ですから、朝2時から攻め馬に乗っていて、獣医さんの診察に立ち会うと11時くらいになってしまいますので、正直眠い。
でも、今回は僕が矢原さんに
「行きます」と言って、3人で行くことになったんです。それは年齢、メンバー、あるいは中山という舞台など、いろいろことを考えて
「よし、今回は」と思ったんです。
そりゃ、勝ちたかったですよ。でも、僕自身は幸せだとも思いました。G1というトップを争う舞台で勝ち負けを演じる馬に携わらせていただいていることは、調教助手として代え難い財産ですし、僕自身の人生においても本当に貴重な経験をさせていただいているんですよね。
サクラゴスペルにはデビューした当時に乗っていて、最近はたまに乗せてもらう感じなんですが、それでも本当に感謝しています。
調教の話をひとつご紹介しましょう。
サクラゴスペルは誰が乗るかで、対応を変えるんですよ。矢原さん、あるいはノリさんが乗ると、
「速いところだ」と察知して、馬場入りを嫌ったり、あるいは馬場に入った瞬間に飛び込んでいったりと、扱いづらさを発揮するんです。
それに対して、僕が乗るときは馬からすれば軽く流す感じで、調教が一番軽いんです。ですから、僕が乗ると極端な言い方をすれば進んで行かないんですよ。
体重が重いからではなくて、アブミを短くして、引っ掛かったときの対応はしているんですが、リラックスして走っていることが手綱や馬自身から伝わってくるんです。今回も乗せていただいたんですが、そんな感じでした。
当たり前と言われるかもしれませんが、いやぁ凄いことですよ。だって、ノリさんとか矢原さんが乗るとあり得ないくらい燃えるのに、僕が乗ると本当に大人しくて、まるで別馬なんですから。まさか、馬に曜日感覚があるわけではないでしょうからね(苦笑)。
サクラゴスペルもそうですし、
モンストールもそうでしたし、携わっている馬たちすべてなんですが、それぞれ馬にも感情があって、付き合いが長くなればなるほどそれがわかり合える確率が高くなるものです。いまさらながらそういう部分は人間と同じだし、そういう面を理解してあげることの大切さを再認識させられています。
そういえば余談ですが、今回のパドックを観ていた方々はお分かりと思いますが、いままでに経験がないくらい順番がバラバラだったんですよ。
普段でも、牡馬のなかに牝馬が1頭とか、あるいは馬の癖などによって順番が入れ替わることはあります。今回は、馬番1番が外国馬で、日本のやり方がわからなかったことと、牝馬が多かったことなどが重なった結果みたいなんです。あまりバラバラだと、レース後に指導を受けることがあるんですよ。
サクラゴスペルは、できれば勝ってほしかったですが、まずは無事に戻ってきてくれました。無事これ名馬という言葉がありますが、本当にそうなんです。無事ならば次のチャンスが狙えるんですよ。
次のレースに向けて、また良い準備ができるように、そしてまたゴスペルらしいレースができるように、そして勝てるように、僕たちも頑張っていきたいと思います。
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