エージェントという存在が悪ということでは、決してないと思います
2015.10.28
少し前に、藤田伸二さんの引退に際してお話をさせていただきました。それについて、多くの皆様からメッセージをいただきました。本当にありがとうございます。すべて読ませていただきました。
様々なご意見がありましたが、ほとんどのメッセージで触れられているのが、藤田さんも言っている“エージェント”という存在でした。
藤田さんの引退に際するコメントを、僕も読ませていただきました。確かに藤田さんも書いていたように、エージェントに力が集中してしまっている状況で、いろいろな問題が指摘されているのは事実でしょう。
現場でもいろいろと言われていて、その存在自体が“悪”という風潮さえあります。簡単に言えば、あまりに何も規制がなく、やりたい放題ということなんです。だからこそ、ルールの整備、早急な改善が各方面から求められているのです。
でも、僕自身としては決してそうだとは言い切れないと思っています。その存在そのものが“悪”ではないと思うんですよ。
エージェントの方々がいらっしゃることで、厩舎と騎手、あるいは馬主の方々と騎手との関係がスムーズにいくということも現実にはあるはずなんです。
そもそもは、そういう関係性のなかで、繋ぎ役、連絡役として発生したのがエージェントなわけですよ。
このエージェントの立場というのは、あくまで騎手の方々の代理。でも、現実として依頼する側の意識というか、思惑がその動きを生み出してしまっている部分が大きいと感じます。
どういうことかというと、騎乗を依頼する側がどのような思いで騎手を決めるかなんです。
ブッチャけちゃいますけど、各厩舎には各専門紙の番記者さんたちがいます。たとえばある厩舎の馬が5着に入り、優先出走権を得たとします。そこで
『上から順番に空いている騎手を調べてほしい』とその記者の方にお願いするのか、それとも
『この馬に合う騎手はAだ』と決めるのか。実は、そこの部分こそ、エージェントという存在に大きく影響しているということなんですよ。
昔は
『この馬にはこういうタイプの騎手が合うからA』と言う調教師たちが多かったんですよ。それが今は、間違いなく
『上から順に』というケースが圧倒的に多いのです。
それは時代の流れもありますし、厩舎経営という側面から言えば当然という部分はあります。
ただ、実は依頼する側にも、確かな技術を持った職人気質の人間が少なくなってきているということでもあるんですよ。
藤田さんのコメントに、そうは書いていませんでしたが、僕自身としては
『乗せる側も馬乗りの技術を理解して乗せているのか』と言っているように受け取りました。
馬主さんのなかには、現状についてハッキリと
『調教師の怠慢』と指摘する方々もいらっしゃいます。
お世話になっているある馬主さんは、預託調教師からエージェントの方が厩舎の立場で動く“レーシングマネージャー”なる存在と契約しようと思っているのですが、どう思いますかと相談を受けたそうです。
それに対して
『あなたの会社のことだから、ご自身で決めなさい。しかし、もし契約されるのならば馬は転厩させてもらいますし、今後一切お付き合いはいたしません』と答えたそうです。
その馬主さんは
『どのレースに出走させて、どの騎手を乗せるかというのは、とても重要な事柄。毎日馬を間近で観察して、接しているのが調教師であって、だからこそ馬の特徴や癖などを馬主より把握できているからこそ、そこに馬主の代行として決定権が認められている。他の方々はどうか知らないが、私はあくまで調教師その人に預託していて、その言葉は重いと思っている。それなのに、そんな大切なことを、新聞記者か何か知らないが、毎日馬の傍で馬と接しているわけでもなく、その馬についてわかっているとは言えない人間に決定権を委ねるような方とはお付き合いしたくない。どれほど優秀かはわかりませんが、同じ経営者としてそのような仕事をしていては、良い仕事をできるはずはないと確信しています』と憤慨していらっしゃいました。
誤解を恐れずに言えば、そういうことの積み重ね、
『上から空いている人間を探して』ということが連続した結果として、エージェントの方々に力が集中する形になって、力のある方の前には調教師たちが列を成す、と揶揄される状況になってしまった。そういう部分は間違いなくあるはずですよ。
もちろん、いまの時代はオーナーサイドの意向を取り入れなければ厩舎がやっていけないことも充分理解していますし、決して昔は完璧だったなんて思いませんよ。
ただ、昔のように
『この馬にはこういう騎手が合う』というケースがほとんどなくなってしまっていることが良いかと言えば、決してそうではないはずです。
何が言いたいかと言いますと、エージェントという存在は決して“悪”ではなく、その依頼の仕方といいますか、依頼する側の意識が大きく影響していて、そこが大事なんだということなんですよ。
もちろんルールは大事だと僕も思います。例えば、副業としてのエージェントを禁止することや、騎手とエージェントを1対1に限るようにする、などの対策が指摘されていますが、そのあたりは当然と言えば当然でしょう。
また、馬主さんたちは免許を交付してもらう際に、親族の調査までされるのに、エージェントはそこまでチェックされないのは明らかにおかしくないでしょうか。
しっかりとした厳しいルールのなかであれば、エージェントという存在は決して“悪”ではないと思います。
いただいたメッセージのなかには、“藤田さん自身もエージェントに依頼して、成績を上げていたことがある”という指摘もありました。
僕も藤田さんが以前依頼されていたエージェントの方とはお付き合いさせていただいていたんですけど、二人三脚で頑張っていたんです。
だからこそ、僕自身としては藤田さんがコメントのなかでエージェントについて批判をされている言葉に納得することができませんでした。
そういうと批判される方々もいらっしゃると思います。あえて言わせていただきますが、そのエージェントに対する言葉と、藤田さんが馬乗りとしてもの凄く上手かったということとは別の話で、藤田さんが馬乗りとして、何十年に1人の逸材と言われた素晴らしい技術を持った騎手であったのは間違いのないことです。
引退されてしまったので、叶いませんが、もし騎乗依頼ができる立場にいて、ここが勝負というときには“藤田さん”という選択肢は間違いなく僕のなかにはあったことを最後にお話ししておきたいと思います。
長くなってしまいまして、どうもすみません。来週からはまた対談をお送りします。今回のゲストは、バレットの方々です。どうぞお楽しみに。
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