【対談・バレット④(終)】何事もなく騎手がレースに集中できるのがバレットの理想
2015.11.27
八田礼奈さん…以下
[八]楠木由華さん…以下
[楠]西塚信人調教助手…以下
[西][西]ところで、バレットをやっていて、格好良いというか、素敵だと思った人とかはいないですか?
[八][楠]いないですね(笑)。
[西]逆に嫌なところとかも見えちゃうのかな。怖い人とかいないですか? 蛯名さんとかどうですか?
[八][楠]蛯名さんは、優しいですよ。
[西]逆に八田さんは、勝浦さんが怖いと思ったことはないですか。
[八]最初は怖かったですよ。お話をしないので。
[西]そういう怖さですね。あるかも。自分が担当している騎手が調教師さんや先輩騎手とかに怒られているときは、どういうリアクションをするんですか?
[八][楠]ノーリアクションです。
[楠]見て見ないふりをします。
[八]その後で、何事もなかったように話しかけます。
[楠]できるだけ普通にするように努めます。
[西]それって気遣いですよね。
[八]でも、聞いてほしい人もいるんです。愚痴というか、誰かに話をしたい人もいますので、そういう人に対しては聞きますよ。
[西]バレットの仕事って、淡々としたイメージがあるんですよ。淡々としているイメージがあるからこそ、より大変だと思わせるのかもしれないですね。
[八]担当する騎手にもよると思います。勝浦さんとは、朝からレースが終わるまで全く話をしないんです。
[西]えっ、そうなんですか?
[八]朝、検量室に入った瞬間に勝浦さんのスイッチが入るんです。おはようございますとお疲れさまでしたという言葉しか交わしません。
[西]この前アツコという馬が出走したとき、僕は厩務員の役割をしていたんです。その日、勝浦さんに『今日、八田ちゃん誕生日らしいじゃないですか』と言ったら、『聞かなかったことにする』と言ってましたよ(笑)。
[八]最近は移動もないから余計にそうなんですよね。でも、この夏に、一緒に札幌から新潟に移動したんですけど、そのときは話をしたんです。本当に久しぶりでした。そして、話をして初めて知ったこともあります。そのときに『俺、バレットは誰でもいいんだよね』って言われたんです。
[西]あ、それはみんな言いますね。仕事さえできれば、ということなんでしょうけどね。
[八][楠]私たちは頑張っているんですけどね(笑)。
[西]海外では、騎手個人というよりは、競馬場のバレットがいるみたいですからね。松岡さんは大変そうですよね。話はするんですか?
[楠]その日によりますね。テンションが高い日は話をしますし、静かな日はその流れに任せるような感じですね。
[西]いやぁ、よくわかります。松岡さんはアップダウンが激しいタイプですからね。
[八]それに対しては、こちらが合わせなければなりませんからね。
[西]大変ですよ。僕たちも、仕事上で支障がなく、スムーズにさえいけばバレットは誰がやってもいいと思っていたりするんです。でも、精神的なプレッシャーは話を聞けば聞くほど大きいことがわかりますよ。だからこそ誰でも、というわけにはいかないんですよねぇ。
[八]こちらとしてはやっているつもりなんですけど、相手としてはそこまで気にしていないということなのかもしれませんね。
[西]騎手とすれば、レースに全神経を集中している。だから、バレットがいて、スムーズに仕事ができて当たり前という意識になるのかもしれないですね。
[楠]当たり前だから、競馬に集中できるということでいいと思うんですよ。
[八]何事もなくていいんです。
[楠]それが正解なんでしょうね。
[西]そういうことですよね。極端な言い方をすれば、バレットの存在すら消えた状態でレースに向かうことができる。バレットの方々は、それができて初めて仕事ができている、ということなんでしょうね。
[楠]レースに集中して、ゲートに向かえるように。そこに尽きると思います。
[西]やはり担当している騎手が勝ったときは嬉しいものですか?
[楠]私は嬉しいですね。
[八]やはり嬉しいですよ。
[西]おふたりは平日に働いて、土日は貴重な休みの時間をバレットとして頑張っているわけですよね。その原動力は何なんですかね。競馬が好き、担当騎手を応援したいという思い、いろいろあると思うんですけど、いずれにしても相当なものだと思うんですよ。
[八]騎手の方々はどのように思っているかわかりませんが、私自身としてはプライドを持っているといいますか、私だったら勝浦さん、丹内さんのために、という思いで、自分自身しかできないという思いで頑張っているんですよ。
[西]でも、騎手たちも言わないけど、そう感じていると思いますよ。
[八]以前、菊沢先生が現役だったときに担当させていただいていたことがあるんですけど、「(勝浦)正樹は何も言わないし、厳しいことを平気で言うけど、感謝しているはずだよ」と言ってくださったことがあるんです。
[西]そうだと思います。だって、もし嫌だったら、変えるはずですよ。そうじゃなかったら、15年はないです。田辺さんも『八田ちゃんは凄い』って褒めてましたし。
[楠]『レジェンドだ』って言っていましたよ。
[西]もちろんまだまだ頑張るでしょうけど。
[八]許されるならば、勝浦さんの引退まで頑張りたいですね。
[西]どうしますか、木幡(広)さんくらいまで現役を続けることになったら。
[八]もちろん頑張りますよ。
[西]もう仕事が恋人状態ですよね。いや、誰にでもできるものじゃないですよ。八田さんは15年、楠木さんも10年ですからね。
[八]気がついたら時が経っていた感じなんですけど。とにかく、勝浦さんがレースに集中できるように、私は自分の仕事をやるだけです。
[楠]やっていると、本当にいろいろあるんですが、レースだけに集中できるように、私たちも集中して頑張ります。
[西]いや、良いお話をありがとうございました。今回、本当にお話を聞かせていただいて良かったですよ。騎手たちがレースに集中できるように、と気を遣いながら懸命に頑張っているわけですから。誰にもできることではありません。疲れませんか(笑)。
[八]疲れますよ。今日は月曜日ですが、もうクタクタですよ。
[西]それでも頑張れる。それが凄いです。この対談を読んでくれている読者の方々も、懸命に頑張っているおふたりをはじめ、バレットの皆さんを応援してくれるはずです。お疲れのところ、本当にありがとうございました。
[八][楠]ありがとうございました。
↑八田さん(右)、楠木さん(左)と西塚助手と記念撮影。
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