【対談・田辺騎手②】ルールになくても、安全のために守るべきマナーがある
2016.2.17
田辺裕信騎手…以下
[田]西塚信人調教助手…以下
[西][西]それにしても、田辺さんもついにフリーですか。
[田]ちょっと、せっかく1年に1回の対談なのに、そんな話題でいいんですか?
[西]いや、いや。大切な話題ですよ。真剣に、実は小西先生と何かあったんじゃないか、と心配したんだから。
[田]僕自身も、うちの先生が引退するまでは所属なんじゃないかという思いは内心どこかにありましたよ。もし先生からお話がなかったら、僕から
「フリーになります」と言うことはなかったでしょうね。
[西]そうだろうね。でも、そこが小西先生の優しさだし、凄さだと思うんですよ。
[田]先生の優しさに甘えさせていただいて、調教に参加しないから何もしないということではなくて、もう少し自分の身体に気を遣ってトレーニングとかいろいろ頑張りますよ。騎手としてだけでなく、全体的な身体のバランスという面からも、いろいろやりたいと思っています。
[西]昔から腰が、腰がと言ってたイメージがあるんだけど。
[田]ちょこちょこあったんですけど、それを坂倉さん(編注:田辺騎手の騎乗依頼仲介者。競馬専門紙『優馬』所属)がやってくれないからこうなったわけですよ。
[二人](爆笑)
[西]冗談は抜きにして、腰痛だからと依頼するのを遠慮したことがあったはずだよ。
[田]予備軍だったのかぁ。
[西]そうでしょう。
[田]そこは坂倉さんに言ってくれないと駄目ですよ。
[西]わかりました(笑)。
[田]でも、それまでの痛みと今回の痛みはちょっとレベルが違ってました。何せ、屈むことができなかったんです。
[西]そこまでだったんだね。ただ、以前も腰が痛いのかなという感じの乗り方をしていたことがあったはずだよ。西塚厩舎時代ですけど。いまは放っておいても勝つから、前ほど田辺さんばかり見なくはなりましたけど。
[田]去年も言ったかもしれませんが、勝ったときでも音沙汰無しですからね(笑)。
[西]だって、当然のように勝つからね。なんなら、今年からまた復活させましょうか?
[田]でも、返事は返しませんよ。
[西]あの頃は返ってきたじゃないですか。
[田]だって、あの頃は他にメールを送ってくる人がいなかったですからね。
[西]ずっと、田辺の1日を見ていたからね。俺はストーカーかっていうくらい見てましたよ。
[二人](爆笑)
[田]あ、そうそう。うちの厩舎に所属になった厩務員さんが、なんと西塚助手の大ファンなんですよ。
[西](笑)。その話題にしましょうか?
[田]知ってるの?
[西]いや、ある人に「この連載をずっと読んでいて、信さんに憧れてる人がいる」と言われたことがあるんですよ。
[田]本当にそれを言ったら、馬鹿にしてるのかと言われてしまうと思うんですけど、「僕マジなんです」って言ってましたよ(笑)。
[西]初めてその話をされたときには、そういうリアクションでしたよ(笑)。
[田]本人から「マジなんです」と聞いたときに、俺も「馬鹿にしてるのか」って言いましたよ。
[西](笑)。でも、このコーナーも10年目を迎えて、牧場時代に読んでくれていた方が多かったりするんですよ。あと、JRA職員の方からも何人かから
「学生時代から読ませていただいております」と言われたことがあるんですよ。
[田]厩舎に来て初めて話をしたときに
「サラブレ見てました」というから雑誌の記事かと思ったら、西塚助手との対談がとても面白いですと言うわけですよ。そんなに自分が面白いかなと思っていたら、西塚さんをリスペクトしています、というんだからさ。変わってんなぁと思いましたよ。
[西]はははは。
[田]変わってんなぁと言って、酒を勧めておきました(笑)。
[西]でも、他の人たちから、こんな人だとは思わなかったとよく言われます。もっと真面目で、ちゃんとした人だと思っていましたと言われるわけですよ。
[田](笑)。で、うちの厩務員さんに、今回対談があるんだけど、一緒に来るかと誘ったら、緊張して何も話せなくなってしまいます、って言っていました。
[西]今度、そういう方と対談させていただくというのはどうなんですか。
[田]ありでしょ。元読者じゃなくて、現読者ですからね。まあ、俺は安夫(故・西塚師)のファンですけどね(笑)。
[西]西塚厩舎では、走らない馬でもたくさん乗っていただきました。でも、西塚厩舎のなかでは走る馬にも乗っていただきましたよね。
[田]でも、馬が故障したり、変なことはなかったですよ。
[西]これだけは防ぎようがない部分というのもありますよ、現実としては。でも、それだけは一番気をつけなければならないところですから。西塚先生は
『信人、ソンソン(二本柳騎手)にも良い馬を乗せてあげなさい』と言っていたんです。
『そこは貴方が決めることでしょう』って言ってあげたかった。
[二人](爆笑)
[田]ボスですからね。その息子のファンが現れたわけですよ。このコーナーって何年続いているんですか?
[西]最初からだと、もう10年になりますね。
[田]うちの厩務員さんはまだ18歳ですよ。
[西]いやぁ、俺なんかで申し訳ないと思います。
[田]それもそう思うよ。
[西](笑)。本当に申し訳ないです。
[田]いやいや、もっと面白い話をしないと駄目ですよ。
[西]田辺さんお願いしますよ(笑)。
[田]この関係だから聞ける話っていうのがあるじゃないですか。
[西]じゃあ、よろしくお願いします。いくつかあるんですが、(田中)勝春さんが石川(裕紀人騎手)に怒った件がありましたよね。
[田]確か、あのとき僕は関西でモニターを見ていたんです。勝った石川がズームアップされていたんですが、その横でずっと離れないで何かを勝春さんが言っていたので、一緒にいた蛯名さんに
『勝春さん、何か怒っていますね』と言うと
『昨日からだなあ。たまっているんだろう』と話をしていたんですよ。
[西]あ、前日にもあったんだぁ。田辺さんはもう若手ではないですけど、いろいろな騎手の方々がいます。どういうことかと言うと、田辺さんは若手時代、いわゆる三場、ローカルを主戦としてそこから登っていきました。
[田]決して、好きでそうしたわけではありませんけどね。
[西]結果としてはそうなわけですよ。でも、それに対して三浦や松岡さん、そして石川のように、最初から本場で乗っている方々もいます。そこで聞きたいのが、三場だから許される部分ってあるのかなぁ、ということなんだよね。今回、勝春さんが怒っていたのは内ラチ沿いの通り方だったりするのかなぁ。
[田]そうでしょうね。全体的に強引なレース運びについてだと思います。減量騎手が少ない状況で、しかも最近勝っているから余計に石川に良い馬が回っています。だから、脚がある馬に乗っているんです。でも、暗黙の了解と言いますか、安全のために騎手として守らなければならない部分があって、みんなはそれを守っているんですけど、そこを無視してしまっている感じなんですよね。勘違いしてほしくないのは、ガッツと乱暴は違いますから。
[西]でも、ファンの方々だけでなく、厩舎関係者のなかにも、勝つためにはそれでも良いという人がいますよね。
[田]でも、どうしますか。他の騎手が危険だと感じて、1頭分あるか、ないかというスペースを空けていたとします。そこに無理矢理突っ込んできた結果として、相手ではなく自分が落馬してしまったならば。突っ込んだ方が悪いけど、でも結果としては落とされた方になるので責められないわけですよ。
「入った方が全部悪い」という解釈をされなくなるんです。そういう騎乗をした結果として、自分が命を落とす危険があるという自覚を持たなければなりません。もちろん自分でなく、他人をケガさせてしまったときのこともしっかりと理解しないと駄目ですけどね。
[西]程度の差はあるのかもしれないけど、調教での馬場使用に関しても暗黙の了解があるんだよね。
[田]度が過ぎた感じですかね。危ない、危なくないというレベルではなく、怪我をするか、しないかの瀬戸際、もっと言えば命に関わるわけです。
[西]確かにそうなんだと思います。ただ、実際にそういう実感がないと理解できないのかも。
[田]そうなのかもしれませんけど、ルールになくても、マナーですよ。もっと言えば最低限のマナーだと思います。
[西]まあ、そうなんだけど、助手なら知っている馬場の使用についてのマナーも、厩務員さんにはわからないわけですよ。たとえば、角馬場での進路の取り方についても。レースとはレベルが違うけど、みんなで乗っているということは同じだと思いませんか。
[田]馬場の使い方として、内でダクを踏んで、外でキャンターをするということは、角馬場の使い方としてルールでは決まっていません。でも、みんな気を遣いあって、そうしていますからね。
[西]そういう意味では、石川の危険度を我々助手にわかれって言っても無理だよ。実際、競馬に乗ったことがないとわからない部分があると思う。だから、それでも良いと言う厩舎関係者が出てしまうのかも。
[田]石川は危ないよ。ただ、かわいそうなところもある。今回のように実際に危ないときには怒られるべきだけど、そうじゃないときでも、中には先輩だからと言って理不尽に怒る人もいるから、わからなくなってしまうこともあるんです。そうなると、今回のように本当に危なくて怒られているのに、またかとなってしまいかねないわけですよ。
[西]なるほどね。その危なさというのは、乗っている人にしかわからないよ。入れるんじゃないか、と思うときもあるからね。
[田]見たままのときももちろんありますよ。でも、ラチじゃなくてロープのところなどは危ない。馬がロープをみえてなくて、からまってしまって転倒してしまう可能性があります。
[西]障害レースの4コーナーでときたまあるね。
[田]それですよ、それ。直線に向かわず、ロープの方へ行ってしまうんですよ。あれは馬が見えてないからです。
※来週に続く
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