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【対談・田辺騎手③】ジャパンCのムーア騎手は“世界レベルのセコ乗り”だった
2016.2.24
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田辺裕信騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]石川の話で思い出したんだけど、松岡さんや三浦が若い頃は、同じようによく“危ない”と言われていたよね。

[田]松岡は制裁王だったからね。元気が出てくるまでは。丸山さんが記録更新されたんですよ。

[二人](爆笑)

[田]ウサイン・ボルトですよ、ボルト。

[西]違うけどさ(笑)。でも、そういう経験を経て成長していくというのも現実じゃないですか。

[田]現実に松岡は、いま全くと言っていいくらいに制裁はないですからね。

[西]それに対して、田辺さんは三場を制してきたわけですよ。

[田]でも、騎手としては本場で乗れて初めてスタートラインというか、そこの差は正直あります。

[西]そういう意味では、三浦も最初は三場だったよ。うちで乗せたもん。田辺さんを裏切って(笑)。

[田]そういうこともあったかも(笑)。

[西]ただ、師匠がうちの親父の後輩で、ラインだから(笑)。

[田]ビエンナーレのラインか(笑)。

[西]田辺さん的に、石川はどうなの?

[田]人の話を聞かないところは確かに良くないですよ。でも、ブレることなく頑張っているし、良い感じで来ていると思います。乗り方については、いろいろ言う人たちがいますが、正直何が良くて何が悪いかなんてわからないですよ。だからこそ、自分で考えて、ブレないでやり続けることが大事だと思います。もちろん、危ないとか、そういうことは聞かないと駄目ですけどね。

[西]なるほど。じゃあもうひとつ、素人みたいな質問をします。最近、田辺さんは“逃げ”が多いように思うんですけど。それは“エイジ”(中舘師)の影響なんですかね(笑)。

[田]“エイジ”の影響は常にありますよ(笑)。だからと言って、逃げたいということではないんです。それって、重賞とかですよね?

[西]そう、そう。ここ一番的な感じです。

[田]重賞とか、だからですよ。逃げ馬がいれば、特に自分が逃げなくてもいいんですけど、自分が出して行って、逃げ馬に絡んで行ったら、相手はどういう反応をするのか。そこで相手が更に来たら引きます。でも、みんな大事に乗りたいから、結構譲ってくれたりするんですよ。ここ一番では、それができるかどうか。



[西]セコく行くというより、何か違ったイメージを感じるんですよね。そう言えば、前に“行くフリ”をするって言っていたよね。

[田]“逃げるフリ”、“追うフリ”、“みんなフリ”ですよ。

[西]はははは。上手い、上手いよ。話は逸れるけど、追うで思い出した。ジャパンCで2着に好走したラストインパクトのライアン・ムーアの騎乗についてなんだよね。あれは世界レベルのセコ乗りじゃありませんか。

[田]まさにそう。

[西]世界レベルの騎手が、世界レベルでセコ乗りをしたということでよろしいでしょうか。

[田]同じルートを狙っていました(編注:田辺騎手はダービーフィズ騎乗)。そしたら、こちらは4コーナーで脚がなくなってしまったんですよ。こちらがなくなってしまったので、狙っていたルートを行かれてしまいました。

[西]あ、そうだったんだぁ。

[田]正直、ムーアで2着に来て、有馬では乗れなくなって菱田になったわけですけど、内心かわいそうだと思いましたよ。東京と中山の差もあるけど、同じ乗り方をして前が空く可能性はかなり低くなりますからね。

[西]でも、着順で“騎手の差が”とか言われてしまうわけですよね。

[田]内で詰まれば何をやっているんだとなるし、外を回せば騎手の差とか言われてしまいますからね。少しかわいそうだと思います。

[西]あの、ジャパンCの2着をムーアだからと言う人たちがいましたが、田辺さんが同じように乗ったら同じようになっていたはずだと思うんですよ。カタカナのマジックみたいに感じるんですけど。

[田]じゃあ、田辺じゃなく、“タナベ”にしようか。

[西](笑)。“ヒロ”とかね。

[田]外国人ジョッキーについて、追えるとか追えないとかいろいろ言われますが、一番良いところは“すべてのレースで思い切れる”ということですよ。

[西]あ、言いたいことはわかる気がする。日本人のようにお世辞とかいらないしね。

[田]ゴマスリとかいらないですから。日本人は負けたときのことを考えたり、次のレースのことを考えたりとかいろいろありますからね。そもそも外国人ジョッキーと付き合いのある馬主さんって、そんなにいないですし、外国人ジョッキーに向かって文句を言う馬主さんなんていないじゃないですか。

[西]そりゃそうだ。もし、有馬でムーアが乗って、同じように後ろから行って負けたとしても、ムーアが乗って駄目だから仕方がないということになる。

[田]もし、そこでじゃあ次はムーアを代えて、となっても、ムーアはいないから関係ないね、という感覚です。僕自身も、マレーシアで乗ったときに、厩舎の人にいろいろ話をされましたが、これ1回きりだから別にいいや、と思い切り乗っていました。

[西]そしたら勝っていたよね。ムーアの気分を味わっているわけだ。

[田]2、3着を狙う必要はないわけですよ。思い描いたレースをして駄目だったら仕方がないと思える。

[西]ムーアの何が凄いの?

[田]静か。

[西]はっ?

[田]ジョッキーなのに静かなんですよ。

[西]はははは。あ、話は変わるけど、ジャパンCと言えば4着のジャングルクルーズもセコ乗りでしたよ。大庭さんの言うところの、前々のセコ乗りですよね。

[田]やりますよね、セコ乗りヒロシさんも(笑)。

[西]北村さんは、なかなか良いセコ乗りをしますよ。あまり大味な乗り方はされないです。

[田]安定感抜群ですよね。

[西]公務員的な感覚かも。あと、これは書いていただいていいんですが、北村さんは上がってきてからのコメントが抜群。僕自身は、北村劇場と呼ばせていただいているんです。



[田]いやぁ、見習いたいんですよ。

[西]本当に、見習った方が良いですよ。いや、北村さんは凄い。聞いていて、気持ち良くなるコメントをされています。田辺さんみたいに、駄目だぁとか否定的なコメントは一切ありませんからね。

[田]でも、ノリさんに近づいていってるかなぁ。

[西]あっ、ノリ劇場もあるからね。

[田]ノリさんに「あんなことを言ってしまいました」と言うと、「俺なんかもっとよ」と仰るから、大丈夫かぁと思うわけですよ。誤解しないでいただきたいのは、ノリさんは意外とコメントを見ていて、「俺はこんなこと言っていねぇぞ」とか仰るんです。あと、レース分析のところで“前が詰まって失速”とか書かれることがありますが、脚がなくなってしまって失速していることもあるわけですよ。でも、ファンの方々はそれを見て、「そうなんだ」と思うことになるわけです。それってどうなんだと。わからないのならば書くべきではないということですよ。

[西]ノリさんは一緒に仕事をさせていただく機会があるんですが、本当にいろいろ話をしてくれますし、教えてくれます。

[田]意外とあの性格を誤解されて、相手が壁を作ってしまっているようなところはあるかもしれませんよね。

[西]ある馬で、うちの先生の質問が終わった後も、ずっと質問をしていたら、最後に『お前のその気持ちはわかったから、頑張れ』と言われたんですよね。でも、コメントの好きずきは人によると思います。

[田]ハッキリ言ってくれた方が良いという人もいれば、オブラートに包んで説明されるのが良い人もいますよね。

[西]確かに、馬主さんも自分の馬に対して厳しい言葉を聞くのは辛いかもしれないんですけど、でも本当の話を聞いていただいた方が良いと僕は思います。以前「牧場では凄く褒められていたのに」と言われたことがありました。

[田]でも、そもそも幼稚園でも、先生が園児の保護者に向かって言うのはプラスの部分であって、マイナス要素というのはあまり言わない傾向にあると思うんですけど、それと同じでしょうね。大人になるにつれて、本当の事がわかっていくというか、良いところばかりではなく、悪いところもみえてくるわけですよ。

[西]いやぁ、あなた深いね。深イイ話だわ。

[田]子供に対して良いことばかり言われると、じゃあ何も教えなくて、注意しなくて良いのか、と思うわけですよ。うちでは、もっといろいろ教えて、やらせなければならないと思っているのに、というと、「そろそろ時間なんで」と言われてしまうんです。

[西]はははは。面倒くさいと思われているんじゃないですか。

[田]でも、そうじゃないですか。本当に子供のことを思うのならば、本当のことを言ってもらわないと。

[西]本質論者なんでしょうね。

[田]ゴマスリとか好きじゃありません。人の顔色をうかがって話をするのは嫌です。

[西]騎手の本質として、馬のベストパフォーマンスを発揮させるべく頑張って、その上で馬の状態をジャッジして、調教師や馬主に伝えるということですよ。決して、調教師や馬主さんが喜ぶことを言うことではないはずです。

[田]でも、それを1年目の騎手がやったらどうなりますか?

[西]それはそうだけど。でも、田辺は1年目の段階でわかっていたと思いますよ。

[田]走らない馬に乗って「どうしたら良いんだろう」って、正直に言っていましたよね。そうやって辿り着いたのは、“走らない馬はどうしようもない”ということですよ。

[西]うはははは。

[田]人間では、陸上だけでなく、相撲や野球、サッカー、あるいはアメフト、ラグビーといろいろなスポーツがあります。それらのトップレベルの方々は、ほとんどの方々が運動神経が良いはずなんです。ただ、そのすべての人たちが走るのが速いかというと、そこはイコールではありません。でも、馬は走ることしかないんです。

[西]あとは跳ぶことくらいですか。

[田]背中が良いけど、速くなれないという馬は、ひょっとしたら野生で相撲を取らせたら強いのかもしれないわけですよね。

[西]要するに、受験勉強だけで子供の能力を判断しているみたいなものですね。

[田]勉強はできなくても、頭の良い人もいますし、能力は高いということになりますよね。あくまで向き、不向きもあるんじゃないかということです。

[西]競馬で言えば、平地で未勝利の馬が大障害を勝つわけですからね。

※来週に続く

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