独自視点で穴馬推奨!競馬予想支援情報【サラブレモバイル】

サラブレモバイル

メニュー

ログイン


【対談・田辺騎手④(終)】実力以上に人気になった時は乗り方が難しい
2016.3.2
✉️応援、質問メッセージを送る

田辺裕信騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]

[田]で、(調教師試験の)勉強してるの?

[西]ボチボチ。

[田]まあ、勉強ももちろん大事だろうけど、調教師は営業力じゃないですかね。でも、大変だなぁと思います。あの抜群の営業力を誇った中舘さんでも、大変そうですからね。

[西]あの中舘さんでもですか。

[田]騎手とは違いますよね。騎手は切れてしまっても仕方ないけど、調教師はそうとばかりは言っていられないのかぁ。

[西]でも、そのあたりができるかどうかというのは別にして、あの零細厩舎での経験は貴重だと思います。

[田]だから、あとは勉強だけなんだって。

[西]いやいや、頑張りますよ。

[田]自分が間違った方に進もうとしたときに、それは違うんじゃないかと言ってくれる人たちがたくさんいるわけですよね。いろいろな馬主さんとやり取りして、厩舎を回していたわけですから。

[西]あの時代の馬主さんたちがいまでも声をかけてくださることが、また嬉しいんですよ。

[田]違う厩舎の助手になっても、面倒みたり、気にかけてくれたりというのはなかなかないですよ。

[西]本当にそう思います。先日、ある出来事で思い出したのが、他の先生方から敬遠される個人オーナーの方がいらっしゃいました。その馬主さんとうちを手伝ってくださっていた騎手の方々と食事をしたときに、「この子たちで勝ちたい」と言われたことがあったんです。そういう思いが嬉しいですし、そこの思いを粋に感じたりするものなのかなぁと思うんですよね。

[田]だから頑張ってくださいよ。

[西]そういう田辺さんは凄い成績を収められるようになられました。最近になって、難しいなぁと思うようになったことと、逆に簡単だぁと思うようになったことってあったりしますか?

[田]難しいなぁと思うのは、実力以上に人気になってしまっているときの乗り方ですかね。

[西]ああ。

[田]本当はセコ乗り的な乗り方をしたいんです。でも、人気になってしまうわけですよ。本当はそんなに強くないと思っているのに、他の騎手たちは新聞を見て、印から“この馬が強い”と、付いて行けば良い、邪魔してやろうと、マークされてしまいます。

[西]でも、そこまでの力はないということですよね。そういう人気馬への包囲網というのは、本場と三場では違うものなんですか?

[田]ペースが違いますよね。どういうことかと言いますと、三場では縦長になったりして、バラけやすいんです。

[西]ペースが速いからですか?

[田]ローカルは速いです。そもそもダート1000で行こうと思っているときに、ペースとか考えていると思いますか?

[西]考えていないよね。

[田]ほとんどは、行けるところまで行ってやれと思っていますよ。そこで生み出されるラッキーもあります。人気のある馬が行きたいと思っているときにでも、何がなんでも行くぞというカミカゼボーイたちがたくさんいて、それによって人気馬が影響を受けてしまうケースが出てくるんです。だから、人気馬に乗っていれば、嫌だな、と思ったりもしますよ。ただ、三場では指示を守ることを最優先に考える騎手も少なくなかったりもするんです。でも、そうなると人気馬は楽になりますし、相手の動きが読みやすいですよね。

[西]なるほどね。それが本場だとどうなるんですか?

[田]思い切ったレースをする騎手は少ないですよね。ただ、それはコースが三場と比べて広くなるということはあると思います。

[西]あ、コースが大きいがゆえに、カミカゼがなかなか成功しなかったりするということだね。

[田]それでも中山はマクリとかも利くので、個人的には好きなんですけど、東京のように広いコースではそういう競馬が成功する可能性は低いですよね。

[西]そうなると、能力通りに決まっていく可能性が高くなるということだよね。

[田]こちらがどうやっても勝てないという馬はいますよ。その相手を負かすには、相手が走れない状況を作り出すしかありません。だから、そういう動きをしてきます。それに対して、他の人から“走る”と思われていても、乗っている方は“走らない”と思っているわけですよ。だからと言って、内々でセコ乗りをして、ということはなかなか難しいです。何でもこんな弱いメンバーで、そんなところにいてと言われていまいますし、上がってきて「弱いと思ったからです」とはなかなか言えません。でも、それを外国人はできるし、やっていますよ。

[西]なるほどね。

[田]通訳の人たちが柔らかい表現で言っているのだろうけど、言っていると思いますよ。

[西]いや、その通り。「俺だけロバに乗せられた」とか言っているみたいだよ。

[田]よくノースピードとか、ノーパワーとか言っていますよ。

[西]あ、また話は変わるけど、よく春の福島500万とか未勝利とか、以前は弱いと言われていました。でも、関西馬たちが関東の本場への出走が制限されたことで、むしろ強くなっているのかなぁと思ったりしているんですけど。逆に東京の未勝利戦などは弱くなったなぁと思ったりするんです。

[田]時期もあるんじゃないですかね。ちょうどこの時期は、メンバー的にそういうレースもあるかもしれません。まあ、尾関厩舎に行ったからそう感じるんじゃないの?

[西]あっ、尾関厩舎に行ったから調子こいてるのかなぁ(笑)。

[田]もし西塚厩舎だったら、「どこ使えば良いのかなぁ。弱いところに、と思っているんだけど、全部強いよ」って言っているんだから。それで「よし、今週はパス」と言っているんですよ。

[西]はははは。じゃあ、金沢で、とね。あるいは、田辺さん平日の54kgで船橋行っちゃう?

[田]「船橋かぁ。あっ、名古屋? 行く、行く」ってね(笑)。

[二人](爆笑)

[西]それにしても、人気になっている力のない馬かぁ。厩舎や騎手、あるいは馬主さんで人気になったりもするよね。

[田]そうなんですよ。

[西]それで負けると騎手が敗因になってしまったりするよね。

[田]ファンの方々からすればそう思ってしまうと思いますよ。もちろんそういうケースもあります。でも、そうではないときにジョッキーが言い訳するのではなく、調教師さんがしっかりと話をしてもらえたらなと思います。

[西]そうなんですよ。レース後のコメントって、ほとんどジョッキーがするでしょ。もう少し調教師が話をしても良いと思うんだよ。だって、調整ミスということだってあるし、それをしっかりと説明するべきだと思うんです。

[田]それをいうと馬主さんへの影響があるから、なかなか難しいということでしょうね。成績を出している厩舎ならばまだしも、そうじゃないと預託に関わってきてしまいますから。

[西]でも、これは綺麗事ではなく、そうやって頑張っていかなければいけないんじゃないかと思うんですよ。いまは騎手が毎週、毎週、レース毎に矢面に立たされるとのも仕事になってしまっていたりするわけだから、大変だよね。

[田]ノリさんが人間らしく言っていますけど、人気で負ければやはりイライラするものですよ。そういう空気を感じてもらえないときもあります。

[西]レース後はどうかわからないですけど、マスコミ側としては記事になるという意味で良いコメントが欲しかったりするからね。僕たちも記者の方々からレース前とか取材を受けます。よく「どうなの?買えるの?」と聞かれますが、その馬の状態については説明できますけど、相手の調子まではわかりませんからね。

[田]投票前にテン乗りの馬について聞かれるんですけど、確定していないし、正直知らない馬もいるんですよね。

[西]そういう意味では、新聞記者の方々の印が人気になって、それが関係者もイコールと考えているということではない、ということだけはご理解いただきたいですね。

[田]そう、そう。印は新聞記者の方々それぞれの考えであって、実力の順番ではないということですよ。

[西]でも、騎手って大変だね。命をかけて、それで矢面に立たされて、しまいにはすぐ乗り替わり。

[田]僕はまだ良い方ですよ。いや、かなり良い方ですね。若い子たちなんて本当に大変なんですよ。一部では、若いうちからお金稼いでとか言われているみたいですけど、命の危険もそうですが、騎手生命なんて決して長い方ではないですし、生命保険には入れないですし、見えないかもしれないけど苦労があるんです。

[西]よく世間の収入と比べる人がいるけど、ナンセンスだと思うんですよ。それぞれの職業にも危険はあるでしょうが、馬の世界は、騎手たちばかりでなく、僕たち携わる人間すべてに命の危険があります。決してそこが収入とイコールにはならないけど、その命を失う危険度が高いということの重みはもう少し感じなければいけないと思うんです。

[田]そういう話もされて良いと思いますよ。

[西]レースに乗ったことがないから、本当の凄さとか、怖さはわかりません。しかも、騎手の皆さんは俺たちのようにセーフティライディングではないわけですから。でも、自分は馬に乗っているので、イメージすることはできるわけですよ。それでも、俺たちが乗ってヤバイと感じる馬でもレースしているわけで、考えただけで竦みます。

[田]馬券が売られている以上は、全力疾走ですからね。

[西]うちの厩舎にノースサンデー(※)産駒がいたんです。お母さんが気難しい馬で、デビュー前の追い切りで勝春さんが乗ったときも、左右に飛んでいくようなところがありました。レースで乗るノリさんは「お母さんのことはよく知っているから大丈夫」と言っていたので、僕がノリさんに「競馬に行けば大丈夫ですから」と、真顔でイジらせていただいたところ、「まだ競馬したことないじゃないか」と笑っていただきました。

※93年生まれ。父サンデーサイレンス。96年桜花賞で3着に好走するも、次走オークスの直線で蛇行し、5位入線12着降着となった。

[田]でも、「競馬に行ったら大丈夫」といいますけど、本当にそんなことないですよ。

[西]調教でできないものはレースではできないよね。あっ、そうだ。この前ネットを見ていて、武豊さんとか、ミルコやルメールの話のなかで、「田辺さんが上手」という話をよくみかけるんですよ。そういう風に言われているって知ってた?

[田]豊さんも、ミルコも、ルメールも皆さん上手ですから。でも、その人たちに勝たないと駄目だから、そりゃ大変ですよ。どうぞ、どうぞなんてやっていたらいつまでも勝てないです。「僕の馬も脚があるんですけど、豊さんの馬は人気馬なんで、どうぞ、どうぞ」なんてやっていられませんから。

[西]はははは。

[田]そもそも、豊さんとかミルコとかルメールとか、競馬だけでなく、馬乗りも上手ですよ。そう思いませんか?

[西]馬乗りということで言えば、藤田(伸二)さんの上手さは抜群だと思ったことがあるんですよ。

[田]上手ですよ。

[西]まあ、皆さんプロであって、上手なのは当たり前なんでしょうけど、そのなかでも上手い人っていますからね。

[田]良い馬に上手い人が乗っているんだから、大変ですよ。

[西]いやぁ、田辺さんと話できて良かったですよ。相変わらずの田辺さんですね(笑)。

[田]そうですよ(笑)。そういえば、よく「昔は辛かったね」と言われたりするんです。

[西]あ、10勝、20勝の時代のこと?

[田]そうみたいです。でも、全然辛くなかったんですよ。その時はその時で楽しかったですし、収入に関してもその時はその時でやれていましたからね。だから、人気馬に乗ったときでも、どうせチャンスは1回だろうなぁと思って、どうせ負けるならば自分が考えたレースをして負けた方が、絶対に納得できると思っています。さっき“最近よく逃げる”という話がありましたが、そういうことですよ。逃げて負けたときには、馬の力を出し切って負けているということになるじゃないですか。

[西]そうだよね。邪魔されたとかはないんだから。

[田]それで負けてしまって乗り替わりならば仕方がないですよ。でも、指示通りに乗って負けて乗り替わりというのではやはり何も残らなくなってしまいます。

[西]そこなんですよ。生意気と言われるかもしれませんが、指示を出した以上はやはり騎手を守らないと駄目だと思います。また結果論で話をする人が多いよね。スローなのに、って言われても最初から分かっているわけじゃありません。

[田]スローと思って、動いたら急にペースアップすることだってありますし、そういう中で臨機応変に判断して動いているのが競馬なんです。

[西]いやぁ、お忙しいなか本当にありがとうございました。もっとお話をしたいところなんですが、遅くなってしまいましたので、またぜひよろしくお願いします。

[田]メシはいつでも誘ってください。

[西]ぜひ行きましょう。



※西塚助手への質問、「指令」も募集中。競馬に関する質問、素朴な疑問をお送り下さい! 「こんな人と対談してほしい」などのリクエストも歓迎です!