1頭の馬がもたらす人の繋がりも、競馬の魅力だと思うんです
2016.5.11
7日、新潟10Rの
春日山特別で
イイデフューチャーが勝ちました。このレースを見て感じたことがありましたので、今回はそれについてお話をさせていただきます。
現在の
イイデフューチャーは、西塚厩舎時代に預託をしていただいた松本俊廣オーナーの所有馬ですが、これは友人であった前オーナー(名義はアールエスエーカントリ)が亡くなられたために名義変更され、その初戦だったそうです。
好位につけて押し切る見事な勝利でしたが、オーナー自身も
“正直なところ、勝つとは思っていなかった”とおっしゃっていました。
一度このクラスを勝っているとはいえ、ここ数戦がいまひとつの成績でした。しかも休み明けということもあって、実際調教もそこまで良い感じではなかったようで、次につながるレースをしてくれればということだったようです。
松本オーナーの
『渡辺さん(前オーナー)が背中を押して勝たせてくれたんだよ』という言葉に、うちの父親が亡くなった週末に
エフテーストライクが中京で勝ったことを思い出しました。
あの時、他にも期待していた馬もいたんです。でもそのなかで、父が一番かわいがっていた田辺が騎乗した
エフテーストライクが勝ったときには、これって奇跡だと感じましたよ。
この世界では、オーナーや関係者が亡くなったりすると、馬が走る、というような言われ方をよくします。
もちろん全部が全部ではありませんし、科学的な根拠もありません。たまたま結果としてそうなっているだけと言われればそうなんです。
ですから、なかにはそんなの迷信だという方もいらっしゃいます。でも、僕自身には実体験がありますので、そういうことはあると思っています。
なぜそうなるのか。何とか結果を出したいという思いで頑張るから、ということを言う人もいますが、そこはいつもと同じだと思いますよ。
そもそも、この仕事は95%以上、ほとんどのことが上手くいかないものです。それは皆さんもお分かりいただけるでしょう。
僕自身、何度もお話をしているように、とにかくできること、やるべきことを全力でやることが大事であって、その結果として良い結果が出れば良いし、駄目ならばなぜ駄目なのかを考えてまた頑張っていくしかないと思うんです。
ですから、たくさん勝っている厩舎、たくさん勝っているオーナーの方々であっても、
「もっと勝って良いはず」だという思いはあると思います。
言い方は乱暴かもしれませんが、人間が何かをしても、簡単に結果が出る世界ではないんですよ。
馬も生き物です。そのすべてが理論では説明できないこともあるんですよね。
よく厩舎で馬が亡くなると“不幸が続く”と言われるんですが、そういう感覚もあります。馬が寂しくて、1頭ではあの世に行けないから連れていくんだ、と聞いたことがありますが、それも経験のなかで納得させられます。
もし1頭が命を落としてしまったら、携わる人間たちはたとえ自分たちの力が及ばないとしても『気をつけよう』という思いで携わっているはずです。それなのに事故が続いてしまうわけですからね。
人間が亡くなると背中を押してくれる、馬が亡くなると一緒に連れて行ってしまう、という言い方を古い厩務員さんのなかにはする人がいます。そういうことってあると思います。
そして、こういう部分も競馬の醍醐味のひとつだと思うんですよ。
確かに、強い馬が強いレースをすることも競馬の醍醐味のひとつですが、“1頭の馬がもたらす人と人の繋がり”も競馬が持つ魅力だと僕は思いますし、そういう部分があるから競馬に魅力を感じるというファンの方々もいると思うんです。
いろいろ事情もあるかもしれませんが、マスコミの方々にはそういう部分もぜひファンの方々に伝えていただければと思っています。
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