【対談・高木助手②】天才的にゲートが上手い馬も、中にはいるんです
2016.6.8
高木大輔調教助手…以下
[高]西塚信人調教助手…以下
[西][西]ゲートの話を続けましょう。今思い出したのですが、ゲートをやられていない馬のなかにも、狭いところが嫌で拒絶する馬もいます。やられていて苦しくて拒絶する馬とは、嫌がり方も含めて反応が違ったりしますよね。当然ですが、ゲートに入らないのは同じでも、対応が違ってくるんですけど。
[高]嫌がる理由が違うわけですから、対応も当然違ってきますよね。
[西]狭いから、あるいはゲートがわかっていないために、用心して立ち止まったならば、騎乗者が安全であることを馬に伝えて、ゼッコ(注:舌鼓、舌を鳴らすこと)などの軽い扶助で促していく感じになるんですが、苦しい馬は扶助に対して関係なく拒絶するようになってしまうんです。
[高]そうですね。
[西]そうなると、より強い扶助を用いなければならないわけですよね。その最終形が“縛り”ということなんですけど。ただ、ゲートに対して本当に能力があるというか、天才的に上手い馬がいますよね。
[高]いますね。入厩した次の日に試験を受けても大丈夫だと思わせられる馬は実際いますよ。
[西]ダクとかキャンターではそれほどでもないのに、ゲートを出るときだけはまるで競馬を走ったことがあるように出ていく馬がいるんですよね。
[高]攻め馬では反応がいまひとつで、動けないと思うんです。そういう感覚でゲートに行くと、“とりあえず前扉を開けてから”とか言っていると、もの凄い勢いで出ていくことができる馬がいます。
[西]そういう馬って、やられてきるはずなんですけど、ゲートに対して嫌悪感を示さないですよね。
[高]そうですね。競馬を使っているような反応ですかね。
[西]読者の方々にご説明しますと、やはり一番良いのはゲートのなかでは大人しくて、扉が開いたら素早く出ていくことができるという状態です。それを、教えることなくできる馬たちがいるんです。
[高]でも、だからと言って競走馬として活躍できるかというと、決してそういうことではないんですけどね。
[西]確かにそうです。ただ、どうせ出ないんだろうなぁと思っていて、いきなり経験馬みたいな感じでゲートを出られるとカルチャーショックを受けますよ。
[高]言いたいことはわかります(笑)。
[西]そういう天才みたいな馬たちがいるから、人間側が一緒くたに進めてしまうという部分はあると思います。
[高]そういう面はあるだろうね。でも、それでは駄目なんですよ。
[西]やはり馬はそれぞれに合わせて、ひとつずつということですよね。でも、そんな中に天才たちがいて、そこに合わせてしまうんでしょう。
[高]うちでは、どんな馬でも、いまなお最初の段階から進めるようにしています。先に進められる場合でも、確認する意味で段階を追いながらやっていきます。
[西]それが良いと僕も思います。
[高]やっていると、あとどのくらいで試験に合格できるがわかります。でも、決して焦らないように、先生には『あと何日くらいで合格できると思います。だから今日はここで止めましょう』というように説明しますし、先生は理解してくれます。実際、止める勇気も必要だと僕は思うんですよね。
[西]わかりますよ。
[高]ゲート試験の合否を判断するのはスターターの方々です。よく全頭をみていますし、いろいろ協力もしてくださります。ただ、具体的に何秒で、というようなルールや基準でやっているわけではありませんので、印象が左右する部分も少なからずあると思います。やはりしっかりと練習をして、段階を踏んでいることは知ってくれていますし、そういう部分を評価してもらえていると思います。
[西]確かにそういう部分はあります。スターターは各馬をよくみています。しかも、各馬がどのようなステップを踏んできたかまでチェックしていて、そういう部分も加味してくれていますよね。そこまでは出来ていたのに、たまたま試験の1回だけ寄りや入りが悪いことがあるんですが、そういう部分はよくみてくれていますよね。
[高]偶然はあります。ギリギリかぁと思ったときに『練習しているのをみているし、ここまではできていたから』と言って合格させてもらうことがありますよね。ゲート試験は2回出しますが、1本目は寄りと駐立、2本目は発馬の状況に重点が置かれるとされていますので、馬の負担も考慮しなければなりません。だから、1本目は敢えて発馬に速さを求めず、2本目に速く出していくようにしています。
[西]読者のみなさんにはなぜ1本目を出さないかということについてお話をさせていただきますと、1本目で目一杯行ってしまうと、2本目で苦しがってしまう可能性があるからなんですよね。
[高]そこの話をするならば、僕自身は前日にスクーリング的な練習のときにやっていることがあるんです。1本目は普通に出した後、再びゲートに戻っていきます。そしてゲートに入れます。でも、そこで出さずに、後ろから出します。
[西]なるほど。
[高]馬に2回目に入ったとしても出されないんだよ、と思わせておくんです。そうすることで、翌日2回目に入ると馬は出されるのか、出されないのか、わかっていない感じで、そこで出していくんです。
[西]テクニックですね。そこでは高木さんのなかに『この馬ひょっとしたら苦しがるかも』という感覚があるんじゃないですか?
[高]もちろんです。そこまでの馬の反応をみて、そのなかでの感覚ですよね。
[西]あと、同じ厩舎ならば良いですけど、他の厩舎と一緒にゲート試験を受けるときは、これまた難しい部分がありますよね。
[高]実は、今日そういうことがあって。相手も一緒に合格できたから良かったんですけど、こちらが抜群のスタートを切って、かなりちぎってしまう形になってしまったんです。なるべく同じような感じでと思ったんですが、もうどうしようもありませんでした。逆に併せて落ちてしまっては本末転倒ですので、『ごめんなさい』と言いながら行ったんですけど、相手も受かっていて良かったですよ。
※次回に続く
※西塚助手への質問、「指令」も募集中。競馬に関する質問、素朴な疑問をお送り下さい! 「こんな人と対談してほしい」などのリクエストも歓迎です!
|