【対談・高木助手④(終)】メジャーエンブレムは桁違いのパワーの持ち主です
2016.6.22
高木大輔調教助手…以下
[高]西塚信人調教助手…以下
[西][西]話は変わりますが、
NHKマイルCを勝った
メジャーエンブレムです。せっかくですので、
メジャーエンブレムについても聞かせていただけたらと思います。
[高]お母さんの
キャッチータイトルもうちの厩舎の所属でした。体質が弱くて、いまで言うスーパー未勝利で初勝利を挙げたんです。そこから5勝を挙げて、オープン馬になって繁殖牝馬として牧場に帰りました。
[西]お母さんにも乗っていたんですか?
[高]乗っていました。お母さんは本当に穏やかで、人間に従順だったんです。それで2年連続で
ダイワメジャーが花婿となり、
メジャープレゼンスと
メジャーステップという兄たちが生まれて、その2頭もお預かりさせていただいたんです。ただ、
メジャープレゼンスがセン馬になっていることからご想像できるからもしれませんが、これがかなりのヤンチャぶりで、人間が怪我をするか、馬が怪我をするかというようなレベルでした。そのイメージがありましたし、しかも牝馬でしたから、現場としては正直かなり構えていましたよ。
[西]それはそうなりますよね。
[高]しかも入厩前の写真をみると、兄以上に
ダイワメジャーに似ている雰囲気でしたので、かなり激しい気性の持ち主だと覚悟していたんです。それが本当に大人しくて、本当に良い意味で裏切られた感じでした。
[西]お兄さんたちは調教とかでも凄かったんですか?
[高]嫌がって、暴れて、馬場入りできなかったり、キャンターしている最中にビタっと止まってしまったりという感じでした。
[西]エンブレムはそんな素振りさえなかったわけですか。
[高]全くです。本当に大人しくて、逆に驚かされました。ただ、馬体は2歳の牝馬としてはちょっと規格外という感じで、たくましかったんですよね。
[西]よく覚えていますよ。確かに、目について話題になっていました。最初に、“走る”と手応えを感じたのはいつだったんですか?
[高]去年のいま頃は、雨が多くて、坂路が閉鎖されたりするくらい状態が良くなかったんです。追い切りをしたとしても、4ハロン60秒を超える馬たちもたくさんいて、うちの古馬たちのなかにも60秒で一杯一杯という馬もいました。
[西]そんな感じでしたよね。
[高]ウッドチップとかも考えたんですが、最初の追い切りですし、取りあえず坂路でということで、ある日曜日の朝行ったんです。先生の方からは『無理しなくて良い』と言われていて、ほぼ指示通り60秒ではあったんですが、実は併せた相手は65秒で、後から古馬たちの時計をみると60秒一杯だったんです。
[西]えっ、馬なりだったんですか。
[高]そうです。全く何もしていませんでした。それなのに古馬たちが一杯になっている60秒を、全くふらつくこともなく駆け上がってきたんです。あれ、ひょっとしたら凄いかも、とは思いました。
[西]やはり凄いですよ。
[高]古馬が相手にならなかったんですよ。でも、目一杯行っているわけではなかったんです。
[西]個人的な興味としていくつかお聞きしたいんですけど、まずは
アルテミスS(2着)はやはり掛かっていたんですか?
[高]掛かっていましたね。実は、追い切り段階から感じていた部分がありました。
[西]元々、そういう部分があったということですか。
[高]新馬戦を使う前は、こちらが促さないと進んでいかない感じでした。それくらいだから、新馬を勝った後に先生も
『折り合いは心配ないし、オークスを目標に』というようなコメントをしていたんです。でも、新馬戦を勝った後になって、いまにして思えばG1であれだけ強い勝ち方ができる能力の持ち主なので、それだけパワーがあるということなんですが、力任せな感じで走るようになっていたんです。
[西]普通キャンターとかでもそうなんですか?
[高]長アブミで乗るようにしています。
[西]よくアブミを短くすると、オートマチックに加速する馬というのがいますけど、そういう感じですか。
[高]そういう感じで調整してきていましたので、普通キャンターは大丈夫です。
[西]でも、
アルテミスS以外では折り合ってきていましたよね。
[高]調教で前半噛んでいく感じで、みている人たちからも短距離馬になってしまうかもね、というようなことも言われました。ただ、僕も18年の間に重賞勝ち馬にも乗ってきていますけど、ちょっと違うんです。噛んでいくようにみえているのかもしれませんが、人間の扶助を超越してしまうくらいのパワフルさのために、そういう感じになっていたんです。そういう部分をみせていたので、気がついている人もいるのかもしれませんが、
アルテミスS以降は馬場入りのときに1番で入るようにしました。
[西]どういうことですか?
[高]前の馬を追いかけるからです。
アルテミスSのとき、返し馬で前に出た馬を追いかけて行ってしまいました。
[西]なるほど。
アルテミスS以降、馬場入りの順番を変えたんですね。
[高]もちろん調教も変えましたよ。
[西]そしてもうひとつは
桜花賞です。個人的には負けないと思っていましたし、関係者と話をしていてもそうだと言われています。そのあたりどうなんですか。
[高]先生も言っていましたが、すべてを
ルメールに、とは言えないと思います。こちらの仕上げという部分にも何かあったと考えています。
[西]確かにもの凄い時計を出していましたよね。
[高]いま尾関厩舎って、乳酸値は計測している?
[西]もうしていません。
[高]ウッドで65秒のときの乳酸値、他の馬に比べて低めなんです。
[西]それだけ能力が違うということなんでしょうね。
[高]メジャーエンブレムだから、あの調教ができているんですよ。いまになって思えば、
桜花賞の当日馬場入りをさせたときに、エンブレムにしては大人しいかもしれないと感じました。
[西]そうだったんですか。
[高]後ろから1頭掛かり気味に行ったんですが、それに反応を示していなかったんです。堂々としているともとれたんですけど、それまでとは少し違う感じはありました。
[西]本当に微妙なところなんですよね。
[高]いままで乗ったことがないレベルなので、どこまでこの馬が凄いという実感がないと言いますか、推し量る物差しがないので、どこまで強くなってくれるのだろうという楽しみはあります。
[西]いや、G1馬のなかでも、かなり高いレベルだと思いますよ。
[高]ひとつだけ言えることは、桁違いのパワーの持ち主ということだけは間違いないです。
[西]いやぁ、本当はもう少しお話をお聞きしたいんですが、もう9時を過ぎてます。明日も早いので、このあたりで。お忙しいなか今日は貴重なお時間をありがとうございます。
[高]こちらこそ、ありがとうございました。
[西]またよろしくお願いします。
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