【対談・伊藤調教厩務員②】危ない馬に乗って上がってきたとき、幸せを感じます
2016.7.27
伊藤春菜調教厩務員…以下
[伊]西塚信人調教助手…以下
[西][西]そういえば、伊藤ちゃんのところは家事はどうしているの?
[伊]ゴミ出しとかはやってもらいますけど、基本は自分がやっています。
[西]自分でやってて大変だと感じることはない?
[伊]もし独身だとしても、ご飯とか洗濯はしますからね。ついでというか、1人分も2人分もそれほど差はありませんから。
[西]夫婦が同じ仕事をしているというところもポイントかもしれないね。
[伊]でも、同じ仕事をしているからこそ、私の方が大きく負荷が掛かっています。これで旦那さんが他の仕事で帰りが遅いとか、もっと忙しいというならば、私がやるのは当たり前ですけど、同じ条件のなかで、仕事の帰りに買い物をして、そこから料理をしているので、文句は言われません。
[西]読者の方々のなかには女性の方々も多いようですので、そういう部分が知りたいとも思うんです。
[伊]普段からそうやっているので、例えば友達と食事に出掛けるときには、自分で食べないと言って、自由にしています。自由にやらせてもらえるからいいと思っています。
[西]女性が働くということは、やはり家事との両立という部分が大変だったりするけど、それができているんだから偉いよ。
[伊]両立できているかどうかはわかりませんけど(笑)。
[西]ここまでやってきているんだから、できるんだよ。疲れて帰って、旦那さんが帰っていて『飯』と言われれば、作らなければならないわけだから。
[伊]そこはイラっとするところです。昼も夜も私の方が遅く帰ったときに、『飯は?』と言われると、さすがにひと言いいたくなるでしょうね。
[西]でも、そういう部分も頑張れるのは、馬の仕事が好きだからということだよね。
[伊]それは間違いありません。
[西]月並みだけど、どういうときにこの仕事をやっている幸せを感じますか。
[伊]勝ったときはもちろんですけど、凄く危ない馬に乗って無事に上がってきたときですね。
[西]相変わらずイカレてますね(笑)。
[伊]今日も生きて戻ってきたぁ、みたいな感覚は何ともいえません。
[西]ピー音が入るから言葉を選びますけど、ド○ですよね(笑)
[伊](笑)
[西]でも、そういう馬に伊藤ちゃんが乗ることは尾関厩舎ではなかったですよね。
[伊]そうですね。そういう馬にはノブさんをはじめ、助手さんたちが最初に乗りますからね。
[西]久保田厩舎は違いますよね。
[伊]2歳の初日とか、普通に乗ります。
[西]いやぁ、なかには久晃さん(小林元騎手)が乗ってあげた方が良いんじゃない?と思う馬とかいますよ。
[伊]立ち上がっていた馬ですか? あれはなかなかでした(笑)。
[西]笑っているけど、あれはなかなかだと思ってみていたんですよ。
[伊]1回立ち上がると、そこから8回連続で立ち上がったんですよね。
[西]なかなかだわ。そういう馬を乗りこなせたときに幸せを感じるということでしょ。
[伊]そうです。
[西]そうなると、やり甲斐という面では、伊藤ちゃんにとって久保田厩舎は良かったということだね。
[伊]自分でやらせてもらえますからね。
[西]でも、働いているとそういう部分はわかるかも。俺はあまりある方ではないですよ。『なんで、俺より上手い矢原さんが乗んないんだ』とか叫んでいますけど、これは俺が何とかしないと、と思うこともあります。それが年とともにより減ってきています。このコーナーの読者の方には話をしたんですけど、この間初めて調教ができなかった馬がいたんですよ。キャンターに降ろせなかったんだわ。
[伊]転ぶとかだったんですか?
[西]いや、向こう張って駄目だったんだよ。普通ならば、立とうが何をしようが、叩いてでも行ってしまえば大丈夫だったりしますけど、キャンターに降りないし、強引に降ろそうとすればバカついてしまって、どうしようもなかったんです。しかも、歩様も良くなくて、初めて何もせずに帰りました。いままでどんな馬でも乗ってきたんですけどね。
[伊]10年若かったらならば、強引に行ったでしょうね。
[西]ある先輩調教助手と角馬場で一緒になって、その話をしたんです。そうしたら、その方が良いんだと言われました。年齢を重ねると、いろいろな経験を積んで、危険察知能力が上がるのは自然で、そう感じたのならばそれで良かったと言われましたよ。
[伊]怪我してしまっては、何もなりませんからね。それはそれで良かったんじゃないですか?
[西]やり甲斐という部分があるから、頑張れるということなんだろうね。
※次回に続く
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