独自視点で穴馬推奨!競馬予想支援情報【サラブレモバイル】

サラブレモバイル

メニュー

ログイン


【対談・田中博騎手③】凱旋門賞と同じくらい価値があるレースは、他にもある
2016.11.3
✉️応援、質問メッセージを送る

田中博康騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]いま日本はパート1国だから、とよく言われるけど、現実のフランスのチャンピオンが馬のことを考えて、凱旋門賞を回避しているわけですよね。もちろん凱旋門賞を勝つことで種牡馬としての価値を上げることも競馬だから、それはそれで良いと思います。ただ、凱旋門賞に挑戦する日本馬は超一流馬ばかり。そういう馬たちが本当に目指すべきなのは凱旋門賞なのか、という疑問は残るんですよ。

[田]超一流馬が目指す選択肢のひとつとして、もちろん凱旋門賞はそれだけの値打ちがあるのは間違いないと思います。ただ、それ以外にも同じくらいの値打ちがあるレースがあるのも事実です。



[西]凱旋門賞前に、D・ウェルド調教師(今年の英愛ダービーハーザンドなどを管理)のインタビューを読んで考えさせられましたよ。『いま、馬産世界一と言われるアイルランドでさえも、セリで売れる配合や馬が増えている。そのなかで、A・オブライエン調教師は違って、スピードとスタミナを兼ね備えた馬たちも手掛けていて、スタミナが求められるセントレジャーも数多く勝っている。彼は良い馬は何かなど、競馬の根幹や未来をも考えてやっているから凄いんだ』というような話でした。ちょっと違うのかもしれないけど、僕自身の趣味である音楽でも、良い歌と売れる歌は違うと言われているんですけど、それに似ているかなぁと思ったんです。現場で一流を目指そうと思って頑張っている人間たちが、簡単に売れる曲を作っていれば良いんだと言って良いのかと、ウェルド師のインタビューを読んで思いましたね。

[田]なるほど。

[西]確かに、20馬房あって管理馬が16頭しかいない状況は、生きるだけで精一杯ですよ。そのような状況ならば仕方がない面もある。馬よりも生活となってしまうし、それで良いと僕も思います。でも、一流を目指して、海外と相手に、と思っている人間はそうであっては駄目だと、ウェルド師の言葉に強く思いました。

[田]凄く難しい話ですよ。どちらの側面も重要ですからね。ただ、そのステージにいる馬というか、挑戦、そして勝つにふさわしい馬たちが挑戦しているのは確かじゃないですか? マカヒキにしても日本ダービーを勝っているわけで、3歳馬に有利という状況のなかで、チャンスを求めての挑戦ですからね。

[西]もちろんそうですよ。逆に、フランスの関係者からみたドバイとかはどんな感じなんだろうね。

[田]フランスからヨーロッパの他の国だけじゃなく、ドバイもアメリカもよく遠征しますよね。ただ、ドバイについてはやはり超一流馬というか、トップホースはあまり行かない感じですね。

[西]日本からみた世界と、諸外国からみた世界というのは違うし、それぞれの見方があります。そういう意味では、フランスでは凱旋門賞有馬記念みたいな感じなんですかね。

[田]そういう位置付けかもしれません。いまはオールウェザーコースが出来て、ウインターシーズンも平地競走が開催されていますが、昔は凱旋門賞でフラットシーズンが終わって、ここからは障害レースがメインになるという流れでしたからね。2歳G1とかはありますが、古馬の一流どころの馬は、この凱旋門賞でシーズンオフになります。

[西]そうだって言いますよね。でもね、海外の馬たちが日本に来て勝っているのに比べて、日本の馬たちが海外で確かに勝ってはいるものの、ヨーロッパの古馬中距離ということで言えば、フランスでしか勝っていない。レベルが高いと言われる、イギリスやアイルランドでは全くです。まだまだ差があるということなんですかね。

[田]馬の質はもしかしたら日本の方が上では、という感触はあります。ただ、僕自身すべてをわかっているわけではないので、何とも言えませんし、やはりヨーロッパ競馬のレベルは高いと感じますよ。

[西]具体的に言うとどういう部分になる?

[田]上手く言えないですけど、馬との接し方にしてもそう感じるところがありますし、何かひとつということではないんです。正直、最初の数ヶ月では全く感じることができませんでした。でも、今は行くたびにそう感じるんです。上手く言えなくてすみません。僕なんかよりも、現地で何年間も住んで、実際やってきている人たちがたくさんいるので、そういう人たちに聞いていただいた方が良いと思います。

[西]いや、そんなことないよ。実際、向こうに行って頑張ってきているんだから。あと、ヨーロッパとひと口に言うけど、イギリスとアイルランドとフランスでは、そのなかでも違ったりしないの?

[田]違います。接し方など、基本的な部分は似ていますが、全部が同じではないです。

[西]これは勝手なイメージなんですけど、日本でその3か国ということになると、アイルランドが一番レベル的に低いと思っている人って多いかもしれないよ。



[田]馬産は一番ですし、競馬に関しても、レベルはかなり高いです。むしろ一番上かもしれませんね。僕自身は、調教師ということで言えばアイルランドが一番印象に残っています。

[西]どういうところがそう思わせるの?

[田]うーん、言葉に説明するのは難しいですね(苦笑)。そうですね、根本的なところは同じですけど、とにかく馬を良く観察していると思います。調教師はそういうものなのでしょうけど、馬を観察して、把握することに専念していると言えば良いかなぁ。1日行ってとか、何日かだけいてそう思ったんではなくて、何回も行ってそう感じたんですよね。

[西]松岡(正海)さんもそんなことは言っていたかも。日本のやり方が悪いとか、駄目ではなくて、全く別世界の感覚があるというようなことを言っていたと思う。

[田]そうなんですよ。調教場とか環境が違うとかじゃなくて、全く違う感覚なんです。もちろん、調教の方法も全く違ったりするんですけど、本当に何もかも違うんです。

[西]日本で、それぞれ細かいところは違っても、大雑把に言えば、角馬場を乗って、そこから坂路やコースを乗ることが多いと思います。

[田]大きな括りで言えばそうなるんですかね。でも、細部では違うじゃないですか。僕はそう思います。あ、そういえば温度変化には敏感ですね。

[西]どういうところで?

[田]これは気候の違いからですけど、ヨーロッパでは日本よりも昼と夜の寒暖差が大きいように感じます。夜食事を終えてお店の外に出たとき、『ちょっと寒くなった』と感じると、厩舎に戻って薄い馬服から厚い馬服に着せ替える、あるいは裏の扉を閉めるために、厩舎に戻る調教師さんは少なくありません。なかには、20頭近くの馬たちの馬服を1人で着せ替える調教師さんも珍しくないんです。朝厩舎に行くと『あれ、馬服が変わっている』と思って聞いたところ、『昨日の夜寒かったからね』と言われて、着せ替えていたことを知りました。

[西]なるほどね。尾関厩舎でもそういう対応はしているけど、少し日本とは事情が違う部分もあるよね。

※西塚助手への質問、「指令」も募集中。競馬に関する質問、素朴な疑問をお送り下さい! 「こんな人と対談してほしい」などのリクエストも歓迎です!