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【対談・田中博騎手④(最終回)】裏方の力があるからこそ、馬が頑張れる
2016.11.9
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田中博康騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]自分がトレセンに入ってきた当時は、とにかく厩舎が潰れないように、馬主さんのリクエストに応えることこそが大事だと精一杯頑張りました。でも、いろいろな経験をしてきていま思うことは、馬と向き合って、馬のことを一番に考えることの大事さというものを教えてもらったと思うんですよ。

[田]また、馬には感覚の部分があったりするから、難しかったりするんですよね。

[西]そう。これは馬に携わっている人ならばわかってくれると思うんですけど、どこも痛くないし、どこが悪いというわけでもなく、追い切りも動きも良いし、乗った感覚も悪くない。でも、何となく“この馬の良いときと比べると、何か具体的には言えないけど、いまひとつ”という感覚を持つときってありますよね。

[田]あります、あります。

[西]どこも悪くないし、動いている。でも「何となくいまひとつだから、今開催は使わず次の開催にします」と、馬主さんに説明することはできても、なかなか理解を得ることって難しいと思うんです。“何となく”という部分はなかなか理解されないものだと。

[田]次の開催まで待って本当に良くなるのか、と聞かれたときに、良くなりますとは言い切れないところもありますよね。

[西]そういう部分って、永遠のテーマだろうね。難しいからこそ面白いとも思うんだけど、西塚厩舎で経験させていただいて感じたことは本当に難しい、ということですよ。本当に馬って難しいよね。

[田]そう思います。逆に言えば、だからこそ面白いですし、何とか分かりたいなぁと思って、馬と接しています。でも難しいですよね(苦笑)。

[西]この前レコードを探していたときに、自分自身、とにかく音楽が好きで、遊ぶお金があったらレコードを1枚買った方が満足感を得られてきた、ということをふっと思ったんです。そして自分自身、仕事において、いま流行のスタイルを追い求めたいのかどうか?と自問自答しました。西塚厩舎のときのようにとにかく営業を重視するのではなく、いま尾関厩舎で馬たち、そして厩舎がいかに上手くいくように、どう動くべきなのかということが大事で、その方が良い結果につながることを知りました。音楽の世界でもそうですけど、本質を見抜いて仕事をしている人たちは、最後まで食べるていくことができているんですよ。

[田]もちろん、両方バランス良くやっていくのが良いんでしょうけど、そういうものなんですかね。

[西]しっかりとした技術を持っている人は、最後まで生き残りますよ。でも、そうじゃない人は、例えどんなに売れても消えてしまいますよね。何か変な話になってしまって申し訳ないんですけど、最近そういうこと考えているんですよ。そんなときに、博康が言う海外の調教師さんたちの話を聞いて、ふっと思ったから。

[田]でも、信人さんはいつも一生懸命ですよね。僕はそう思っています。

[西]博康は良いことを言ってくれるね。でも何も出ないですよ(笑)。

[田]いや、本当にそう思います。西塚厩舎時代、営業だけと言いますけど、調教の後『どうだった?』、『どう思う?』って必ず僕たちに聞いて、そのなかで一番良いというか、すべてが上手く行くように、と、馬と人間の間に挟まれながらも頑張っていましたからね。

[西]いや、たぶん人間のことしか考えていなかったと思いますよ。でも、いまひとつ言えることは、あの時にはもう戻りたくないですね。そうならないためにどうしたら良いかということを考えるべきだとも思います。

[田]でも、そういう経験はかけがえのないものですよ。誰にでもできる経験ではありませんから。

[西]脱線が長くなってしまったけど、他に日本との違いってどんなところ? 何か騎手として感じたことってあった?

[田]日本でもレースのなかでは先輩後輩とか関係ないんですけど、向こうでは調教師とかにも、何か言われると平気で食ってかかるんです。日本で言うところの年上を立てるという精神はありません。

[西]じゃあ、引き上げてきて、日本のように本当は厳しいのに、『あそこでスムーズだったら』とか『もうちょっと時間が経ってみないと』というような気を気を遣った、優等生的なコメントはないんだね。

[田]逆に、ハッキリと本当の話をした方が気にいられたりします。

[西]じゃあ、みんな田辺だぁ(笑)。でも、日本人は言われ慣れていないのかもしれないよね。

[田]それはあると思います。僕自身も向こうに行って戸惑ったこともありますから。

[西]あとは伝え方というのもあるよね。いま、うちの先生にはできる限り本当のことを伝えます。それが、田辺のように『ノブちゃん、無理、無理』というのではなく(笑)、『あまり良くないですよ』というように、言葉を選びますよね。

[田]そうなると、フランスは田辺さんからもしれません(笑)。

[西]逆に、いま日本でも昔とは比べモノにならないくらい、海外経験者が増えていますけど、日本で海外と同じだと思うところって、どこ?

[田]最初にフランスに行ったときに、向こうで藤沢先生のテレビ番組を観たんです。確か、タイキスピリッツという癖のある馬とやり取りをやっていたんですが、『あっ、こちらと同じだ』と思いました。

[西]どんなところ?

[田]馬房の入るときの感じや仕草をみていて、リアクションを考えていることをやっていたんですけど、やはりそうなんだぁと、フランスで藤沢先生をみて、教えられました。

[西]確か、児玉先生(アイルランドで開業する日本人調教師)も同じような話をしていたなぁ。

[田]あっ、そうですか。

[西]昔、1ヶ月間、藤沢先生のところに研修しに来ていたんだよね。そのときに児玉先生が藤沢先生に『勉強になりました』と言うと、『お前がアイルランドでやっていることと同じで、勉強になんかなってねぇだろう』と言われたらしいんだよ。児玉先生は『同じだとわかったことが勉強だった』と言ってた。

[田]本当にそう思います。なかなか言葉にするのは難しいんですけど、馬との距離感とか、接し方とか、藤沢厩舎がそのままフランスにあるみたいな感覚があります。

[西]接し方とかで何か強く感じたことってある?

[田]いろいろありますけど……。そうですね、表情ですかね。もちろん体も観察するんですけど、それよりも表情をみて判断されているというところはあるんじゃないかと思います。

[西]表情かぁ。

[田]そういう意味では、向こうはジョッキーたちはそういう部分をより気にしていたりするかもしれません。朝、調教場でそういう会話が聞かれるんですよね。

[西]博康と話をしていて、このままでは駄目だと思わせられたよ。日々の忙しさに忙殺されてしまっていると感じさせられた(苦笑)。

[田]そんなことないですよ。僕もまだまだ頑張らないと、と思います。

[西]でも、博康ね、馬にとって一番良いことを考えることももちろん大事なんだけど、調教師の考えや意図するところを厩舎全体に伝えて、その通りに物事が運ばれることも実は助手としては大事なことなんだよね。今回G1を勝つことができましたけど、全くと言って良いほど“凄い”とかいう思いはないんですよ。みんなで頑張ってきた結果が、そうなったということなんだと思うんです。

[田]助手の経験がないですけど、言いたいことはわかります。そういう部分も含めて厩舎だと思いますし、そういう見えない力があるからこそ、馬たちが頑張ることができるんだと思うんです。

[西]もちろん上手で、その人がやったらから走った馬というものあるとは思いますよ。でも、僕が思う助手のあり方としては、縁の下の力持ちであるべきだと思うんです。生意気なことを言うようで申し訳ないんだけど、最近そういうことを思う機会が多かったりするんだよね。

[田]いやぁ、信人さんと話ができて良かったですよ。僕自身も刺激を受けます。

[西]でも、いつも思うことは博康の探究心って凄い。海外ばかりでなく、関西へも行って、何でも吸収しようという姿勢が強いよね。いろいろ人は言うかもしれないけど、なかなかできることじゃないよ。

[田]とにかくひとつでも多くのことを吸収したいと思うだけなんですけどね。

[西]あっ、もうこんな時間ですよ。忙しいなか本当にありがとうね。またぜひこれに懲りずに待っていますよ。今日はありがとうございました。

[田]ありがとうございました。



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