現行の裁決ルールは、改めて様々な角度から再検討すべきでは
2016.11.30
SNSとマイルCSについて、2回にわたって皆さんからメッセージをいただきました。たくさんのご意見、ありがとうございます。
最初にSNSについてです。いただいた中で、
「関係者たちからのコメントはみんな“絶好調”というものが並ぶ。馬主ではなく我々ファンを意識するべき」という趣旨のメッセージがありました。
このメッセージを読んで、本当の情報がないままに馬券を購入している、という意識を持っている方々が多いということを感じました。
ファンの方々に対して、できる限り多くの、そして正しい情報をお届けすることは大事ですし、そうなっていかなければならないと思います。
そういう意味では、調教師さんや馬を所有する馬主さんたちが、SNSで発信されていくことはとても良いことだと思います。今後はそういう形が増えていくのかもしれません。
ファンの皆さんが、本当の情報が提供されていると感じられるようになるように、我々も意識を高めていきたいと思います。
ただ、前にお話ししたことと同じ内容になりますが、現場で責任を取らなければいけないのは調教師の方々です。それに対して、我々厩舎で働く者はその発言や行動について、一人だけで責任を負うことができません。
そして、馬は馬主さんからお預かりしている財産です。
もちろん、ファンの方々が購入してくださる馬券で競馬が成り立っているのは間違いありません。その一方で、馬主さんたちが馬を所有されていて、その馬を提供してくださっているから競馬が成り立っているというのもまた事実なんです。
ブッチャけさせていただきますと、1頭の馬には馬券を購入するファンの皆さんを含めてたくさんの人たちが関わっていて、それぞれいろいろな事情があります。簡単にいかない部分があるのは間違いありません。
ただ、だからといって、すべての馬が“絶好調”というコメントが良いとは思っていません。
引退された橋口弘次郞先生が、
ハーツクライのノド鳴りについてコメントしてG1に出走させられたことがありました。これは本当に立派だと思いますし、それが当然となるべきだと思います。
しかし、それを現場で働く我々がコメントして良いかと言えば、僕はNOだと思うんです。うちの厩舎で言えば、それをして良いのはウチの先生だけです。
だからこそ、我々現場の人間は襟を正してSNSで発言しなければいけないと思っています。
続いて、
マイルCSの一件についてです。こちらについては、本当にたくさんのメールをいただきました。皆さん本当にいろいろなご意見を持っていらっしゃるということを、改めて感じました。
そのなかで、
「レースはやり直しができません。不利の有無によっての失格、降着について、馬券に影響するので第三者に決められたくない」というメッセージをいただきました。
僕自身、多くのファンの皆さんはそう思っていて、だからこそ着順がそのまま馬券となる可能性がより高い、現行のルールが支持されるのではないかと思っていたんです。
もちろんそう考える方も多いのですが、そう考えていない方もまた多いということを感じました。
現行のルールは“やり得”があると言われていますが、逆に以前のルールでは馬券における“やられ損”という部分があったように思うんです。
この“やられ損”というのは、馬が不利を受けた損ではなく、力の違いを見せていながら降着、失格になって“馬券が外れてしまう損”ということです。
言い方をかえれば、馬にそれほどの責任がないのに、騎手の御法の問題で着順が入れ替わってしまって、結局馬券に影響が出てしまう、といったことです。
よく例えに出されるレースに、
カワカミプリンセスが降着となった
06年エリザベス女王杯があります。この時の
カワカミプリンセスは2位入線の馬に1馬身半差をつけていましたから、いまのルールならば騎手が騎乗停止になるだけで、降着にはならないと思われます。
しかし、この時
カワカミプリンセスの馬券を買っていた人は、外れる結果となってしまいました。
一方、今回被害を受けた
サトノアラジンや
ディサイファの馬券を買っていた方々からは、“8日間の騎乗停止で済むというのは納得できません”、あるいは“名誉も賞金も与えられるのは納得いかない”という意見がとても多いんです。
今後も現行のルールが適用されるという前提でお話をさせていただきますと、確かに8日間というのは短いかもしれません。
大舞台のG1レースで、勝てば高額な賞金と名誉を手にすることができる。もし1ヵ月休むだけで良いのであれば、やはり危険な賭けに出る可能性は以前のルールより高くなると考える、そう考えるのは自然な流れでしょう。
単純に僕自身もそう思いますし、騎手により重い責任が負わされる形でないと、やはり“やり得”、“やられ損”という意識はなくならないかもしれません。
騎手だけに責任を負わせるのはいかがなものかというご意見もありましたが、僕自身は騎手というのはそれだけの役割を担っている、そういう立場なんだと思っています。馬場の上で、馬をコントロールできるのは騎手しかいないんですから。
それにしても、JRAはファンの皆さんにもっと分かりやすく説明をするべきだと思うんです。僕たち関係者はなぜこういう裁定になるのか理解していますが、ファンの方にはなかなかわかりづらいでしょう。何度も説明されているはずですが、毎回物議を呼んでいるのが現実なんです。
いただいたメッセージを読んでいて感じたことはそれぞれみなさん、方向性や温度差はありますが、“納得されていない”ということなんですよ。
そのなかでも多いのは、“やり得”と感じている方々が多いということと、そして浜中騎手の8日間という処分が軽過ぎるというご意見でした。
現在、僕はJRAの馬券は購入できませんので、ファンの皆さんの感覚を共有することは難しいかもしれません。ただ、地方競馬の馬券は購入することがありますし、牧場で働いていた当時はみなさんと同じように馬券を購入していましたので、納得がいかないという気持ちはわかるつもりです。
そういう意味で、現行のルールが運用されて3年以上が過ぎましたが、もう1度様々な角度から検討されるのが必要なんじゃないかと、いただいたメッセージを読みながら感じました。
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