【対談・井垣調教助手③】武市先生のやり方で、重賞やG1を目指したい
2016.12.20
井垣祐太調教助手…以下
[井]西塚信人調教助手…以下
[西][西]なんか僕の話ばかりでごめんなさい。
[井]いや、懐かしいですよ。先生との会話とか、夢中になって読んでいた自分がいますから。
[西]実際、助手になって、“その通り”と思うこともあるでしょうが、“話と違ったな”と思うこともあったと思うんですよね。
[井]競馬に出走させていくなかで、自分たちの思い通りにはいかないことの方が多いと思うんです。もちろん馬自身の事情にもよるんですけど、それ以外のことでそうなることも少なくはありません。
[西]いまの時代は、馬主さんの意見がよりウェイトを占めるようになっている現実がありますからね。
[井]さらに、ウチは出走回数も目標としていますので、入れ替えを頻繁に行っていくスタイルです。この世界に入る前、西塚さんの日記を読んでいなかったら、その差異に戸惑ったのかもしれませんけど、これもひとつの形なんだと思っています。それと僕自身、うちの先生に推薦していただいて今がありますので、先生のやり方で、重賞、そしてG1レースを目指してみたいと思っています。先生自身も本当に頑張っていらっしゃるんですよ。
[西]武市先生はいまだに調教でも乗っているもんね。
[井]本当に先生は頑張っています。福島や新潟開催の朝でも、調教に乗ってから行って、帰ってきてまた翌日朝早くから調教に乗って、そこからまた福島、新潟に向かって行っているんです。
[西]凄いね。でも、先生は本当に昔から良い人ですよ。
[井]悪く言う人はいません。尾関先生も良い先生ですよね。
[西]俺は好きですよ。でも、組織ですから、毎日みんなで頑張っていますけど、それはいろいろあったりしますよ。そういうなかでひとつだけ自慢というか、誇りを持って良いとうちのみんなにも言うんですけど、転厩する人が開業以来1人しかいないということです。
[井]あ、そうなんですか。
[西]喉を切って手術した人がいて、その人が何とか定年まで働けるようにみんなで助け合いながら、本人も自分でできることを頑張って、最後まで頑張り切りました。厩舎のチームワークが良かったからだと思いますし、何よりも先生が理解して、そういう環境を作ってくれたからなんですけどね。
[井]尾関厩舎はチームワークが良さそうですもんね。西塚厩舎時代はどうだったんですか?
[西]西塚厩舎も転厩は少なかったですよ。
[井]転厩が少ないのは凄いと思います。
[西]入れ替わりが激しいところは、馬の入退厩よりも激しいんじゃないかと思うくらいに、替わるよね。通算で30人以上出入りがあった厩舎もあるというからね。
[井]うちもいままで1人だけですね。多い厩舎は多いみたいですからね。他厩舎のスタッフの人たちから、
「誰か出る予定とかないの?」と聞かれたりします。
[西]武市厩舎というと、先生が良い人で、みんなそれぞれに頑張っているということと、馬がとても元気が良いということですよ。それもかなり、という印象が強いですね。
[井]うち、そういう馬が多いんですかねぇ。
[西]乗っている時間が一緒だから、そう感じるのかもしれないけど、そういう印象が強いです。
[井]僕自身、武市厩舎しか経験がないので、よそとの違いがわからないんですよね。
[西]トレセンに入って何年目ですか?
[井]5年目ですかね。
[西]自分はちょうど西塚厩舎が解散になって、尾関厩舎に変わる頃ですか。
[井]下克上日記を読んでいましたね。もう一度読み返したいんですよ。本当に。でも、いま読めなくなってしまっているんです。実は、今回ぜひまた読めるようにしてもらえないかと、編集の方にお願いをしたかったんですよね。
[西]井垣さんだけ書籍化を希望します(笑)。
[井]買いますよ。
[西](笑)。井垣さんだけしかいないですよ。
[井]そんなことないと思いますよ。
[西]いろいろなメールをいただきまして、読者の方々には本当にありがたいと思っています。厳しい指摘も本当に感謝しています。父親が亡くなったときは歴代最高となるメールをいただいたんですよね。
[井]すみません。その時にメールは出していませんでした。
[西]いやいや、いいんですよ(笑)。でも、こうして井垣さんと昔の話をすると、思い出しますね。よくあの時、入ったばかりで、調教師の代行みたいなことをやりましたよ。いま振り返ると無謀だなぁと思います。
[井]いま同じ立場になって、なおさら凄いと思います。
[西]あの2年間は、たぶん丸1日休みというのはなかったはずです。全休日も牧場に行ったり、馬主さんを訪ねたりという感じでしたからね。それこそ、馬場の入り方も知らなかったんですから(笑)。
[井]それ、わかります。最初はわからないですからね。
[西]ただ、ひとつ良かったのは、厩舎の人たちのほとんどが、子供の頃から知っている人たちでしたから、みんな親切にしてくれました。
「Dコースって、どうやって出るんですか?」とか聞いても、親切に教えてくれました。鮮明に覚えているのは、うちに
イチフジイサミという馬で
ダービー2着(73年。勝ち馬
タケホープ、3着
ハイセイコー)した実績がある、元騎手の
津田(昭)さんという先輩がいて、初めての追い切りで併せ馬をしたんですけど、どこから併せていいのかわからなくてね。
「おい、信人行くぞ」と言われて、とにかく
「はい」とか言って、無我夢中でしたけど、ゆっくりのところで抑えるのが辛かったことを覚えています。自分はそんなでしたけど、初めての追い切りって、どうだった?
[井]いやぁ、夢中でした。
[西]でも、そもそも入ったばかりというのは、それこそ角馬場の使い方をはじめ、馬場使用基準のルールとかも知らないわけですからね。
[井]そうなんですよ。
[西]いま自分の厩舎に入ってくる若い人たちに、
「あなたが上手なのはわかった。俺なんかよりも上手かもしれないけど、人の邪魔だけはしないように」と必ず話をしています。
[井]極端な言い方をすれば、止めるのにもルールがあります。
[西]それ以外にも遅い馬が外側にいるととても危ないですし、
「なんでそんなところにいるんだ」となりますからね。
[井]1頭だけ違う動きをすることになるので、また目立つんですよね。
[西]そこで武市厩舎の元気の良い馬だったなら、動きをみて、人間ではなく、馬たちの動きがそうさせているんだとわかります。でも、人間がルールを知らずに違反になる動きをしてしまっているときには、やはり先輩か、あるいは調教師が注意しなければなりませんよね。
[井]一応覚えようとしますけど、実際乗って行ってみないとわからない感覚というのもありますからね。
[西]もちろん人間だから邪魔してしまうこともあります。そのときは、すぐに大きな声で、謝らなければなりません。入ってきたばかりの人には必ず言います。謝ったのに許されないときには「あなたが悪いわけではない」という話をします。
[井]邪魔をしてしまったのだから、まずは謝れなければなりませんし、謝ればだいたい許してくれますよ。
[西]そうですよ。謝らないのがトラブルの元ですからね。
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