【対談・田辺騎手②】人気馬に乗る時は、どれだけ思い切って動けるかがカギ
2017.2.1
田辺裕信騎手…以下
[田]西塚信人調教助手…以下
[西][西]田辺さん、いくつでしたっけ?
[田]32歳ですよ。
[西]体のピークが20代かも、という話だったけど、そういう感覚があるの?
[田]いや、ないですよ。ただ、腰痛も経験しましたし、10代、20代と全く同じではなくなっていくはずなんです。
[西]腰痛はいまどうなんですか?
[田]全く大丈夫ですよ。ただ、誰も若いまま、その状態が継続することはあり得ないわけで、そのためにトレーニングをしなければならないということです。
[西]攻め馬に乗るというのは、騎手にとっては人間関係の構築のためというか、営業的な側面が強いんですよね。特に外国人ジョッキーたちはそういう感覚が強いのかも。それでも
ライアン・ムーアは攻め馬によく乗っていますよね。
[田]そう?
[西]さすがに火曜日は乗っていなかったけど、水、木、金と乗っていたと思う。
[田]いや、金曜日は乗っていないはず。基本的には追い切りしか乗っていないはずですよ。
[西]あ、そうだったんだ。追い切りに乗っているから、そういう感覚があるのかも。そう言われると、日本のトップの人たちの方が乗っているんですね。ところでトレーニングだけ? ケアは?
[田]トレーニングとケアはセットですよね。弱い部分を強化していく。もちろん競馬に対して必要な体力や筋力は大切なんですけど、腰痛が出ないように、腹部周辺を強化するであるとか、そういう感じで“予防”もやっているということです。
[西]田辺さんは自宅にもトレーニング機器がおいてありますけど、あそこでトレーニングしたりもするの?
[田]週2回はやってますね。
[西]どんなトレーニングをしているの?
[田]まずは自転車を漕いで、走って、木馬ですよね。
[西]筋トレは?
[田]やりますよ。あとは、バランスボールを使ったり、チューブを使ったり、ポールを使ったり、あとは最近パワープレートもやっています。
[西]ポールストレッチは良いですよね。あと、パワープレートって聞いたことがある。
[田]床が振動で揺れて、立っているだけで負荷がかかって、トレーニングになるんです。
[西]あ、そうなんだ。凄いね。
[田]そのあたりは、トレーナーの人といろいろ話をしながらやってますよ。
[西]いやぁ、昔の田辺さんとは違いますよ。競馬を見ていて、そう思うんです。
[田]競馬、変わりました? 乗り方も変えていませんし、競馬は何も変わっていないですよ。
[西]でも、
京成杯は大外を回して勝ったじゃない。最内を突いて、セコ乗りしなきゃいけない馬には乗っていないわけで、乗る馬のレベルが変わっているのだから、レースも変わるのは自然でしょう。
[田]競馬で考えなければならないのは、人気のある馬に乗っているときに、どれだけ思い切って動くことができるか。リスクは絶対にあるんです。人気のない馬と同じ競馬、そう、昔みたいな競馬をしていては駄目なんですよ。昔は、例えば強い馬が1頭いたとすると、この馬が下手な競馬をしたりしない限り勝てないわけですよ。それに対して、1歩引いて強い馬の動きを見て、動いていたんです。でも今は、その逆のシチュエーションがあるんです。
[西]強い馬に乗っているわけですよね。
[田]自分から動いて行かなければならないんです。昔は、いかに強い馬に思い通りの競馬をさせないようにするかを考え、強い馬の隙を狙っていたんですが、今は隙を狙っている人たちを封じ込めながら動かなければならないんです。
[西]いつも隙を狙っていて、嫌な印象を受ける人って誰かいますか?
[田]みんなでしょう(笑)。
[西]中舘さんなんかは、田辺のことを嫌だったと思うよ。
[田]そうだ。
クリストフ(ルメール騎手)なんかは、隙を狙うということではないんだけど、割とリスクがあったとしても、内で我慢していますよね。開くのを待っているかなぁ。
[西]一か八か的な要素を持っているんですね。
[田]外国人ジョッキーは、わりとそういう傾向が強いですよね。馬の後ろに入れて、我慢して、内を狙って、というのが向こうの競馬だから、そういう乗り方になるんでしょうね。
[西]まあ、それで詰まって負けても怒られないみたいだからね。日本だったら、怒られるけどね(笑)。
[田]そういう競馬ができるのは強みですよね。
[西]田辺さんはローカル開催での騎乗が長かったと思うんですけど、そのときの経験が役に立っているという感覚はあったりする?
[田]それはあるでしょう。でも、何も考えないで乗っていたら、経験も何もないですよ。目的を持って、いろいろ考えて乗っていないと、何も得るものはないでしょうね。中舘さんみたいな凄い人が3場でずっと乗り続けてくれていましたから、そこはとても大きかったですよ。
[西]どうやって、中舘さんを倒すか、ということを考えていたわけだからね。
[田]なんでこの人、こんなに勝つんだって(笑)。確かに、良い馬には乗っているんですけど、なんでこの人こんなに勝つことができるんだろうって、思いましたよ。ナンボ稼ぐのよ、って。
[西]はははは。その壁を超えないと先がないわけですからね。あ、そういえば聞かなければと思っていたことがあったんです。
ロードクエスト、
新潟2歳Sの後は田辺が断ったの?
[田]そうですよ。
[西]何でそういうことになったんだ、と思っていたんですよ。
[田]ジョッキーじゃないからわかんないでしょうね。
[西]わかんないというか、それまで俺が付き合ってきた田辺さんの感覚だと、田辺さんをクビにして内田さんで
エフテーララーヤが川崎で勝ったことがあるんですよ。覚えていないかなぁ。
[田]覚えていないなぁ。
[西]いや、その感覚だと。
[田]条件が違いますよ。500万とか1000万とかじゃないんです。あのときの2歳は、クラシックへ向かっていくわけです。
ロードクエストは好きでした。でも、勝っても負けても、コロコロ替えられてしまうのでは、乗れるかもしれないけど、乗れないかもしれないわけですよ。それならば、続けて乗せてもらえる馬に乗ろうと思ったんです。
[西]そこは、それだけの理由だったの?
[田]そうですよ。
[西]あのとき、
ミルコ(デムーロ騎手)になったよね。
[田]ホープフルSでミルコになって、その後ミルコが違う馬に乗ることになって、声はかけていただきました。そこですよ。もしミルコが選んだ馬が故障をしてしまって、乗り馬がいなくなったとき、
「またミルコに」ということになりますよね。ミルコの予定に振り回されるくらいならば、お断りさせていただこうと思ったんです。
[西]そういう話を聞いたとき、田辺さんが変わったとかじゃなくて、そういう選択をするんだぁ、と思ったんですよね。
[田]それが正しい選択かどうかわかりません。実際、
「なんで断ったんだ。もったいない」という人もたくさんいました。でも、元々下積みではないですけど、走らない馬にずっと乗せてもらってきて、いまの自分があるんです。性格的な部分もあるんでしょうね。ずっとかわいがってくれている、オーナーや厩舎というのはやはり大事だという意識はあります。
[西]なるほどね。
[田]一度受けた馬については、たとえ後から良い馬の依頼があったとしても、ドタキャンをせずに、最初を優先するようにしています。
[西]そういうことなんですね。
[田]でも、本当はそれじゃ駄目なんだと思いますよ。そういう気持ちで付き合っているオーナーや厩舎だったら、逆に
「走る方に乗りなさい」と言ってもらえるくらいでなければ。
[西]俺は言っていたよ。西塚厩舎のときに、走る馬がいるならばそちらに乗って、って。
[田]大丈夫でしたよ。被らないし、そんなに乗る馬いなかったから(笑)。
[西]ははは。そうやって言っても、ウチの厩舎の馬に乗ってくれていましたよね。でも、どちらもそれほど着順が変わらなかったりするんだよ。
[田]そう。厳選して選んだ結果ではない、ない。
[二人](笑)
[田]厳選していたら、西塚厩舎を選んでいるわけないでしょ。
[西]その通りだよ(笑)。あのときの田辺さんは、もう1頭も勝ち負けということではなかったですからね。
[田]いまの時代は、違いますよ。強い馬がいるならば、そちらに乗るのが当たり前だったりします。断られた方も、それほど気にしていないという感覚ですよ。そういうことで言えば、いまの時流に乗れていないんでしょうけどね。
※次回へ続く
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