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引退が決まったサクラゴスペルの思い出を語ります
2017.3.8
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我が尾関厩舎をここまで牽引してきてくれたと言っても過言ではないサクラゴスペルが、残念ながら引退することになりました。

実はそのサクラゴスペル、先週のオーシャンSに出走を予定していたのですが、1週前の追い切りで股関節を捻ってしまい、さらにセン痛も発症してしまったんです。

症状そのものは、能力に影響を与えるほどではありませんでした。恐らく今年で9歳という年齢的なことや、今後のことなどが考慮された結果として引退となったんだと思います。

ゴスペルについては、このコーナーでも再三お話しさせていただいているので、理解してくださっている方も多いと思います。ひと言で言うならば、寂しいです。

ゴスペルは、僕にとって本当にインパクトがある存在なんです。でも、成績を残したからというだけではないんですよね。もし未勝利だったとしても、インパクトがあったと思います。

今回は、そういったエピソードをいくつかお話ししたいと思います。

真っ先に思い浮かぶのは、その乗り味です。普通キャンターを乗っているときには、フワフワというか、フニャフニャというか、そういう感じなんですが、速いところにいくともの凄く抜群のサスペンションを持っていると感じました。

以前にも話しましたが、走る馬はギアの入り方が違う感覚を覚えるんですけど、ゴスペルはまさにそうです。本当に、普通キャンターから速いところになっていくときの加速は、何とも言えない感覚でした。

また前回、馬の個性の話をさせていただきましたが、本気で抵抗してきたときには人間が負けてしまうという感覚を覚えた1頭が、この馬でした。

そもそも1馬力に対して、人間が力で勝てるわけがないんですけど、馬を人が力で抑え込もうとしたときに、馬が折れてくれる場合もありますが、ゴスペルは絶対にそれを許さないと感じました。

それでも、こういう状況だったら大丈夫だとか、逆にこういう状況でこういう対応をしたら駄目、というのがあるんですよね。例えば、馬場の入り口で怒るのは大丈夫だとか、こういう暴れ方のときには怒っても大丈夫だとか。

逆に、厩舎から乗って行こうとすると、もう手がつけられないくらい暴れてみたりして。その暴れようといったら、収拾がつかないくらいです。

それ以外にも、数々の“危ない伝説”がありますよ。雪の日に、坂路に行くことがあったんですけど、雪に物見をしてしまって、全然進んで行こうとしないんですよ。それで厩務員とか、3人かがりで追おうとしたんですけど、下が雪で滑っちゃって、悪戦苦闘しながら、調教をしたこともありました。

これは他の厩舎の馬の話ですが、走る馬でも人が付きっきりじゃない駄目とか、角馬場まで付いていないと駄目とか、あるいは坂路の入り口でも誘導しないと駄目とか、そういう癖というか特徴を持っていたりするんです。

そういうことで言えば、ゴスペルは馬場に向かうところだけは最後まで駄目でしたね。

あと、ゴスペルは乗っている人が誰なのか、わかっていました。

アブミの長さとか、体重とか、いろいろな判断基準がゴスペルのなかにあったんでしょうね。僕が乗ると全く引っ掛からないんですけど、(横山)ノリさんや矢原さんが乗ると、自分が乗っているときからは想像もできないくらいに引っ掛かり、遠くまで暴走したりしました。もう馬場に向かうときの雰囲気からして違ったんです。

それでも、一番ヤンチャだった2、3歳の頃によく乗っていたので、その頃から比べるとだいぶ成長したなぁと思います。

ここまで危ない話ばかりしましたが、ゴスペルは数え切れないくらい大暴れをしていても、誰も怪我をしていないんですよ。

僕自身のことで思い出すのは、一度調教で角馬場で乗っていると、左のハミが利かなくて、よく見てみると手綱が抜けてしまっていたんです。

普通の馬ならば止めて直せば良いんですけど、相手はゴスペルですからね。ソロっと止めて、大きい声で角馬場の他の厩舎の人たちに『ごめんなさい。手綱が抜けているので、みなさん1回止まってください』とお願いをしてから、止めて直しました。

いやぁ、怖かったぁ。なかなか味わえないスリルでした(苦笑)。

それでも、怪我をした人はいません。人間側が警戒しているからなのかもしれませんが、本当に不思議だなぁと思います。

そんなゴスペルですが、本当は凄く泣き虫というか、大袈裟なところもありました。

普段、人間に対して気に入らないことがあれば威嚇したり、噛み付いてみたりして威張っているのに、今回は痛みに対して大袈裟に振る舞ってみたり、人間に甘えてきたりして、もの凄く甘ったれだったんですよ。

このようなエピソードを通して、僕はある意味ゴスペルが人間のような感覚を覚えるときがありました。こいつ、すべてわかってやっているんじゃないかと思えるところがあったんです。

そういう意味では、馬の個性とか、特徴について強く考えさせられるようになったのは、ゴスペルと付き合い始めた頃だったのかもしれません。

いろいろ考えさせられましたし、どうしたら良いのか、試行錯誤しました。でも、その結果として、僕たちにいろいろ教えてくれたんだと思います。前回お話ししたように、ゴスペルが僕たちにくれたものは多いです。

話は尽きませんが、本当によく頑張ってくれました。まさに無事これ名馬を地でいった存在です。

G1に挑戦すること11回。長い期間、しかも怪我もせず、一線級で活躍し続けるというのは、本当に難しいことなんです。最後に怪我をしてしまいましたが、本当にここまで骨折らしい骨折もなく、本当に無事に頑張ってくれました。

引退後については、まだ聞いていません(編注:門別競馬への移籍が発表されました)。もし種牡馬になったとしたら良い子を、と思いますが、一方でゴスペルそっくりな子を想像したら大変さが真っ先に思い浮かびます(苦笑)。

ひょっとしたら、僕自身このようなクラスの馬に二度と携わることができないかもしれません。我が尾関厩舎が30勝、35勝したとしても、このような馬が頻繁にいるかと言えば違います。

だからこそ、この馬と過ごした時間と経験を、財産として頑張っていかなければゴスペルに申し訳ないと思うんですよね。

長くなってしまいました。最後にゴスペルへ、本当に長い間頑張ってくれてありがとうございました。そして、本当にお疲れさまでしたと言わせていただきたいと思います。

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