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ノボワールドは僕だけじゃなく、田辺にも財産を残してくれたはず
2017.5.3
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西塚信人が独断と偏見で選ぶ“名馬物語”5頭目は、西塚厩舎時代に携わらせていただいたノボワールドです。

これまでも話したように、当時の西塚厩舎には馬がいない状況でした。そんな中、様々な伝手を頼りながら、1頭でも多くの馬をお預かりさせていただこうと頑張っていたときに、冠名『ノボ』で知られる、当時は株式会社池ばたオーナー、現LS.Mオーナーから転厩という形でお話をいただいたんです。

そんな感じで最初に別の馬をお預かりさせていただいた後、柴田政人先生のところから転厩してきたのがノボワールドでした。

他の厩舎の管理馬でも、お預かりしているオーナーの所有馬のレースは見ていました。ですから、ノボワールドは新馬勝ちをしているくらい良い馬だということはわかっていました。

しかも、アグネスタキオンの初年度産駒で、母父がシアトルスルーという良血です。デビュー戦を勝った後、なかなか結果が出ていませんでしたが、「こんなチャンスは滅多にない」と、やはり力が入りましたよ。そもそも、新馬を勝つような馬が、当時の西塚厩舎にほぼいませんでしたから。

実際、転厩してきて乗ってみた感想として、本当に良い馬だったんです。ちょっとうるさい面があって、担当者が落とされたりということもあったんですが、とにかくバネがあって、本当に乗り味が良かった。

その感覚からは上のクラスにいて不思議じゃないと思ったんですけど、なかなか結果が出なくて、転厩してからも距離や芝、ダートなど、いろいろ試し続けたんですよね。

ノボワールドといえば、ひとつ思い出すことがあります。転厩してきて4戦目、出走したかった年末開催のレースが除外になってしまったことがあったんです。オーナーに説明すると「どこでもいいから出走できるところに出走させて欲しい」と言われて、阪神のダート1800mには出走できたんです。

ただ、それが締め切り直前で、ジョッキーも他の馬にほぼ決まってしまっている状況でした。

関西の騎手をそこから探すのも難しく、思い悩んでいたときに、同じ日に障害レースがあることを思い出したんです。そこで、前々回(ビジネスサイクルの回)の話にも登場していただいた宗像さんの名前で登録したんですよ。オーナーにも、騎手本人にも許可をいただいていない状況でしたが……。

確定した後に、オーナーと宗像さんにそれぞれ事情を説明させていただいて、出走した結果は9着でした。

そしてその次走、小倉に遠征して、田辺が騎乗して17頭立ての17番人気で勝つというドラマがあったんですよ。

それまでは、オーナーからできる限り前で競馬をして欲しいというリクエストがあったんですけど、唯一あのときだけは『切れ味があるから、後ろから競馬をさせてください』とお願いをしました。簡単に言えば、“セコ乗り”をさせて欲しいとお願いしたんです。

その通り、道中は後方の内につけて、4コーナーは大外を回って、直線一気で勝ったんですよね。そして、あの勝ちをきっかけに、オーナーの所有馬に田辺が騎乗する機会が増えていったんです。

その後、父の西塚安夫が亡くなって河野厩舎の所属となった2009年2月の小倉開催に再び遠征をして2着、3着と続き、僕と同じように尾関厩舎に転厩となりました。

でも、小倉から帰ってきてすぐ、さあこれからというところで熱発して、そのまま亡くなってしまったんです。

馬自身は本当に頑張ってくれたんですけど、僕が無理をさせてしまったんじゃないかと、いまでも心の中に思いが残っています。

生きていたならば、もう1勝はできたはずですし、本当に申し訳ない気持ちでした。亡くなる時には、開業したばかりの尾関先生と一緒に立ち会ったんですけど、さすがに涙が溢れましたよ。

先生は転厩した直後で、ノボワールドのことを何も知らない状態だったと思います。それでも「元気出せよ」と励ましていただいたことを覚えています。

最後に無理をさせてしまったことは本当に申し訳なかったと思うんですけど、そこまでの調整とか、レース選択とか、本当にいろいろなことを教えてもらいました。何より、それが上手くいってくれたことが多くて、僕に自信を与えてくれたんです。

でも、そこが最後の一戦で、過信になってしまったのかもしれません。

ノボワールドは西塚厩舎には数頭かしかいない“良い馬”の1頭でした。それだけに、最後に命を落としてしまう結果に対して本当にショックを受けましたし、申し訳ない思いがいまでも残っているんです。

田辺には確認していませんが、当時田辺と一緒に競馬をしているような感覚でいた僕自身からすると、力の足りない馬で実力馬を倒すにはどうしたら良いのかということについて、ノボワールドで勝ったあの頃から覚醒していった感じはあるんですよね。

そういう意味では、田辺にもノボワールドは何かを残してくれた。そんな部分はあるんじゃないかと思うんです。

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