横山典騎手との繋がりを作ってくれたサクラプレジール
2017.5.17
私、西塚信人が独断と偏見で選ぶ
“名馬物語”、7頭目は
サクラプレジールです。
この
サクラプレジール、我が尾関厩舎に入厩してきたのは明け3歳になったくらいで少し遅かったのですが、乗った感じがものすごく良かったんですよ。
僕が生まれて初めてと言いますか、それまでの経験にないくらいで、
「よほど強い馬がいない限り、まず新馬戦は負けないだろう」と思ったくらいでした。とにかく走りがまとまっていたんですよね。
若駒の中には、緩いキャンターでバラバラになってしまったり、バランスを崩したりすることが珍しくありません。でも
サクラプレジールは100満点のハッキングができていました。正直、他の馬とはちょっと違うと感じました。
その感覚通り、新馬を勝って、2戦目で
フラワーCも勝ってくれました。そのあたりから、僕自身のことで恐縮ですが、
フラワーCで乗ってもらった
(横山)ノリさんとの関わりができたんです。
当時、
フラワーCを勝った後に、
桜花賞へ向かうかどうかということになり、ノリさんに乗ってもらって意見を求めようということになったんですよ。
追い切りではちゃんと動けていて、止める理由は見当たりませんでした。でも、レースの後は本当に良い頃の感じがなくなっていて、何かが違うという感じがあったんですよね。
そこでノリさんに乗ってもらったんですけど、上がってきて
『この馬は距離がある程度あった方が良いし、ここから桜花賞に向けてさらに仕上げていって、そしてそこからオークスに向かうとしたときに、良いイメージがわかない』という言い方をされたんです。
これを聞いて、凄いことを言うなぁと思ったことを今でも鮮明に覚えています。それと同時に、決して良い状態ではないんだということもわかりました。
結果的に、そこから
オークスに直行したんですけど、中間の調教に何かあったのか、それとも目に見えない疲労があったのか、結果が出ませんでした(14着)。さらにそこからスランプに陥ってしまい、そのまま復活してくれることなく、引退することになってしまったんです。
これは以前お話ししたことがありますが、現場で
サクラプレジールとずっと向き合っていて、良い頃と比べてハミに対してぶら下がるような走り方になったと感じていました。決してトモが逞しいタイプではありませんでしたので、余計に前に重心が移りやすかったのでしょう。
オークスの後はふた桁着順続きでしたが、一度だけ逃げる競馬をして、僅差に粘ったこともありました(
15年初音S、0秒4差6着)。この時も、もう少しハミにぶら下がらずに走れていたら、もうひと踏ん張りできたんじゃないかという思いがあります。
じゃあ、どうしたら良いか考えたとき、坂路を乗るとかいろいろな対策がありましたが、ロンギ(丸馬場)をかけたら効果があるんじゃないかという思いがあって、先生に話をしてロンギをかけたんですよね。
実際、やってみると普通キャンターでは幾分良化していった感じはありました。これならば競馬でも、と思ったんですよ。次走はノリさんも乗ってくれるということでしたし、やれることをやって送り出したんですけど、結果は駄目でした(
15年中山牝馬S14着)。
ブッチャけちゃいますけど、ノリさんとか、蛯名さんとか、(柴田)善臣さんといったレベルの人に話を聞くのは、ちょっと気が引ける部分があります。
ただ、自分なりに考えて、自分なりにやれることをやって送り出したのが
中山牝馬Sでした。だからレース後、ノリさんと話をしたときに、中間ロンギをかけて、幾分良化を感じた話などをしたんです。
すると、
『お前の気持ちはわかった。間違っていないと思うから頑張れ』と言われたんです。
尾関厩舎には
サクラプレジールにとって1歳上の全姉にあたる、
サクラオードシエルという馬がいました。その馬もやはり3歳のデビュー当初は走ったものの、同じように段々走らなくなってしまったんですよ。
ノリさんは
オードシエルにも乗っていたので、ズバリその
プレジールの状況をどう思うか聞いてみると、
『血統じゃないか?』と言われました。
僕自身、血統はそれほど意識していないんですけど、きょうだいで似ている部分があると感じることは確かに少なくありません。
プレジールと
オードシエルは、並べると全くわからないくらい似ていて、区別がつきませんでしたが、見た目は似ていないきょうだいもいます。
ノリさんの話では、年齢を重ねてから走るようになるきょうだいもいれば、種牡馬が違っても同じタイプに出るきょうだいもいると。たとえばゲートなどでの所作も似てくることがあって、見た目以外にも様々な面で血統が持つ特徴が出てくるということでした。
その時点でノリさんは
『(サクラプレジールは)これ以上はないように思う』と仰っていました。それは
オードシエルを知っていて、その繋がりも踏まえて話をしてくれたんだと思うんです。
ノリさんも言っていましたが、結果的に終わってみれば不思議と似ていることが多い。それが血統なのかもしれません。
プレジールをきっかけに、ノリさんとはいろいろ話をしてくださるようになりました。それはたぶん僕が、僕なりにいろいろ考えてやっていると思っていただいたからなんじゃないかと思うんです。僕のくだらない質問にも答えてくださるんですけど(苦笑)、本当に勉強になります。
ノリさんといえば、同じ騎手の人たちから
『凄い』と言われるほどの存在です。
僕ではまだ本当の意味での凄さはわからないのかもしれません。それでも、個人的には今でも決してルメールやデムーロといったジョッキーたちにも負けていない、そう思うことがたくさんあります。
詳しいことについてはまたの機会にさせていただきますが、ノリさん以外にも、蛯名さんや善臣さん、あるいは(田中)勝春さんといった方々は、経験に裏打ちされた凄さがありますよ。
長い間トップに君臨して得た技術が、そうそう簡単に錆び付いてしまうなんてことはあり得ないはずです。そういう実感をさせてもらったのも、
サクラプレジールがいたからなんですよね。
ノリさんには
『お前が頑張ったことは、プレジールには出なくても、次の機会に必ず活きてくるから頑張れ』と言っていただきました。それでも馬は簡単にはいきませんし、とにかく馬に正直に向き合って頑張り続けなければならないと思っています。
目に見えない血統の力を思い知らされると同時に、それでもできることを頑張り続けることが僕たちの仕事なんだと改めて教えてくれたのが
サクラプレジールだったんです。
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