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エージェント制度改革は、文字通り最後のチャンスかもしれない、と思っています
2017.5.31
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今回は最近何かと話題になっている、ジョッキーのエージェントについて話をさせていただこうと思います。

現在のルールは1人のエージェントに対して3人プラス若手1名、トラックマンをはじめとする副業でもOKとなっています。それが一部報道では、今後ルールの変更がされ、兼業できなくして、担当する騎手も最終的にはエージェント1人に対して騎手1人にすることが検討されているようです。

現場で働く者の1人としては、そうした方が良いと感じています。

僕がこの世界に入った当初、田辺や松岡、あるいはマユちゃん(黛騎手)など、たくさんの騎手の方々たちと接し、一緒に仕事をさせていただきました。西塚厩舎の“走らない”馬についても、毎日のように1頭1頭真剣に話をしてきたことを思い出します。

田辺や松岡であっても、懸命に厩舎との繋がりを求めて、自分が乗らない馬であっても真剣に、そして丁寧に調教に跨がり続けてきました。そこから1頭のチャンスをもらい、その積み重ねの結果として、いまがあるということです。

もちろん、そうやって頑張る若手に対して、勝負服を取りに来させたり、返却させたりということは、我々厩舎サイドの怠慢であり、決して良いことではないと思います。

しかし、そうやって厩舎を回り、攻め馬を手伝い、そして僅かなチャンスをもらおうと頑張って、顔と名前を覚えてもらう。それは大変なことですが、大事なことなんですよ。

それがいまでは、デビューしたばかりなのに、エージェントを付けて馬を集めてもらうことが当たり前になってしまっています。

そういう若手たちと仕事をしていて、それまでの時代を経験した騎手の方たちとの差を感じるのは、ハッキリ言わせていただきますが、“心がない”ということです。我々厩舎スタッフたちの思いなどはもちろん、1頭1頭の大切さなどということは全くと言っていいほど感じさせません。

先週まで続けた僕自身の“名馬物語”を読んで感じていただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえ走らない馬であっても、G1を勝つような馬と同じように、たくさんの人間の思いが詰まっているんです。

このような風潮になってしまったのは、間違いなくエージェント制度にも一因があると思います。

冗談みたいな話がふたつあります。

騎手会でこの問題について話をしたときに、デビュー間もない若手騎手の1人が『エージェントがいなくなってしまったら僕はどうすれば良いんですか』と真剣に訴えたというんです。

そういう意味では、師匠も師匠なのかもしれません。騎手である前に、1人の人間としてしっかりと育てようという意識がないから、そういう発言が出てしまうのではないでしょうか。

また、ある調教師さんが若手を乗せた時のことです。その騎手はその調教師さんの前を素通りして、エージェントに『ありがとうございます。今日はよろしくお願いします』と頭を下げたと言います。

もうこの話を聞いたときには、呆れて言葉もありませんでした。

今回のルール変更に伴い、JRAからエージェントの方々に説明が行われた際に、『古くさい制度にしがみ付くのか』とJRAを批判した方がいらっしゃったそうです。

でも、日本以上に合理主義が進んでいる欧米でさえも、そういう人間的な部分は尊重されているそうです。

アイルランドで調教師をされている児玉先生に聞くと、シーズン終盤、トップジョッキーたちは大きな厩舎ではなく、管理馬が10頭に満たないような小さな厩舎の調教に片道3時間近くかけても行くそうです。

なぜかと言えば、大きい厩舎は専属騎手が決まっているのに対して、小さい厩舎はそうではない。そういう小さい厩舎のチャンスがありそうな馬の1勝が、リーディング争いを決めることになるからだと。

イギリスでも同じような感じで、かつてはフランキー・デットーリやキアラン・ファロン、あるいはライアン・ムーアなどもそういう経験をして、トップジョッキーに登り詰めたんです。

合理主義は決して悪いことではないはずです。しかし、馬がいることで成り立っている我々の世界のなかで、その馬に対する思いがなくなるような制度というのは本末転倒でしかありません。

現状はエージェント1人に対して複数の騎手を担当できるため、騎乗馬をそのエージェントが担当する騎手で“回す”ことが可能です。そうなると馬に乗せるのは調教師さんではなくエージェントになり、調教師さんではなくエージェントに挨拶に行く、ということになってしまうんだと思います。

これがトラックマンとエージェントの兼業ができなくなり、騎手1人に対してエージェント1人になればそういうわけにはいきません。そうなれば、騎手と現場の繋がりは強くなるはず。

現場で馬と一緒に過ごし、働いている1人の調教助手として、このルール変更はひょっとしたら最後のチャンスかもしれない、とさえ思います。

(横山)ノリさんや蛯名さんは、率先してエージェントに依頼するのをやめました。その行動は凄いことだと思いますし、その意味の重さを競馬サークル全体で考えるべきではないでしょうか。

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