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【対談・飯田助手④(終)】同じ馬はいないからこそ、この仕事は面白い
2017.7.26
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飯田直毅調教助手…以下[飯]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]飯田さんは安藤さんよりも前、小島太さんや安田富男さんとか、的場均さんとも仕事しているんですよね?

[飯]そういう方々も個性があって、それぞれ味がありますよね。

[西]僕はその人たちの現役時代を知らないんですよね。その時代の方々たちといまの時代とでは、やはり違いますか?

[飯]どうだろうね。昔のVTRを見ると、いまの時代よりもタイトではないかなぁと思います。いまはスロー、よーいドンが多いですけど、ペースが流れることによる難しさもありますし。そういうレースも技術が求められますからね。

[西]出入りの激しさもありますよね。

[飯]あと、馬場状態もいまとは違っていますからね。ただ、世代を超えても一流ジョッキーは一流ジョッキーだと思います。

[西]なるほど。最近、的場(均)先生が調教で乗っていらっしゃいますけど、やはり上手いですよね。僕なんかが言うのは失礼ですけど、さすがだなぁと思います。

[飯]いやぁ、上手いよね。

[西]実際、的場先生に「僕が言うのも失礼ですけど、上手ですね」と言ったら「いや、年を取って体が動かなくなったよ」と仰ってましたけど。

[飯]技術は衰えていないということでしょう。

[西]昔、郷原洋行先生(元調教師)が現役だったときに、ごねてゲートに入らなかったことがあったらしいんです。そこで、先生が普段着のまま乗ると、ゲートに入れたそうですよ。

[飯]そういうことを馬に伝える影響力も大きいし、それはいつの時代でも同じなのではないですかね。

[西]でも、飯田さんも長い期間この世界にいるわけですよ。それはそれで凄いことですよ。

[飯]そんなことないよ。

[西]いや、それだけ経験があるわけですし、それは本当に凄いことです。

[飯]でも、この世界は本当に面白いですよ。尽きることがない。同じような馬が入ってきても、全く同じということはありません。こんなもんでいいや、という気持ちにはなれないんですよ。

[西]実は最近まで怪我で休んでいたんです。それで改めて乗ってみて、馬に乗るワクワク感とドキドキ感を味わいました。飯田さんは大きな怪我をしたことありますか?

[飯]一度だけありますよ。逆走してきた馬と鉢合わせする形になって、ピタっと止まられたときに、アブミから抜けずに引きずられてしまいました。腰が痛くて、痛くて、医者に観てもらったら肝臓から出血しているからそちらが心配ですって言われたんですよ。骨折もしていたんですけどね。

[西]昔は、内蔵が損傷していて、それがわからずに命を落とされた方々が多かったと聞きますよね。痛いんでしょうけど、鎖骨骨折なんかよりも痛くなかったりするんじゃないですか?

[飯]確かに、腰は痛かったけど、お腹は痛くありませんでした。念のためにと、MRIを撮影してわかったんです。

[西]そういえば、腰とか痛くなったりしますか?

[飯]それなりにはあるかなぁ。

[西]腰は馬乗りの職業病と言われたりしますけど、僕はないんですよ。

[飯]小島茂さん(現調教師)に「飯田君、30歳過ぎたら、腰とか痛くなるよ」と言われていて、そんなの大丈夫だよと思っていたんですけど、30歳の声を聞いたら、あれっ?という感じになりましたよね。

[西]小島先生も腰良くないですもんね。あれ、小島先生とは一緒の厩舎にはなっていないですよね?

[飯]小島茂さんは嶋田功先生から浅野先生のところに移りましたけど、厩舎が近かったこともあって、いろいろお付き合いさせていただきました。

[西]浅野厩舎といえば、ミナモトマリノス(96年若葉S1着など)ですよね。小島先生はミナモトマリノスのときに浅野厩舎にいたんですか?

[飯]いましたよ。あの頃活躍馬がたくさんいて、ミナモトマリノスのことは「飯田君、良い馬が来たんだよ」と言っていました。

[西]そういう時代ですか。でも、僕の勝手なイメージでは上原厩舎は、あの頃のままなんじゃないかと思うんです(笑)。

[飯]先生がそのスタイルで来てくれているので、そういう部分はあるかもしれません。

[西]ダイワメジャーがモタれて、という話を先ほどされていましたけど、どうやって直すか、というのは飯田さんに任されているわけですよね?

[飯]あのときはいろいろ考えましたね。

[西]角馬場で8の字を書いて、こうしてどうして、というように具体的な指示が出されるわけではないですよね。

[飯]こちらの意見を聞いてくれますよ。

[西]いま、そういう状況は珍しいですよ。いま調教中に使うメトロノームが流行っていますけど、もちろん……。

[飯]付けていません。

[西]ですよね。でも、完歩くらいは数えてますよね?

[飯]全然数えていません。15-15で入ろうというときには、7、8歩目まで頭で数えて、そこからは感覚です。

[西]でも、そこまで数えていて、そこからはあとは感覚で、それで合うということですよね。

[飯]大体合うし、景色の流れていく感覚で遅いときには遅く感じますし、速いときには速いと感じますよね。本当はそれではいけないのかもしれませんけど。

[西]ちょっと話は逸れますけど、上原先生は馬術部出身で、しかもかなり有名選手だったそうですよね。

[飯]そうみたいです。

[西]ブッチャけさせていただきますと、いま馬術部出身の関係者が増えていていますけど、そういう方たちと上原先生は雰囲気が違う感じがします。拳の位置とか、乗り方や時計にしても細かい指示は出ませんよね。

[飯]そういう感じではないですよね。

[西]乱暴な言い方かもしれませんけど、“飯田、頼むな”という感じじゃないですか。いわゆる流行のスタイルではないのに、G1を勝つわけですよ。あ、遅れてすみません。セイウンコウセイ(※)、おめでとうございました。僕は負けたと思っていないですけどね(笑)。

※今年の高松宮記念を勝利。尾関厩舎のレッドファルクスは3着だった。

[飯]ありがとうございます(笑)。

[西]自信あったんですか?

[飯]勢いはありましたよ。

[西]ダイワメジャーもそうだったと仰っていましたけど、勢いに乗せよう、という意識はありますか?

[飯]ありますよ。勢いって大事ですよね。

[西]でも、その勢いって、人間がどうのということではなくて、馬自身の問題だったりしますよね。

[飯]もちろん。落ち着きは大事なんですけど、タコメーターのレッドゾーンへの振り幅が大きくなっていくような感じがあります。それまでは3000回転程度だったのが、一気に7000回転くらいになったという印象を受けます。そうなると、フットワークにしても変わってきて、例えば17秒のキャンターのつもりで坂路を上がっていくと、17秒は68歩ですけど、それが63くらいで軽々と駆け上がってしまうようになるんですよ。完歩を数えたりはしませんけど、自分の感覚では17秒だし、何より馬が余裕なのに63ですから。それは良くなっているわけですよ。



[西]それについて上原先生から「飯田、速いぞ」などという言葉は?

[飯]もちろんありません。結果的には時計1つ(1ハロン1秒)ずつ詰めているということですよ。

[西]他だったら「おい、速いぞ」となることもあるわけですよ。でも、17と16の差というのは、馬の雰囲気や体調で変わってくる感じですよね。

[飯]なんぼでも変わりますよ。でも、馬にそれまでよりも余裕があって、時計が出るようになるのは状態が良いからだからね。むしろ、先生も「デキがいいなぁ」という反応かなぁ。

[西]昔の先生っぽいですよね。

[飯]先生が我慢してくれているところは一杯あると思いますよ。でも、僕たちの言葉に耳を傾けてくれます。

[西]デキがいまひとつのときとかは言うんですか?

[飯]もしデキがいまひとつというときには、先生もわかっていますよね。

[西]もう上原厩舎が開業してから25年ですから、飯田さんにも25年以上の経験があるわけで、そういう人がいるというのは厩舎の財産ですよ。もっと言えば、時計云々よりも馬への対応方法や馬の雰囲気を見極める経験則の方が大事なんじゃないかと思います。時計云々だけだったら、ロボットが乗ってもいいんじゃないかと言った人がいましたし。



[飯]財産かどうかわからないけど(苦笑)、でも馬は生き物として扱わなければ駄目ですよ。確かに走るために生まれてきて、走ることが使命だったりする側面はあるんですけど、人間と同じで良いときもあれば、調子がいまひとつのときもあります。それを僕たちがどう感じて、どう対応するか、というのが僕たちのできることだと思うんです。難しいけど、逆にだからこそ面白いのかなぁ。

[西]サクラゴスペルを通して、馬の個性というか、人間的な部分を再確認させられた部分が強いんですけど、飯田さんもそうやっていろいろな馬と付き合いながら経験を積んできたんだとよくわかりました。

[飯]馬との付き合いは大変だし、難しいけど、だからこそ面白いんでしょうね。時代が変わって、いろいろな方法も変わっていくのかもしれないですけど、馬はロボットじゃなく、生き物であるということに変わりはありませんから。常に、馬との付き合いを楽しみながら、これからもやっていきたいです。

[西]いやぁ、本当はもっとお話を聞きたいんですけど、遅くなってしまいました。明日の攻め馬も早いですからね。今日は本当にありがとうございました。

[飯]ありがとうございました。

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