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【対談・金子騎手④(終)】馬も人も、経験が“味わい”になる
2017.9.13
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金子光希騎手…以下[金]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]人間模様こそが障害をはじめとする競馬全体の魅力だという話をここまでしてきましたが、それが今は薄れつつあるように感じるんです。個人的には残念だなぁと思うんですよ。

[金]1頭1頭、1人1人にドラマがありますからね。

[西]金子さんが騎手を目指して、競馬学校に入って、減量に苦しみながら騎手になって、そして障害騎手として生きてきた。その人生が、いまの金子さんを作り上げているわけで、そこにはドラマがあって、人間としての味わいが出ているわけですよ。

[金]スルメみたいですか(笑)。

[西]いや、本当に良い味を出していると思いますよ。

[金]そう言っていだけるとありがたいです。ただ、自分としては1頭を自分で仕上げて、障害馬としてデビューさせることの面白さというか、やり甲斐を感じて頑張っているだけなんですよね。そういう部分は、ファンの方々にはなかなか分かりにくいのかもしれませんけど、そういう部分をお伝えできれば、とは思っています。

[西]いまは障害さえ、乗り替わりが頻繁に行われる時代ですからね。

[金]勝負の世界ですから。それはみんなわかってやっていると思います。勝てば官軍の世界で、勝たなければ発言権もなくなれば、人気もなくなってしまう世界ですからね。(蛯名)正義さんや(横山)ノリさん、あるいは(武)豊さんといった人たちは勝ち続けてきたからこそ、いまの地位があるわけです。外国人だって、そうですよ。たとえ上手であったとしても、勝ち続けていなければ、良い馬に乗れるチャンスはなくなってしまうんですよ。

[西]もちろんその通りです。競馬は勝負の世界で、勝つことがすべてとされていますよ。でもね、甘いのかもしれないけど、それだけじゃ魅力がないというか、それではオグリキャップに心を奪われて20万人もの人が押し寄せる競馬というのはなくなってしまう寂しさを感じるわけです。

[金]いや、信さんが言いたいことはわかりますし、そういう部分が競馬の醍醐味だとも思います。でも、勝負の世界ですからね。

[西]金子さん、良い経験していますよね。いつもは馬の上で冗談ばかり言っていますけど、改めてこうして話をすると、金子さんが良い経験だけでなく、辛い経験をしてきたことも感じるんです。

[金]苦労しなくて済むならば、しない方がいいですけどね。

[西]でも、そういう経験が味わいになって、そこが人間としての魅力だったりするわけですよ。そして障害騎手のほぼ全員にそういうものがあるからこそ、一緒に仕事をしていて、本当に楽しいですし、教えられることが多いんです。

[金]そう言っていただけると、障害騎手の1人として嬉しいですよ。

[西]僕が言うことではないけれど、挫折を知らないで生きていく人なんて恐らくいないし、そういう経験があるからこそ、その人の味わいが生まれていくと思うんですよね。ブッチャけさせていただきますけど、ノリさんや蛯名さん、何より武豊さんでさえ、辛い時期があったり、辛い経験をしていると思うんです。でも、その後の方が輝いてみえたりするんですよ。騎手としても人間としても。

[金]酸いも甘いも、という言葉がありますけど、すべてを経験することが良いのかもしれませんよね。

[西]もっとブッチャけちゃいますけど、同じ勝つならば、知らない騎手よりも普段から一緒に仕事をしている騎手で勝ちたいと思いますよ。そして障害で勝って何が嬉しいかって、1から10まで関係を作り上げた騎手で勝つことなんです。個人的な意見で申し訳ないけど、あまり接点のない騎手で勝つよりも、普段から一緒に仕事している靖典(蓑島騎手)で勝つ方が何十倍も嬉しさを感じることができるわけですよ。金子さんが武市厩舎で重賞を勝ちましたけど、全部金子さんが自分でやってきたわけで、スタッフの人たちは同じ思いなんじゃないかと思います。そういう感覚って、いまの平地にはあまりないですから。

[金]確かに、その嬉しさは代え難いものがあります。

[西]ゲート試験は若い人間で、レースはトップジョッキーみたいなスタイルがほとんどですからね。

[金]でも、逆にみんなで仕上げたという気持ちになることもできるじゃないですか。

[西]もちろんそうなんだけどね。

[金]障害の場合、飛ばすことができる人が限られていますからね。

[西]そこに障害の良さがあるわけだよ。しかも、未勝利を勝つことができなかった馬が、平地を諦めざるを得なかった騎手とともに、もう1回ここで花開いてくれたと思うと、本当に嬉しかったりするわけです。いまだにメジロアマギ(※1)の初勝利は忘れられないんですよ。言いたいこと、わかってもらえるよね。

(※1)平地で9戦連続掲示板外の後、障害転向3戦目で初勝利を挙げた。鞍上は簑島騎手。

[金]わかります。

[西]レッドファルクススプリンターズSサクラゴスペルの重賞勝ちも、もちろん嬉しいんだけど、蓑島で障害の未勝利を勝ったあのレースも忘れられないんですよ。

[金]いや、失礼なんですけど、今回お話をいただいて、初めてこの信さんのコーナーを熟読させていただきました。掲載されているのも知っていましたし、サラリと目にしたことはあったんですけど、今回読んでみて、これほどまでに熱く競馬の話をされているとは、普段の僕と信さんとの間からは想像もできませんでした(笑)。

[西]そりゃそうだよね(笑)。

[金]今回こうして話をさせていただいて、ひとつだけ言わせていただきたいことがあるんです。それは、いまの日本の競馬は焦り過ぎだということです。

[西]どういうことですか?

[金]乱暴な言い方かもしれませんけど、2歳なんて幼稚園のお遊戯会みたいなものですよ。それが3歳の9月までしかレースがないというのでは、歩くことができるようになって、やっと走れるようになったところで終わりみたいな感じじゃないですか。

[西]言いたいことはわかりますよ。

[金]障害馬は5歳6歳になってようやくこれから、という感じなんですけど、それが3歳の9月でその馬の本当の能力を推し量ることができるのかな、と思うんです。地方に行って、戻ってくるというならばまだ良いですけど、乗馬、あるいはその命に見切りが付けられてしまうケースさえあるわけですからね。

[西]バシケーン(※2)は、チョンマゲ先生(高橋義博師)のところだったから、あのような活躍ができたと思うんです。

(※2)平地で8戦連続ふた桁着順の後、障害転向。初めて馬券圏内に入ったのは障害転向後8戦目、初勝利を挙げたのは転向後11戦目。その後に中山大障害(2010年)を制した。

[金]本当にそう思います。

[西]最初は飛越も酷くて、それが徐々に上手くなっていったじゃないですか。そうやってどんどん上手くなっていくのも、障害のまた面白いところなんですよね。

[金]そこ、そこなんですよ。技術でカバーすることができるんですよ、シンキングダンサーも平地は未勝利でした。大障害を連覇するような怪物というのは、平地のオープン馬とかじゃないんです。未勝利や500万の馬たちだったりするんですよ。

[西]しかも、元々上手い天才肌というよりは、時間をかけながら強くなっていくようなタイプが多かったりしますよね。

[金]そこにドラマがあるんじゃないですかね。あの時バシケーンが正直勝つとは思いませんでしたが、馬も持っていますよね。あれだけ馬場が重くなってくれたことは間違いなくプラスに働きましたから。もし馬場が良ければ、時計が速くなっていたはずで、そうなると、後ろから行く馬たちにとっては厳しくなりますから。他の馬たちが馬場に苦労していたために、速くならずに、普通に追走してきて、最後に差せたということです。

[西]でも、そこにはバシケーンの跳びの上手さというのもあったはずですよね。

[金]もちろんです。

[西]そこまで上手くなるのに、2年近くかかっているわけですよ。

[金]もう執念というか、諦めたくない気持ちだけですよね。

[西]どんな強い馬でも負ける。逆に、伏兵が強い馬を負かす。だから競馬が面白いんだよ。だって、未勝利を走っていたバシケーンを見て、障害のG1を勝つと思った人なんていないはずだし、あのディープインパクトさえ負けてしまうのが競馬でしょう。

[金]本当にそうなんですよね。だから、競馬が人を引きつけるんでしょうね。

[西]あっ、もうこんな時間ですよ。明日汗取り頑張ってください(笑)。

[金]大丈夫です。今日の分は既に計算してありますから(笑)。

[西]今日はお忙しいところありがとうございました。今度はぜひG1を勝って、来ていただければと思います。



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