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【対談・宇井功氏①】今回は馬具屋さんをゲストにお迎えしました!
2017.11.1
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宇井功氏…以下[宇]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]このコーナーも長く続いてきましたが、その中でも今回は初めての業種となる、馬具屋さんに登場していただきます。個人的には、普段から悪態をついてばかりでご迷惑をおかけしています、宇井馬具店の宇井功社長です。よろしくお願いいたします。

[宇]よろしくお願いいたします。

[西]他のお客さんには丁寧な接客をされていますけど、僕に対してはそれは酷いですよね。それだけの悪態をついているからなんですけどね(笑)。

[宇]いつも難しいご注文をありがとうございます(笑)。でも、長いお付き合いをさせていただいていますから。西塚さんが調教師になられたら、3代にわたってのお付き合いとなりますよね。



[西]宇井馬具店は開業されて何年くらい経つんですか?

[宇]62年ですか。

[西]えっ、そんなに長いんですか。

[宇]先代が始めて、私、そしていま修行している息子と続くんですけど、62年ですね。

[西]宇井さんのお父さんが始められたんですね。

[宇]義理の父です。私はサラリーマンをしておりまして、結婚して家内の父が営んでいた馬具屋を継いだ形です。

[西]宇井さんが継いで何年なんですか?

[宇]27年ですかね。

[西]それまで、馬とは関係あったんですか?

[宇]全くありませんでした。それこそミシンも使ったことなどなかったですし、こういう仕事があることすら知りませんでしたよ。

[西]馬具屋さんにとってミシンは商売道具というか、できなかったら商売になりませんよね。読者のなかには、馬具屋さんはどこからか仕入れて、それを売るというスタイルだけを想像される方々もいらっしゃるかもしれませんけど、それよりも自分たちで作ったり、修理したりする部分がとても大きかったりするんですよね。

[宇]これだけ通販が盛んになってきていて、海外からもいろいろな製品が輸入されています。もちろんうちでも取り扱っていますけど、極端な言い方をすれば、それは誰でもできるんですよね。でも、知識があって、修理ができて、そして自分のところで作ることができるのが馬具屋だと思っています。そういう技術を先代が持っていて、それを受け継いで、そして先々に伝えていくことが何よりも重要になりますよね。

[西]昔の調教師的な感覚だったりするのかもしれませんね。

[宇]栗東トレセンには時田馬具店というお店があるんですけど、そこはうちの先代と兄弟弟子にあたります。元は、東京に中西馬具店という大きなお店がありまして、そこで修行していたんです。昔ながらの馬具屋なんですけどね。

[西]先代が独立されたのが62年前だとすると、戦後まもなくということになりますよね。

[宇]独立して、中山競馬場に看板を掲げたのが62年前です。中山と白井に厩舎があった時代で、中山と白井を行き来しながら営業していたんですが、トレセンができるときに調教師会から話をいただいて、東京で飼料も取り扱っていた渡辺さんと、中山と東京で1軒ずつということになって、それで美浦トレーニングセンターに開業することとなりました。

[西]なるほど、東京と中山で1軒ずつということなんですね。でも、昔ながらの技術を持つのは宇井さんだけですか?

[宇]中西馬具店の流れでは、うちと関西の時田さんと、あとひとつ三河屋馬具店さんですか。

[西]宇井さんのところは牛の革から作っているんですよね。

[宇]大きな牛の革から、包丁で割いて、アブミ革を作ったりしています。

[西]鞍も作っているんですか。

[宇]昔は作っていました。ただ、いまはそこまで手が回らないので、北海道にあるソメスサドルという会社で作ってもらっています。

[西]でも、鞍骨の修理とか、革の部分の修理とかはやっていらっしゃいますよね。

[宇]やっていますよ。ミシンも使いますが、ほぼ手縫いです。

[西]そうなんですね。あとは、馬の脚につけるプロテクターとか、ナイロンの天井(※頭絡)とかは、自前で作られていますよね。

[宇]そうですね。

[西]表がナイロンの、合皮みたいなタイプもそうですか。

[宇]クラリーノですね。あれは、それこそうちの先代と中西馬具店の兄弟弟子にあたる職人さんが作っていました。それだけを専門に作っていたんですけど、大変な仕事なんですよ。厚い革を鉋で削って、ちょうど良い厚さにして、そこから切り取って、手縫いで作り上げていきますから。

[西]職人さんの技がそこにはあるんですね。たぶん、昔にそのクラリーノ製の天井が出たときには人気になったと思うんですけど、いまもその時代、時代で流行というか、人気になる馬具がありますから。それこそ宇井さんで作っているナイロンの天井とかも、出た当初は相当人気があったはずですよ。宇井さんが始めた当初にナイロンの天井はありましたか?

[宇]ありませんでした。ですから、私がこの世界に入ってからでも随分と変わりましたよ。手綱にしても、昔はいわゆる布手綱が使われていましたけど、いまでは1年に1本売れるかどうかです。いまはナイロンばかりです。

[西]僕たちが言うところのゴム手綱ですよね。

[宇]手入れも簡単ですし、長持ちもしますからね。

[西]天井はどうだったんですか?

[宇]昔はヌメ革という、色も何も塗っていない革だけでした。ちょっと専門的な話をさせていただきますと、動物の皮というのは牛でも、豚でも、馬でも、そのままでは使うことができません。ですから、この生皮に植物製の薬品などを使用しながら、なめしという行程を1年以上かけて樽付けして、皮から革へと仕上げていくんです。その後クラリーノが出てくるんですけど、こちらはクロームという薬品を使ってクローム革を仕上げていくので、行程が違うんです。

[西]なるほど。

[宇]ただ、今はクラリーノがほとんどなくなっています。そういう薬品に関して規制が厳しくなってきたこともありますが、ナイロンが出てきたことが一番の理由かもしれません。

[西]ナイロンの天井が出てきたきっかけは何だったんですか?

[宇]輸入品でしょうね。天候的にも合うヨーロッパでは革が主流ですが、アメリカではダートですし、雨も降ります。しかも、いろいろな民族の人たちが馬具を扱いますので、より手入れが簡単なモノを、となって、ナイロン製の頭絡ができたんだと思います。

[西]合理的にというか、利便性を求めた結果ということですか。確かに、僕たちが毎朝攻め馬のときに革の天井しか使えなかったら、それはそれで手入れが大変ですよ。

[宇]昔は、天井だけではなく、アブミ革も革製のものがありましたし、むしろ革が主流でした。でも、いまはアブミ革でも革とナイロンを合わせた製品などもあります。

[西]宇井さんのお店で見たものですね。でも、僕がこの世界に入ったときには、天井はナイロンが主流という感じになっていました。

[宇]そうなっているのは馬具だけではないですよね。たとえば飼い葉桶にしても、昔はステンレスの大きなモノが馬の前に吊るされているのが普通でしたよ。それがいまはプラスチック製のバケツのようなタイプで、金具が付いていて壁に引っ掛けるタイプが使われるのがほとんどでしょう?

[西]懐かしい(笑)。あのステンレス製の飼い葉桶とか、もうないんじゃないですか?

[宇]一応は置いてあります。でも、1つだけですけどね。商売的な話をさせていただきますと、これも1年に1つ出るか出ないかです。

[西]確かにステンレス製の飼い葉桶も見かけませんし、馬の前に吊るしてある厩舎もないと思います。

[宇]馬が万が一暴れたときにも、プラスチックならばダメージが少ないですし、人としても重い桶を持つよりも、軽いプラスチックの方が負担も少ないでしょうからね。

[西]僕が幼いころというのは、馬の前にステンレス製の飼い葉桶が鎖で吊ってあって、その近くに乾草や寝わらが積んである光景が当たり前というか、多かったように思います。変わったなぁ。

[宇]飼い葉桶で言えば、吊るしてあると馬も振り回しやすかったりするので、危険だと思います。

[西]首に巻き付いてしまう可能性だってありますからね。

※次回へ続く

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