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【対談・宇井功氏③】技術的な基本がなければ、応用はできない
2017.11.15
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宇井功氏…以下[宇]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]尾関厩舎もレースでは革の天井を使っている、という話を先ほどしましたが、革が使われる理由には格好良いから、という部分は間違いなくありますよね。

[宇]そうですね。

[西]でも、そういう話だと僕は思うんですよ。先程の洗いバミの話ではありませんけど、実際はチフニーではなく、洗いバミでも良いはずなんです。馬具屋さんに調整してもらうという手間はありますけど、もしチフニーが出てこなければ、いまでも洗いバミを使っていたはずですから。それ以外に何か洗いバミが姿を消した理由は、何かあるんでしょうか?

[宇]洗いバミは、午後運動のときによく使われていましたよね。いまはその午後運動がなくなりましたから、そういう影響もあると思います。

[西]確かに、午後運動で使っている人が多かったですよね。いま午後運動をする厩舎は皆無ですからね。なるほど、そういう影響もありますか。こう考えると、トレセンの変容と馬具の変容というのは密接に関係しているということですね。

[宇]そういう部分は感じますよ。

[西]あ、そうだ。ワタリ(※騎手の手が馬のたてがみに絡まないように、たてがみを編み込むもの)っていまでも売れるんですか?

[宇]時々ご注文いただきますよ。たてがみを編むのも技術が求められますけど、最近はそこまで伸びる前に切ってしまうことが多くなっています。

[西]わざわざ編むよりも、切ってしまった方が早いですし、簡単だということなんでしょうね。

[宇]でも、厩務員さんによっては、競馬のときにはやってあげたいという人もいますし、馬主さんに勝負服カラーでワタリをつけて欲しいと言われるということもあるようですよ。

[西]ちなみに、ワタリも宇井さんの手作りなんですか?

[宇]そうです。色のオーダーを受けても作ります。

[西]ワタリというと、サクラ軍団のピンクもそうですけど、鈴木康弘先生や境勝太郎先生のところは最後までワタリを編むようにという指示があったそうです。懐かしいなぁ。自分で言っておいてなんですけど、見なくなりましたよね。

[宇]ベテランの厩務員さんはできたのでしょうね。

[西]いえ、僕たちも競馬学校ではやりましたし、卒業したばかりの頃は編めましたよ。

[宇]でも、最近は編まれる人は少ないですよね。

[西]それは間違いありません。それと、ベトラップも昔はありませんでしたよね。

[宇]ありませんでした。

[西]これは競馬のときなどに、馬の脚元にピッチリと捲かれている、いわゆるバンテージなんですけど、いまは使い捨てですよね。これがなかった時代には、布とかを捲いていたんですか?

[宇]フェルトでできているポロバンテージも昔はありませんでしたので、それまではプロテクターが主体という感じでした。

[西]そういえば、競馬のときにも脚当てをしていましたよね。

[宇]他界したうちの先代に言わせると、いまの脚当てを作るのはそれほど大変ではないということになるようです。それは、ウエットスーツの伸縮性を兼ね備えた生地があるからです。昔は、薄いフェルトに革を貼り付けて、小さいビスを手で縫い付けていたそうですから。

[西]えっ、そんなのがあったんですか。

[宇]僕もほとんど見たことがないので、西塚さんでも見たことはないと思いますよ。

[西]ウエットスーツの生地しか知らないです。そもそもあのような生地を使うというのを、誰が考えているんですかね?

[宇]脚当ては馬術の人たちがよく使われますよね。確かではありませんけど、もしかしたら元々は馬術のために海外から輸入したものなのかもしれません。ただ、競馬とはスピードが違いますし、ぶつけるところも違ってきます。ですから、そのまま競走馬には使えないということで、そのために改良された、ということなのではないでしょうか。

[西]お店には、実に様々な部分に保護のプロテクター(※下写真)が付けられている脚当てがありますよね。


[宇]それは一般的というか基本的な製品です。そこからもう少しこの部分を保護するタイプにして欲しいというオーダーを受けて、馬に合わせた製品も作っています。お客様の要望にどう応えていくか、そのためにいろいろ話をしながら、こちらもご提案をさせていただきながら、作っています。

[西]オーダーメイドでプロテクターを作るケースは、けっこうありますよね。

[宇]うちは基本のモノも自分で作っています。でも、先代も言っていましたが、基本ができていないと、応用はできません。基本の脚当てを自分で作れないと、応用した形も作れないということです。

[西]そういう意味では、プロテクターをこうして欲しいというような相談が一番多かったりするんじゃないですか?

[宇]プロテクターももちろんですけど、いろいろなご相談を受けますよ。立ち上がってしまって仕方がないとか、どうしてもモタれてしまうとか。それをどうにかするために何か良い馬具はあるのか、どうにかならないかということなんですよね。

[西]わかります(笑)。宇井さんにはそれに応えるだけの経験があるとこちらも思っていますからね。

[宇]ちょうど先日も、立ち上がって手がつけられないというご相談がありました。それまでに同じようなご相談を受けて、うちでもオリジナルで馬具を作っていて、それをご提案させていただいて、使っていただいたところ、改善されたということでした。

[西]ちなみにどんな製品なんですか?

[宇]チフニーを改良して、上の部分にワイヤーを入れてあるんです。馬は耳の後ろにツボがあるんですけど、馬が立ち上がろうとするときに、そのツボに圧がかかるようにするんです。ツボを押されて、痛みを感じますので、馬も立ち上がろうとするのをやめるようになります。

[西]馬も学習しますからね。でも、効果があるわけですから、それは有効な手段のひとつですよね。

[宇]やはり、相談を受けた以上は、うちとしても何とかしたいんです。できないです、とは言いたくありませんから。

[西]僕自身も、いろいろと相談して、同じようなやり取りをさせていただいています。その時も見事に対応していただきました。

[宇]何とかしたいと思っても、技術的な基本ができていないと、どうすることもできないんですよね。いろいろな馬具の元となるものはありますけど、技術的な基本がなければ応用はできません。

[西]馬具屋さんというのは、輸入した製品を売るという側面もあるのでしょうが、ものづくりという側面もまた大きいですよね。

[宇]馬は人間と一緒で千差万別ですので、この馬には効果があったけど、別の馬には効果がなかったということはあります。ですから、こちらからご提案をさせていただいたお客様には、必ず使用した反応を伺っています。その意見をまたフィードバックすることで、より良いモノを作っていくことができると思いますし、そうしていくことが私たちの財産になっていくと思っています。

[西]チフニーの改良版もそうやって生まれたということですよね。そういえば、リップチェーン(※馬の口にチェーンを通し、馬の意識を口に向けてイレ込みを抑制する馬具。下写真)も作っているんですか?



[宇]そうです。

[西]あれはどうやってというか、どのように使われるようになったんですかね。

[宇]最初は輸入されてきたものだと思います。海外に行かれていた先生方から、リップチェーンやガムチェーンはあるかというリクエストがあって、それを受けて作る、という感じだったように思います。その後、海外から輸入したモノを、こうした方が使いやすい、というように改良していって、オリジナルを作り出すこともあります。

[西]そう考えると、ツボの話じゃありませんけど、馬についてもいろいろ勉強されているということですよね。

[宇]先ほどの話だと、スタビライザーという馬具があるんですけど、その構造と効果を考察すると、耳の後ろにツボがあるということがわかったんです。馬が立ち上がる動作を考えると、それをチフニーと組み合わせた方が良いと思って、作ってみたんです。

[西]話を伺っていて感じるのは、かなり細かい作業が多くないですか?

[宇]そうですね。技術が求められるのは、だからというところもあると思います。

[西]本当に大変だなぁと思います。

※次回へ続く

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