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【対談・田辺裕信騎手③】馬の世話も、やり過ぎは良くないのかも
2018.2.7
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田辺裕信騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]

[田]馬の話をしちゃってるよ。違う話をしましょう。

[西]いや、もう少ししましょうよ(笑)。私的に、2017年の田辺さんに関して聞きたいのは、有馬記念天皇賞・秋と、ロゴタイプ安田記念です。

[田]勝てれば良かったんですけどね。

[西]決まったと思いましたか?

[田]決まったと思いましたよ。

[西]ですよね。あと少しなんだけど、馬って本当に人間の思い通りにいかないものですね。だから面白いんだろうけど。

[田]そういえば最近感じることなんですけど、乗り手だけではなくて、世話をするときも、やり過ぎは良くないのかなぁと思うことがあるんですよね。

[西]最近、それは本当に思う。

[田]夜も明けないうちから世話をして、調教が終わったかと思ったら、いまの時期ならば3時間しないうちに午後作業が始まる感じじゃないですか。馬もリラックスできないんじゃないかと思うんです。調教時間は別ですけど、それ以外は逆に構わないであげた方が良かったりするんじゃないですかね。

[西]普段はそうだと個人的には思うんですよ。尾関厩舎には助手枠というのがあるんです。

[田]尾関厩舎だけじゃないですよ。最近、増えてきています。

[西]簡単に言うと、助手が世話を担当している馬のことです。ブッチャけてしまいますけど、助手枠は専属で世話をしている厩務員さんより、どうしても手をかける時間が少なくなります。でも、厩務員さんが担当の時に飼い葉食いが細かった馬が、助手枠になった途端に食べ始めることがあるんですよ。

[田]そもそも馬は野生の動物ですから、必要以上に人間が手をかけることが逆にストレスになってしまうこともあると思うんです。

[西]本当にそう思います。もちろん、マイクロかけたり、マッサージをしたりする時間も大事だと思いますし、それをすることで高いパフォーマンスを発揮できる馬がいるのも事実です。でも、逆の場合もあるんですよ。

[田]難しいですよね。まさか、もっと仕事をするなというのもおかしいですし、やり過ぎても良くない部分もありますからね。ただ、馬も僕たち騎手も同じアスリートだとすると、何より疲労に対して効果があるのは睡眠のはずなんですよ。

[西]それは馬に対しても同じだと思います。構わないことで、回復をはかるということですよね。

[田]例えば競馬の後、月曜日に休んで火曜日から普通に乗ると決めつけないで、疲れていたら2日でも3日でも休ませてあげて良いと思うんです。それを見分けるのが世話をしている人と、普段乗っている人だと思うんです。

[西]実際は、全部の馬に対して同じような感覚で接している厩舎が多いのが現実でしょうね。ただ、そうする楽さというか、手堅さがあるのもわかるんですよ。

[田]手堅さね。

[西]本質的には田辺さんが言うように、それぞれの馬に合わせるべきというか、そうする方が良いはずなんですけど、単純に確率的な側面で同じようにやっておくことで、どの馬かは勝つという感じなんですよ。飼い葉を厩務員さんが量るのではなくて、僕みたいな助手がフィードマンとしてやるのも、そういう表れだと思います。

[田]飼い葉について、それはそれで良いと思います。情が入らないのは良いと思います。

[西]昔は、ある厩舎で絞るために連闘したら馬体重が増えていたことがあって、調教師が厩務員さんに確認すると『かわいそうだから』と増やしていたということがあったらしいんです。そういうことはまずなくなりますよね。

[田]ただ、個人的にはダート1200を走る馬と、芝2500を走る馬が同じ調教をしているのはどうかとは思います(笑)。

[西]はははは。それはそう思う。ボルトとマラソン選手ではトレーニング方法が違うはずですからね。食事にしても本当はそうだと思います。人間がそうであるように、馬にも好き嫌いがあります。

[田]同じ物を食べても、太る人もいれば太らない人もいますし、トレーニングしても効果が出やすい人もいれば、そうじゃない人もいます。僕たちがただひたすら筋トレをすれば良いかと言えば、決してそうではありません。むしろ筋肉がつき過ぎて逆に良くなかったりするわけです。

[西]筋トレしているんですか?

[田]体幹トレーニングですね。あとは心拍数を上げるようなトレーニングをトレーナーとしています。

[西]えっ、トレーナーがいるの?

[田]もう3年くらいになります。腰痛になったときに、ウチの先生(小西師)から、毎日調教に乗らなくて良いと言われて、その分毎週トレーニングをしています。

[西]そうだったんだ。腰はどう?

[田]調子良いですよ。

[西]あまり言わなかったですけど、田辺といえば腰痛というイメージがあるんですよ。

[田]それまでも、競馬の翌日、交流レースに出走する馬の追い切りに乗ることもあったんですけど、疲労が蓄積した状態なのに乗らなければならないんです。でも、先生が自分の体と相談しながら予定を決めなさいと言ってくれたんです。

[西]小西先生は凄いよね。小西厩舎の攻め馬を見ていると、いい塩梅だなぁと思うんです。

[田]騎手もいっぱい手伝っていますし、自分としても先生には何でも言いやすいということはあります。以前、ゲート練習は必要最低限しかしませんでした。すると、馬がゲートでうるさくなっていて、その話を先生にしたんです。調教が良くても、ゲートが悪いと力を発揮できずに終わってしまう可能性が高くなりますから。その話をしてから、毎週全頭ゲート練習に行くようになったんですよ。



[西]水曜日、よく会います。

[田]やり方そのものが良いかどうかはわかりませんけど、練習に行くようになったことは良いと思います。

[西]個人的には、あの小西厩舎のやり過ぎない感じというか、どこか緩さがあるのが良いと思うんですよ。

[田]ゲートで言えば、おらっ、入れ!じゃなくて、ホラホラホラホラ、さあ入るよという感じで、海外チックでしょ?

[西]ダメならダメで無理をしないような感じで、馬に対してのストレスも少ないようなんですよね。

[田]ゲートは流れですから。ゲートに対して馬自身がストレスを感じてしまわないようにした方が良いと思います。

[西]ゲートは流れ、ですね(笑)。

[田]流れですよ(笑)。

[西]今度、ゲート裏で引いているときに、田辺さんに「ゲートは?」と聞きますから、よろしくお願いします(笑)。

[田]流れですよ、流れ(笑)。でも、ゲート部長だからわかりますよね。

[西]わかります。小西厩舎は本当に超いい塩梅なんですよ。放っておくと、やり過ぎてしまいがちですから。

[田]入らない、出ないということになれば、人間は懸命に頑張ります。でも、それは馬にとってストレスになっているわけですよ。散歩の途中にゲートがあるような感覚でいいんじゃないかと思うんです。そんな気分でゲートに行った気になってくれれば、そこまで嫌悪感を持つことはないと思うんです。

[西]小西厩舎は、頑張ってやるぞ感のない面々がまた良いんですよ(笑)。

[田]そこですよ。でも、そういう流れでゲートは本当に良くなりましたからね。

[西]実は2、3年前の対談でも、ゲート練習が大事だという話をしているんですよ。

[田]ゲート練習は、追い切りと同じくらい大事ですから。

[西]ゲートマニアとして、いろいろ経験させていただいていますけど、確かに追い切りと同じように大切だと思います。

[田]入らないならば、その日は引き返すこともありだと思います。先に入らない馬がいて、バシバシバシバシ叩かれているのを目の前で見て、後で自分もやられるんだと思わせるのも決して良くありません。その日は止めて帰った方が良いはずなんです。

[西]実は、そういう日が馬にもあるんですよ。少しは頑張ってもいいけど、嫌悪感を持つまでは止めるべきだと思うんです。極論ですけど、ゲートまで行って、馬の反応を見てみないと、どこまでやれるかわかりません。入れて出して、そしてまた出そうとかいろいろ指示が出るんですけど、馬自身のその日の許容範囲は、ゲートまで行ってみないとわからないんです。

[田]その日によって、雰囲気が違うことなんて珍しくないですからね。あれ、どこの厩舎だったかなぁ。厩務員さんも中に入って駐立させて、はい、もういいよと言われました。厩務員さんに入ったら出ていいよ、って言うと、先生に付いていけと言われているので、と言うんですよ。実際の競馬では、駐立のときに厩務員さんが中にいることはありません。え?となりますよ。

[西]それは本当に思う。

[田]厩務員さんが付いたままゲートが開かれることはあり得ませんからね。

[西]突き詰めていくと、本当にそういう部分だったりするんですよ。ウチは先生が話を聞いてくれるから良いですけど、現場ではそういう声が多いです。

[田]同じような話で、我々騎手は馬場入場の時に、なるべくゴール板を常歩で通過するように、とJRAから言われているんです。でも、そんなことをそもそも調教でやっていないんです。調教でできないことをレース直前にやれと言われても、なかなかできるものではないですよ。

[西]そりゃ、そうだよね。

[田]調教よりもレースの方が馬のテンションが高いわけですからね。乗っている方もアブミを短くして乗っていますので、横に動かれたら落ちてしまうわけですよ。それなのに、調教でやっていないことをレースでやるように言われても困ります。

[西]ゲート試験だけじゃなくて、常歩でゴール板を通過する試験もやらなくちゃならないの? それは嫌だ。“おい、信人。常歩試験受けるぞ”って(笑)。

[田]常歩で通過させるルールになれば、それはするようになります。でも、常歩通過をさせようとしたために、人間が落馬、あるいは馬が転倒してしまったとしたら、どうするんでしょうかね。

[西]競馬という目的からかけ離れてしまうことになりますよね。中山だとそうなんですが、内馬場から右に出て、すぐ返し馬に行くのはどうなんですか?

[田]申告しておけば良いと思いますよ。少なくとも、騎手が言われるべき話ではないはずです。いまは常歩通過しないと、後で“もう少し常歩通過できるようにしてください”と言われるだけなんですけど、最近は先出しすると、なるべく順番通りに、と言われますよね。あれはどうかと思います。

[西]最近、言われますね。厩舎装鞍もそうですよ。

[田]調教師は、はいわかりました、で良いかもしれませんけど、騎手の立場だと、本当にヤバいから先出ししたい馬もいるんです。

[西]ファンの皆さんもご存知だとは思いますが、牝馬の後ろに馬っ気の強い馬がいる場合などは、事故を未然に防ぐために、順番を入れ替えたりするんです。でも、それさえも言われるらしいですから。種付けしてしまったらどうするんですかね(笑)。



[田]受胎してしまったりしてね(笑)。でも、本来はみんな事故を防ぐためにやっているわけですよ。もちろん、JRAが言いたいこともわかります。先出し、歩く順番を替える、そして厩舎装鞍と、頻繁にする厩舎もあるから、そういう場合は指摘するべきだと思いますよ。でも、本当に危険を回避したいためにやっている場合もあるわけで、そこは分けて考えてもらいたいんです。

[西]わかります。

[田]本当に危ない馬で、先出しにして欲しいと言っているのに、調教師がJRAに言われたくないからしなかった、そんなことが続いたら、そのうち大きな事故が起こってしまうと思います。

[西]いや、冗談抜きでそうだからね。

[田]装鞍なんて、どれだけ事故が起きているんですか、ということですよ。

[西]日吉先生の事故も装鞍でしたからね。厩舎装鞍だと大丈夫だったりするんですよ。

[田]あとゲートもそう。なかなか入れない厩舎もありますからね。先に奇数馬番が入れなきゃいけないのに、奇数でもなかなか入れようとしない。あれはフェアじゃないと思いますし、そういうところこそ指摘するべきだと思うんです。

[西]厩務員さんがゲートまで引っ張っていくから、そういうことが起こるわけですよ。

[田]そういうことが多い場合は、厩務員さんが引っ張るのはダメというようにするとか、するべきだと思うんですよ。ただ、本当に危険な場合もありますので、そこはしっかりと分けてほしい。それで怪我をしたときはどうしてくれるんですか、ということになりますよ。騎手だけでなく、厩務員さん、そして馬も怪我をする可能性があるわけです。危ないと申し出ているのにも関わらず、JRAに控えるようにと言われたために、出せなくて事故が起こったときには、JRAの責任となり得る話でしょう。馬は機械じゃないですから。

[西]いや、わかりますよ。常歩通過は海外もやっていると言われますけど、あちらはポニーが付いていたりしますからね。

[田]この前、それならば常歩じゃなくて、誘導馬にダク(速歩)で行ってもらったらいいんじゃないかという話になったんです。ダクで付いて行く方がまだ安心ですからね。

[西]そうだよね。常歩はゼロから突発的な動きになりますけど、ダクならばまだ対応できますからね。

(※次回へ続く)

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