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調教に近道はない。次郎さんにもそのことを教えてもらいました
2010.1.14

開幕週となった先週に、さっそく2勝を挙げることができて喜んでいました。さらに3勝目と思っていて、よし勝ったと思いかけた時に、各メディアで報道されたように9頭の落馬事故の原因として失格処分となってしまいました。

内田(博幸)さんの骨折をはじめ、騎手の方々がケガをしてしまったのですが、人命に関わるような事態を避けられたことは不幸中の幸いだったと思っています。

競馬の後に、何人かの騎手の方々と話をしたのですが、『タイミングとしか言いようがない』、『仕方がないとしか言えない』という反応でした。

ただ、携わっている自分たちとしては、たとえできることがないとしても、考えなければいけない部分というのはあるはずで、これからも気を引き締めて、できる限りのことを精一杯頑張っていきたいと思います。

それでは、(小野)次郎さんとの対談をお送りします。今回が最終回になります。どうぞ。

[西塚信人調教助手(以下、西)](ユキノサンロイヤルとのコンビでは、重賞勝ちという)結果として形となったわけですから、それは嬉しいですよね。

[小野次郎騎手(以下、小)]下見所での(増沢末夫)先生のコメントは、『いいや、好きに乗ってこいや』だった(笑)。そんな時こそ、逆に勝ったりするんだよ。

[西]そうかもしれませんね。あとは、タイキダイヤとのコンビでクリスタルC(99年)を勝っていますよね。

[小]前走の500万円下を勝った時が強い勝ち方だったから、勝つとは言わないけど、重賞でも良い勝負になるとは思っていた。

[西]クリスタルCでも、ハイペースの中を2番手で追走して、勝っていますよね。

[小]そうだったね。でも、短距離のハイペースというのは、意外と関係がないという感覚がある。スピードが足りない馬というか、手綱を押しながら2頭以上で競り合うというケースは別にして、手綱を持ったままで行けてしまう馬というのは、絶対的なスピード値が高いゆえのことで、決してオーバーペース云々ではないと思う。基本的には、短距離というのはあくまでスピード比べで、持ったままで、ハミをくわえることもなく、馬なりで行ける馬なら、それが自分のペースではなく、スピードということなんだろうね。

[西]なるほど。実際に乗っていて、終わってみると時計は速いのに、乗っていてはそう感じないということってありますか?

[小]走る馬に乗っている時というのは、不思議なもので速く感じないんだよ。でも逆に、ハッキリ言うと、走らない馬に乗っている時というのは、どんなスローペースでも速く感じるよ。あっ、当たり前か(笑)。

[西]それはそうですよ(笑)。

[小]よく馬が騎手を育てるという言い方をされるけど、強い馬に乗ること、そして勝つことって、騎手にとって本当に大切なことなんですよ。競馬に乗って勝つという感覚が薄れていくもの。最近、僕も勝ち鞍が減ってきていますが、忘れかけてしまいそうになりますから。

[西]そういうものですか。

[小]そういうものだよ。やっぱり、走る馬に乗って、それこそヘグりながらでも勝っていないと、感覚を忘れていってしまう。

[西]騎手にとって、走る馬に乗ることは大切なんですね。

[小]先ほどの話ではないけど、例えば小野次郎は中山で逃げ・先行で好成績を残しているというように、自分の意識には関係なく成績として出てくるわけですよ。自分の好きな競馬場とかとは関係なく。でも、我々はあくまで馬がいて、その馬に負う部分というのが大きい。とにかく「馬がいて」ということですよ。


[西]言われると、そういう感覚はありますよね。

[小]おそらく、騎手の人たちの中で、データとして上がってくる成績と、自分自身の得意という意識が一致する人は、限りなく少ないと思う。

[西]なるほど。でも、中舘さんは逃げが好きかもしれませんよね(笑)。

[小]それはあり得るかもね(笑)。

[西]ただ、あくまで馬に乗って競走をするわけですから、すべてが騎手の思い通りにいくことではないということですよね。

[小]馬も生きていますし、必ずしもデータと騎手の意識が合致するということではないのです。読者の方からのメールにあったように、(武)豊さんが乗ってダメで、僕が乗って2~3着に来るというケースについても、たまたま相手が強かったり、あるいは具合が悪かったりということだったかもしれないわけですよ。でも僕が乗った時には、具合が良くて、メンバーにも恵まれたということかもしれない。特に意識しているわけではないですが、これからは『豊さんの凡走の次だから、これはチャンスだ』と意識にして乗るようにしますと、メールを送ってくれた方に伝えておいてよ(笑)。

[西]大丈夫です、これも読んでくれているでしょうから(笑)。話は変わりますが、次郎さんはなんで騎手になろうと思ったのですか?

[小]父親が厩務員だったんですよね。

[西]厩舎とかにはよく行きましたか?

[小]行ったね。もう時効だと思うけど、馬の背中に跨らせてもらったりもした。

[西]昔はそういう光景ってありましたよね。

[小]あったね。

[西]あっ、そうだ、次郎さんは、小学校、中学校と僕の先輩なんですよ。

[小]そうなんだ。

[西]そうですよ。次郎さんの競馬学校での同期って誰ですか? (田中)勝春さんはそうですよね?

[小]勝っちゃんとは、入学は同期だね。関東では、明(高橋元騎手)、亡くなった久(水流添元騎手)かな。

[西]関西は?

[小]角田、(佐藤)哲、(山田)泰誠、小池、辞めてしまって皮職人として活躍しているという佐伯だね。佐伯は競馬学校の時から器用だった。

[西]凄く人材の宝庫じゃないですか。

[小]そうかなぁ。

[西]いやぁ、そうですよ。その中でも、メールにも書かれていたように、『いぶし銀』と言われませんか?

[小]ない、ない(笑)。そんなに格好良くないですから。ところで、ノブリンコ、いぶし銀の意味とは?

[西]え~っと……辞書を引きますと、「表面で派手さはないが、実力、実質が伴っていること」とあります。簡単に言うと、職人ということじゃないですか。

[小]「職人」って良い響きだね。良い職人になりたいなぁ。

[西]次郎さんと一緒に仕事をさせてもらっている僕としては、職人感は満点だと思いますよ。

[小]ありがとうございます。信人様にそう言っていただけると、嬉しいですよ(笑)。

[西]いや、本当ですよ。(馬が)ゲートに入らない時には、まず次郎さんに手順の確認を取らせていただくのですが、それで入るようになりますからね。僕にはできないことというのが当然あって、それでいろいろと聞きますよね。あと、自分にとって楽な方を選んでしまうということが、ブッチャけあるわけですよ。

[小]偉そうに言うわけじゃないけど、それはダメだね。それはやっちゃいけない。

[西]そうなんですよねぇ。分かってはいるのですが、ついつい逃げてしまうことがあるのですよ。でも、次郎さんの言葉を理解して事に当たらないと、意味がないですからね。

[小]そんな大層なことじゃない。ただ、ゲート云々の前に、まず基本は入厩してきて最初にやるべきことは、脚(足)に反応できるかどうか、ということを確認することでしょう。

[西]乗り手の脚(足)による指示に、反応できるかどうかということですよね。

[小]そう。それがゲートに入らない、あるいは入りが悪い馬というのは、ゲートに対する嫌悪感ばかりでなく、人間との約束事である扶助に反応できないという理由だったりもするからね。

[西]そうなんですよ。

[小]反応できない状態でゲートへ行くと、ただでさえ怖いのに、上の指示も分からないからパニックになってしまうわけですよ。普段から、脚(足)を使って指示を出すということを繰り返しておかなければならないとダメだと思うし、ゲートに行く前の段階で、扶助にキッチリと反応できるように調教しておかなければならないよね。こちらの指示である扶助に対して、反応することができたら愛撫。そうしたら、また最初からやって、それを繰り返しながら、徐々に軽い扶助で反応できるようにしていく。やがて、人間との約束事である扶助を理解できるようになると、多少怖くても、人間を信用して、勇気を持って、前へ出るようになる。そこが、すべての基本。

[西]そうですよね。ゲートばかりじゃなくて、馬場に入るにもそうですからね。

[小]特に新馬は、まだその馬の性格などが分かっていないわけだから、段階を踏んでやっていった方がより良いだろうね。あとは、時間がある時には、バックさせるなど、指示を理解させることは、思うよりも大事なことですよ。調教って、地味だし、何回も繰り返さなければならない。でも、調教でできないことは、実戦ではできないから。何よりも基本が大切で、そこには近道はないんじゃないかな。

[西]本当に、そう思います。いやぁ、貴重なお話をありがとうございました。もっとお話を聞きたいのですが、明日の攻め馬もありますので、また今度ということで。今度はお酒を飲みながらお願いします。

[小]ちょっと考えさせてもらうよ(笑)。

[西]ええ~、そんなことを言わずに、よろしくお願いします。

[小]分かりました(笑)。

いかがでしたでしょうか。お酒を飲みながら、というシチュエーションが多いのですが、今回はお酒は後にして「シラフ対談」となりました。逆に真面目にできたのではないかという感触を持っていて、僕自身は普段とはまた違った小野次郎さんを見られたと思っています。

次郎さんという騎手は、生意気な言い方をさせていただきますと、競馬に乗ってもらうだけではもったいないですね。一緒に仕事をしていく中でこそ、その真骨頂を見ることができる。そう、職人なんだと思います。

今度は、ぜひお酒を飲みながら、またさらに違った次郎さんをお見せできればと、再度の登場をお願いしました。

さて、来週からは、予告通り獣医さんということで、美浦トレーニングセンター内にある松永和則診療所所属の山嵜将彦獣医師との対談がスタートします。お楽しみに!

ということで、最後は今年もいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。