独自視点で穴馬推奨!競馬予想支援情報【サラブレモバイル】

サラブレモバイル

メニュー

ログイン

速攻レースインプレッション

陣営の努力が最高の形で花開いた

文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


競馬記者になった05年秋、菊花賞で無敗の3冠馬に輝いたディープインパクト競馬ファンの熱い視線を一身に集めていた。

その後、歴史に残る名勝負を何度も演じたウオッカダイワスカーレット、破天荒と言われながらも牡馬3冠をつかんだオルフェーヴル、名牝と呼ばれたブエナビスタジェンティルドンナ、そして北島三郎オーナーの夢を叶えたG1・7勝馬のキタサンブラック…。幸運にも歴史を作ってきた名馬たちの背中を間近で追いかけ、色々と記事にしてきた。

しかし、競馬記者になってから13年半ほどが経とうとしているが、これほど一人の「騎手」に注目が集まったレースは記憶にない。もちろん、JRAのG1で女性初騎乗となった藤田菜七子騎手のことである。根岸Sのレース後にドクターコパこと小林祥晃オーナーコパノキッキング菜七子騎手とのコンビを発表してから、狂騒曲が始まった。

キャンター騎乗で栗東へやって来た8日は追い切りがほとんどない金曜日だというのにテレビカメラが殺到。14日(木)の共同会見には本来、静かな冬の小倉に取材陣が詰めかけた。その一挙手一投足に熱い視線が注がれる中、世間からの注目度も日増しにアップ。個人的には競馬にまったく興味のないはずの友人の数人から「菜七子ちゃんはいつ走るんだ?」と連絡が入ったことに、驚かされたりもした。

いつもとは違う緊張感に包まれた中での大一番。勝ったのは武豊騎手の騎乗したインティだった。昔からあらゆる分野でスター選手は舞台が大きければ大きいほど、注目を集めれば集めるほど、一段と輝きを放つと言う。今日もレース後に待っていたのは、競馬界が誇る第一人者の笑顔だった。

初の芝スタートでもスッとハナを切ると、サンライズソアサクセスエナジーと競り合いに持ち込ませず、前半3ハロンは35秒8。巧みに過去10年でもっとも遅いラップに落とした。直線ではG1・4勝馬のゴールドドリームが必死に追撃したが、まだ余力は残っている。抜かせない。後続を4馬身突き放したマッチレースをクビ差しのぎ、ゴール板に飛び込んだ。完全にレースを「支配」した武豊騎手の手綱さばきが、光った一戦と言える。

インティはすでに5歳馬だが、今回がまだ8戦目。デビュー当初はつなぎが柔らかすぎ、後肢の球節が地面につくぐらい緩い馬だった。追い切りに騎乗した人間の多くが「何で走るか分からない」と口にしていたほどで、デビューから数戦はレースを走るたびに落鉄した状態で戻ってきた。

しかし、野中調教師は焦らなかった。3歳春のデビューから使っては間隔を空けるローテを繰り返し、じっくりと成長を促しながら、土台を固めてきた。初勝利から前走の東海Sまで常に後続を突き放す圧倒劇を演じ、G1の大舞台でも勢いは止まることなし。「厩舎としてはかなり苦労してきた。そんな馬で夢を見られれば」と語っていた野中調教師を始めとする陣営の努力が最高の形で花開いた。

さて、菜七子騎手である。コパノキッキングは結果的に武豊騎手の作り上げた絶妙なペースにはまってしまったと言える。序盤でスッと位置を下げ、道中は最後方から折り合いに専念しての追走。直線では後方から大外へ持ち出すと、後方待機勢ではもっとも勢いある伸び脚を繰り出し、⑤着まで差を詰めたものの、勝ち負けに加わることはできなかった。

ただ、これだけ注目を集める中で腹をくくって、最後方からの末脚勝負に徹することができたあたりに「芯」の強さを感じた。このレースを前に色々な関係者に菜七子騎手の印象を聞いたが、多くの人間が口をそろえて「ここ最近で本当にうまくなった」と口にしていた。

最初はどうしても、女性というフィルターを通して見てしまうからだろうか。デビュー当初は追う動作などに頼りなさを感じてしまっていたが、今は体の軸がぶれることのない、しっかりとしたフォームだ。話題先行だと思われたくないという、彼女の強い気持ちが飛躍的な成長を生んでいるのではないだろうか。

当然、このレースで多く残ったのは悔しさだろう。ただ、それを糧にできる強さも持ち合わせているはず。さらに大きくなった姿で、G1の大舞台に戻ってくる日を楽しみに待ちたい。


TOPページに戻る