速攻レースインプレッション
復活劇が当たり前に起こる、それが有馬記念
文/出川 塁、写真/瀬戸口 翔

近年のトップホースは春秋の1シーズンに2走のローテーションが多い。アーモンドアイやイクイノックスは、天皇賞・秋とジャパンCを連勝し、そこで現役を退いた。競走馬のレベルが高くなり、究極まで仕上げなければG1で勝負にならず、1走ごとに激しく消耗する現代競馬において、これは仕方のないことなのだと考えている。
なのにドウデュースは、天皇賞・秋を驚異の末脚で、ジャパンCを東京ではご法度とされるマクリでそれぞれ制すと、すぐさま有馬記念への参戦を表明した。秋の古馬三冠を完走するだけでも大変な時代に、2年連続で出てきてくれる。そんな馬を好きにならないわけがない。
だが、レース2日前の金曜。あまりにも残念な一報が流れた。右前肢跛行によりドウデュースが出走取消。前日土曜には、武豊騎手が病気により土日の全騎乗が乗り替わりになることも発表された。あと1回、勝っても負けてもドウデュースと武豊騎手の走りが見たかった。
というのが率直な気持ちではあるのだが、今年のグランプリが面白くなかったといえば、そんなことはない。面白い。そうでなければ、すごく面白い。そのどちらかしかないのが有馬記念というレースである。
1番人気が予想されたドウデュースに代わり、金曜売りの段階から単勝人気順のいちばん上にいたのがアーバンシックである。G1初制覇の菊花賞から中8週。鞍上は昨年の有馬記念で大外16番枠から好騎乗を見せたルメール騎手。調教内容もよく、インの3番枠を引き当て、不安らしい不安は見当たらなかった。
ところが、ゲートが開くとダッシュがつかず、痛恨の立ち遅れを喫してしまった。すぐに盛り返して中団につけても、余計な脚を使わされたことは否めず、最後の直線で伸びを欠いて⑥着に敗れた。結果論になるが、有馬記念が秋3走目。シーズン2走が主流となった現在のG1戦線において、連続好走したあとの3走目は想像以上に難しいレースなのかもしれない。
続く2番人気に推されたのも菊花賞組のダノンデサイルだった。勝負どころで動くに動けなかった前走とは違い、1番枠からハナに立ってしまえば道中で不利を受けることはない。横山典弘騎手らしい作戦で、これが見たかったというファンも多かったことだろう。
ただ、有馬記念当日の中山は強い風が吹いていた。ホームストレッチが向かい風で、馬群の先頭を走る馬は逆風をモロに受けて急坂を2回通過することになる。逃げ馬には不利な風だ。ダノンデサイルと横山典騎手はスローの流れに持ち込み、直線でもよく粘ったが、坂を上ったところで2頭にかわされてしまった。それでも終始2番手のベラジオオペラを最後まで抑えて③着に入り、ダービー馬の意地を見せた。
ダービー馬の意地を見せたのは3歳先輩のシャフリヤールも同様だ。しかし、ハナ差で大魚をのがしたとなると、16番枠スタートを恨みたくもなってしまうかもしれない。この馬の戦績を振り返ると、2023年、2024年とドバイSC→札幌記念→BCターフ→有馬記念と同じレースを4走している。そのうち3走で今年のほうが上の着順を収め、もう1走のBCターフは2年連続3着だった。6歳になって5歳を完全に上回る結果を収めており、これは結構な快挙だと思う。
そして、レガレイラである。3歳になってからは不完全燃焼のレースが続いたが、その末脚はまったく錆びついていなかった。いつもと違ってスタートから無理なく5番手につけ、前から2列目、内から2頭目、外にも馬がいる位置を追走した。強い風が吹くスローの展開では、これ以上ないポジショニングだろう。
苦労しがちだった3~4コーナーのさばきも完璧で、同じ勝負服のシャフリヤールと一緒に脚を伸ばしてクライマックスへ。最後はテン乗りとなった戸崎圭太騎手の鞭に応えて、大仕事をやってのけた。
同血の近親アーバンシックと同じ秋3走目でも、こちらは前2走が馬券圏外。昨年のドウデュースも同じで、現代競馬で秋3走目を狙うならこのパターンか。いや、1990年のオグリキャップや1998年のグラスワンダーもそうだから、むしろ定番というべきか。復活劇が当たり前に起こる有馬記念。そんなレースが面白くないわけがない。
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