速攻レースインプレッション
陣営の好判断、仕上げる力によって“本物の強さ”を見せた
文/木南 友輔(日刊スポーツ)、写真/瀬戸口 翔
昨年はタスティエーラとダミアン・レーン騎手のコンビが「テン乗りは勝てない」というジンクスを打ち破った。今年はどんなジンクスが破られ、格言が継続し、ドラマが生まれるのか。青葉賞組からダービー馬が出るのか、国枝師が悲願のダービー制覇を果たすのか、ビッグレッドファームのコスモキュランダが勝って加藤士津八調教師が父和宏師とのダービー制覇になるのか……、いろいろな結末をイメージしながら、多くのファンがゲートが開くのを待っていたと思う。
金曜朝に発表されたメイショウタバルの取消で、スローペースが予想される顔ぶれになった。ハナヘ行くのは、武豊騎手のシュガークンか、岩田康騎手のエコロヴァルツか。ゲートが開いて、ハナに立ったのは岩田康騎手。武豊騎手、横山典騎手(ダノンデサイル)が先行勢を形成し、コーナーでグッとペースが落ちた。
1000m通過は62秒2のスローペース。8Rの青嵐賞は64秒2という遅すぎる流れでルメール騎手(コスタレイ③着)が動いたが……。向正面の半ばでコスモキュランダのM・デムーロ騎手が位置を上げ、その後ろからサンライズアースの池添騎手が一気に動いた。ダービーを勝っている騎手たちは勝負に出てくるからさすがだ。結果的にルメール騎手とレガレイラは内に入ってしまい、最後の直線を向くまで外へ出せなかったことが痛恨だった。
無敗の皐月賞馬ジャスティンミラノは戸崎騎手がうまく落ち着かせて、勝負どころへ。一気にペースが上がったのが、3、4コーナー。逃げた馬の背後でロスなく、ずっと内を走ってきたのがダノンデサイル。最後の直線は逃げたエコロヴァルツの内から栗毛の馬体が抜けてきた。レースの上がり5ハロン(1000m)は56秒8。逃げた馬の背後にいた馬が勝利し、これだけの数字が出ているのだから、後方待機勢には厳しいレースだったし、勝った馬の強さは本物だ。
ダノンデサイルは皐月賞の発走前に競走除外になった馬。どの前哨戦を走ってきたのか、となると、1月の京成杯になる。京成杯以来の出走でダービー制覇というのは、とんでもない離れ業になる。競走除外からピークの状態に持ってきたことも含め、陣営の仕上げる力、安田翔師の判断を称賛したい。今年2月で調教師を引退した父隆行氏はトウカイテイオーでダービー制覇。見事な親子制覇になった。
過去10年で7勝を挙げるノーザンファームに大きく水をあけられていた老舗の社台ファームは、2010年のエイシンフラッシュ以来の勝利。母トップデサイルは17年にキーンランドのノベンバーセールで落札している馬。京成杯を勝った後にこの母馬のことを調べていたら、②着に好走した14年のBCジュベナイルフィリーズ(サンタアニタ)では米国の最強馬フライトラインの母フェザードや昨年のケンタッキーダービーを勝ったメイジの母プーカに先着していた。エピファネイアとの交配で誕生したダノンデサイルは父と母の能力をしっかり引き継いでいるのだろう。
日本馬は強くなり、世界中で大きなレースを勝つようになっている。それでも、輸入繁殖牝馬の子がダービー馬に輝いたことで、あらためて、日本の生産者の海外からの血の導入、血統改良の努力は続いていくに違いない。
先行馬、イン有利の展開で驚いたのが、③着に伸びてきたシンエンペラー。弥生賞や皐月賞に比べ、状態が上がっていたとはいえ、あの位置から伸びてきたのは驚きだった。この馬は矢作師がアルカナ社のセールで落札してきた馬。凱旋門賞馬ソットサスの全弟という血統ばかりクローズアップされるが、姉2頭は米国の芝路線で結果を出している馬。半姉マイシスターナットはラヴズオンリーユーが勝ったBCフィリー&メアターフの②着。レース後、登録を行っている凱旋門賞に遠征することが発表されているが、この左回りの走りを見ていると、BCターフに向かっても十分勝利を期待できる。矢作厩舎、藤田晋オーナーはフォーエバーヤングのケンタッキーダービー③着でも日本のファンを熱狂させた。勝つことはできなかったが、この日米ダービー③着も素晴らしい偉業だ。
記者個人としては…、もう何年もダービー当日の1面を書かせてもらっている。今年もパドックを見て、返し馬が終わって、ファンファーレを聞いて、ドキドキし、手から汗が吹き出てくるのを感じた。先週のオークス◎チェルヴィニアに続き、木村厩舎とルメール騎手の◎レガレイラに期待したが、結果は⑤着。スタートは決まったものの、位置を奪えず、直線で大外に出す距離ロスも響いた。ホープフルSを制し、皐月賞、ダービーと牡馬相手のクラシックに挑んだレガレイラ。一方で、昨夏に厩舎で聞いた「チェルヴィニアは厩舎史上最高の牝馬になるかもしれない」という言葉もあった。BコースからCコース替わり、今年の場合は大きくペースも違ったが、この世代もオークスの勝ちタイムがダービーの勝ちタイムを上回った。今年の牝馬がハイレベルだったことを実感している。
最後に、ダービー前日には3労組によるストライキが行われた。スト決行が決まった後、記者の携帯にはトレセン関係者からのさまざまな声が届いた。「厩舎の中で違う立場、意見の人が怒鳴り合いになって、もう最悪です」。そんな声もあった。労組側も調教師側も上に立っている人たちが、とことん話し合い、知恵を絞り、魅力的な競馬をこれからも続けていってほしい。ホースマンの夢…、来年もたくさんの夢を見られるダービーが無事に行われることを願っている。
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