速攻レースインプレッション
まだまだ見続けたい、上位2頭のライバル物語
文/編集部(T)、写真/小金井邦祥
前年のダービーを制した4歳馬がオールカマーに出走するのは実は珍しく、94年ウイニングチケットまで遡る。この年のオールカマーはまだG3での施行だったが、ナリタタイシンを含めて"BNW"と言われた三強の一角で、前年の菊花賞馬ビワハヤヒデも出走していた。
さらに出走8頭中、地方馬も3頭がエントリー。安藤勝己騎手のトミシノポルンガや、的場文男騎手が騎乗したハセカツトップもいて、オールカマーが本当の意味での"オールカマー"だった時代だ。
その結果は、ビワハヤヒデが勝利、ウイニングチケットは1馬身4分の3差の②着に敗れ、完敗を喫している。
ウイニングチケットのファンだった自分としては、「この完敗で、完全に勝負付けが済んでしまったかもなあ……」と、「まだまだダービーを勝った東京の天皇賞で、逆転はできるはず!」と、何やら複雑な気持ちになったことを覚えている。
前年の牡馬クラシック勝ち馬がオールカマーに2頭出走するのは、それ以来のこと。レイデオロはダービーでの完勝劇が光るが、右回りでの2戦(皐月賞、京都記念)ではいずれもアルアインに先着を許している。目標は先にあるとはいえ、昨年の神戸新聞杯からちょうど1年勝利から遠ざかっていて、ここで①着を獲っておきたいところ。
一方、アルアインも、勝利は皐月賞以来ご無沙汰。レイデオロとの比較で東京よりも中山の方が向くと思われていただけに、次に望みをつなぐ意味でも、ここは勝って本番に臨みたい。
そしてレースも、この2頭の一騎打ちとなった。マイネルミラノが作ったペースは、1000m通過が60秒5。昨年(63秒1)より速いが、そこまでオーバーペースでもない。
アルアインはこれを2番手で追走し、満を持して直線入口で悠々と直線へ。後続を突き放してこれは押し切りか……と思ったところで、馬群の中から進出し、直線で内からスルスルと差を詰めてきたレイデオロが襲いかかり、ゴール前でクビ差交わしたところがゴールだった。
広いコース向きで、トリッキーな中山だと取りこぼす危険性がありそう……というのが戦前のレイデオロ評だったが、それを覆して器用さと力強さを感じさせる勝利。ダービーを勝ち、ジャパンCでも②着に健闘した東京に戻るのはプラスと思われるだけに、次への展望が大きく開ける勝利だったといえそうだ。
一方のアルアイン。ウイニングチケットと同様に、ここで勝負付けが済んでしまったのか……。いやいや、今回も着差はわずかクビ差。レイデオロとの対戦成績も4戦して2回先着ということで、五分に戻ったという見方もできる。
ちなみに、冒頭で触れたビワハヤヒデ、ウイニングチケットはどちらも次走の天皇賞・秋で故障もあって馬券圏外に敗れ、引退することになる。このライバル関係は突然終わってしまったが、レイデオロ、アルアインの物語は、まだまだ見つづけたいものだ。
その天皇賞・秋は、この日神戸新聞杯を制したワグネリアンも参戦を表明し、さらにスワーヴリチャード、サングレーザー、ミッキーロケット、マカヒキなども出走を予定しているとのこと。王者キタサンブラックは引退したが、それだけに混戦で、楽しみなレースになりそう。
ちなみに、前走でオールカマーを使った馬の天皇賞・秋制覇は、オールカマーが芝2200mでの施行となった84年以降一度もない。レイデオロ、アルアインなどにとっては嫌なジンクスだが、94年にビワハヤヒデ、ウイニングチケットができなかったことを、今年のメンバーがやってくれることを期待したい。