速攻レースインプレッション
思わぬハイペースで、期待以上の好勝負に
文/編集部(T)、写真/小金井邦祥
今年の出走馬は11頭で、これは00年以降の府中牝馬Sとしては02、03年と並んで最も少ない頭数に。アエロリットは前週の毎日王冠に回ったが、それでも昨年の秋華賞馬ディアドラ、同②着馬リスグラシュー、前走のクイーンS③着で復活の兆しを見せたソウルスターリング、さらに今年のヴィクトリアマイル勝ち馬ジュールポレールが参戦し、濃いメンバーが揃った。
昨年このレースを勝ったクロコスミアは前半1000mを61秒9というペースに落とし、ヴィブロス、アドマイヤリードといった差し追い込みの人気馬を振り切っている。特に1番人気を集めたディアドラ、2番人気リスグラシューはいずれも差し馬で、開催2週目の馬場でその点がどう出るかがポイントになった。
クロコスミアは今年も出走していて、しかも最内の絶好枠に入った。この馬が行くようだとペースが落ち着きそうだが……と思っていたら、いざ蓋を開けてみると、クロコスミアは序盤でハナに立ちかけたが、外からカワキタエンカが行く構えを見せると抑えて2番手へ。結局、カワキタエンカが大逃げを打つ形になる。
クロコスミア、ソウルスターリングなどの先行馬が口を割って行きたがるような感じだったので、ペースが遅いのかと思ったら、実際は前半1000mが58秒2というハイペース。2番手以降はそこまで速くはなかっただろうが、正直なところ、道中の通過タイム表示を見て目を疑ったと同時に、"見えてなさ"に恥ずかしくなった(笑)。
それでもカワキタエンカは大きくリードして直線に入り、後続を振り切りにかかったが、残り200mで失速気味に。代わってリスグラシューとフロンテアクイーンが併せ馬の形で先頭に立ったところを、大外からディアドラが交わしてゴールに飛び込んだ。
11頭立てということでスローペースの凡戦になるのでは、と危惧していたが、カワキタエンカが果敢に逃げたことで締まったペースになった……と、ここまで書いて思い出したのがちょうど1年前、昨年の秋華賞だ。
昨年の秋華賞は18頭立てだったが、カワキタエンカが逃げたことで前半1000m59秒1という締まったペースになり、先に進出していたリスグラシューをディアドラが差し切っている。
この秋華賞も、今回の府中牝馬Sも、カワキタエンカが出走していなかったらディアドラが差し切れたかどうか。いずれにしても、今回の好勝負を演出したカワキタエンカには、個人的に"助演女優賞"を差し上げたいと思います。
ディアドラのレースぶりを改めて見直してみると、序盤はリスグラシューを前に見ながら後方待機。リスグラシューがポジションを上げるに連れて進出し、ノーステッキのままで前との差を詰める。残り200mを切ってリスグラシューの外に持ち出されたところでようやくルメール騎手のムチが入り、そこから一気に伸びて差し切った。
完全にリスグラシューただ1頭をライバルと見定めて、これを徹底マークするレースぶり。ルメール騎手に限らず、外国人騎手は人気的に2強ムードで人気馬の一方に乗った時にこういうレースをすることがあるが、今回はそれがピッタリはまったということなのだろう。
この勝利で、ディアドラ自身は芝1800~2000mで[6.0.1.0]とした。唯一の敗戦が今年のドバイターフ③着だから、国内では6戦6勝だ。今後は暮れの香港C(シャティン芝2000m)を最大目標にすると伝えられているが、同じ東京で行われる天皇賞・秋(登録予定とのこと)でのレースぶりも見てみたくなる。
どこに出るにしても、できればカワキタエンカが出走してほしい……と、陣営も思っているかもしれない?