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速攻レースインプレッション

ディープインパクトを彷彿とさせる世界に誇れる名牝

文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


先週まで凱旋門賞の取材でフランスへ行っていた。現地のジョッキーやメディアの方にも多く話を聞かせてもらったが、実は連覇を達成したエネイブルより②着だったシーオブクラスを推す声の方が多かった。その中で話が進んでいくと、よく出てきたのが「やっぱり、3歳牝馬だからね」という言葉だ。

古馬の牡馬が59.5kgを背負うのに対し、3歳牝馬は4.5kgも軽い55kg。パリロンシャンのようなタフな馬場では、この差が非常に大きく影響するように感じた。今までの日本競馬の歴史を振り返ると、3歳牝馬で挑戦したのは14年のハープスター(⑥着)1頭のみ。非常に少ない。

今年は現地で3歳牝馬という点を強調する言葉を聞くたび、「今年は日本にも…」と返しそうになったこともある。ただ、実際にレースではクリンチャーが見せ場もなく、馬群に沈んでいく完敗を目の前で見せつけられ、「やはり世界の壁は厚い」という結論の方が胸の中を強く占めていた。

しかし、だ。アーモンドアイ秋華賞の走りを見た後、「この馬がパリロンシャンを走っていれば…」と素直に思った。それほど、すごかった。驚くしかない強さだった。

序盤は先行争いが激しくなるかと思っていたが、ミッキーチャームの単騎先行で隊列は早い段階で固まると、前半1000mが59秒6。これは例年のこのレースに比べると、明らかにペースが遅い。各馬が動き始めた3、4コーナーでも、後方馬群の外めに構えるルメール騎手の手綱はまったく動かないまま。内回りの短い直線の入り口でも、まだ追い出しを待っているように見えた。

正直、見ている立場からすると「大丈夫か?」と不安に思っていたが、結果的にはルメール騎手に自信があるからこそ、だった。直線に入って、ようやく出されたGOサイン。一気に「ギア」がトップまで入ったような加速で伸びると、全身を大きく使った雄大なフォームで勢いはまったく鈍らない。

内の馬たちが止まってみえるような走りで他馬を飲み込み、余裕たっぷりの3冠達成。自身を追いかけるように伸びた③着のカンタービレ以外、内めからロスのない早めの立ち回りから粘り込んだ馬ばかり。完全に先行有利の競馬を、大外からぶち抜いたレース運びは1馬身半という着差をはるかに超えるインパクトだった。

関東馬であるため、普段は接点が少ないアーモンドアイだが、桜花賞後の取材が非常に印象に残っている。ライバルと言われていたラッキーライラックに完勝し、最初の1冠をつかんだ直後。ルメール騎手は何のためらいもなく、こう言った。「オークスも勝てると思う。今日でトリプルクラウンも考えられる」

ルメール騎手は普段、決して大きなことを言うタイプではない。だからこそ、こちらが話を振ったわけでもないのに、自ら「トリプルクラウン」という言葉を切り出したことに驚いたのだ。

その横にいた国枝調教師の言葉も覚えている。アーモンドアイと初めて会った1歳春の時期の話題になった時だ。「走りが違うんですよ。弾んでいました。調教を進めていくにつれ、モノが違うなという感じになりましたね」。先輩の3冠牝馬アパパネをはじめ、多くの名馬を知るトレーナーが笑顔で口にする絶賛は非常に印象的だった。

競馬記者になってから、3冠馬を見るのは5頭目。牡馬ではディープインパクト、オルフェーヴル、牝馬ではアパパネ、ジェンティルドンナを見てきた。3冠馬への道が楽ではないことは十分に知っている。

激しい気性と常に向き合ってきたオルフェーヴル、オークスでサンテミリオンと同着になったアパパネ、最終戦の秋華賞でヴィルシーナと7センチ差の接戦を制したジェンティルドンナ…。しかし、アーモンドアイはどれも危なげない圧勝だった。このまったく隙のない歩みは無敗のままで頂点を極めたディープインパクトの姿にダブって見える。

話を冒頭に戻そう。正直、3歳だった今秋に凱旋門賞に参戦しなかったのが残念という気持ちを強く持っていた。しかし、今は強い馬が強い競馬をするという競馬の醍醐味に触れた興奮の方が上回っている。昨年末にキタサンブラックが引退した日本競馬界は絶対的エースが不在の状況。ならば、この秋や来春に一線級の牡馬も圧倒し、堂々の日本代表として、海を渡ってもらいたい。世代による斤量差がなくても、強い馬は強い―。それだけの可能性を秘めた世界に誇れる名牝だと思う。


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