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速攻レースインプレッション

淀に咲いた大輪の花、鞍上のエスコートと陣営の我慢が実を結んだ

文/川上大志(スポーツ報知)、写真/森鷹史


閉ざされていた扉をこじ開けたのは、またしてもルメール騎手騎乗のフィエールマンだった。関東馬としての菊花賞制覇は実に17年ぶり。2001年のマンハッタンカフェ以来の勝利となった。先週、史上5頭目の牝馬3冠に輝いたアーモンドアイに続き、牡馬の最後の1冠も関東馬がゲット。厩舎サイドや牧場サイドの知識やノウハウも蓄積されつつある今、「西高東低」は昔ほど根強いものではなくなっている、とも思わせる2018年だ。

レースを振り返ろう。先行馬が、例年以上に多い印象も受けた今年の菊花賞。なかでも最内枠を引き当てた積極型のアイトーンが主張するというのが大方の予想だったが、伝統のG1は前哨戦セントライト記念の覇者ジェネラーレウーノの迷いのない逃げで始まった。前半1000mは1分02秒7。策師・田辺騎手が絶妙なスローペースに持ち込んだようにも思われた。

7番人気のフィエールマンは中団馬群の7番手を追走。これまで後方からのスタートが多かったディープインパクト産駒にとっては、いい位置を取れたことも大きかった。馬も距離も違うとはいえ、アーモンドアイを導いた先週の秋華賞では、我慢に我慢を重ねて追い出したルメール騎手が今週は一転。馬に合わせた臨機応変な立ち回りはこの日も目立った。

各馬がスパートをかけた最後の直線入り口で、先行勢は徐々に脱落。最後の直線は決め手勝負となった。すぐ外から早々に先頭に立ちに行ったM.デムーロ騎手騎乗のエタリオウなどによって、フィエールマンはややスムーズさを欠くことになる。だが、ここでも鞍上の機転が光る。外ではなく、馬場の中央へ思い切って舵を切ると、馬群をくぐり抜けてスペースを確保。ゴール前は一直線に進んでいたエタリオウとの一騎打ち。一完歩ごとに差を詰めて、最後はわずかハナ差で大きな勝利をもぎ取った。

ロスを最小限にとどめて、人気以上の着順に導く。レースや舞台は異なるが、16年エリザベス女王杯(シングウィズジョイ=12番人気②着)や17年有馬記念(クイーンズリング=8番人気②着)が自然と脳裏によみがえったのはだけだろうか。

2年連続リーディングへ快走を続ける鞍上は、たしかに人気馬に乗ることのほうが多い。だからこそ、大舞台で人気薄の馬に乗ったときの「うまさ」「狡猾さ」が際立つ。勝ち時計の3分06秒1は過去のレースと比較すれば特筆すべきものではない。だが、それゆえに、馬の力以上に、鞍上のエスコートが勝敗を分けたレースだったとも言えるかもしれない。

そしてもうひとつ、挙げなければならない大きな勝因がある。それは、陣営の「我慢」だ。4戦目での菊花賞制覇は、史上最小のキャリア。デビュー自体も、同世代のライバルたちがすでに経験を重ねていた今年1月28日(東京・芝1800m)まで待ってのことだった。

手塚厩舎にとっては、同厩舎で現3勝のルヴォワール(父ハーツクライ)の半弟にあたるゆかりの血統馬。姉は同じく年明けデビューから2連勝を飾り、一躍スター候補に躍り出たが、その後は体質の弱さもあって、一度も3歳牝馬G1の舞台に立つことはできなかった。そんな経緯もあり、手塚調教師は弟に対して「現状でも非凡なモノを持っているが、本当に良くなるのは秋以降。とにかく大事に向き合っていきたい」

春先からそんな言葉を何度も何度も繰り返してきた姿は、にとっても強く印象に残っている。2戦目の山藤賞を快勝したあとも、ダービートライアルなどには向かわず、ラジオNIKKEI賞までじっくりと調整。牧場サイドとも連携しながら、未来ある若駒を大事に大事に育ててきた。馬の個性に寄り添い無理をさせない姿勢、姉での悔しい経験こそが、最後の1冠で大輪の花を咲かせることにつながったのだ。

ひと夏を越えて、先を行っていた同期のライバルたちに追いつき、追い越した。史上最小キャリアでの勝利は、計り知れない伸びしろの裏返しでもある。「気高く、勇ましく」―。その名の通り、さらに強くなっていく姿に期待したい。


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