速攻レースインプレッション
驚嘆に値する勝ち方・勝ち時計だった
文/編集部(M)、写真/小金井邦祥
決着時計(1分31秒7)と全馬の走破時計を見て、自分がハッピーグリンと同厩の馬だったら、帰ってきたハッピーグリンにかける言葉がなかっただろうなあと思わされた。「上がり33秒5で1分32秒7で走ったよ」と言われたら、「差し切った!?」と言ってしまいそうだ。この上がりでこの時計で走って1秒0差の⑪着とは……。今年の富士Sは、安田記念のような決着になった。
東京芝1600mの古馬混合重賞は、冬開催に東京新聞杯、春開催にヴィクトリアマイルと安田記念、そして秋開催に富士Sがある。東京新聞杯は時計がかかりやすく、ヴィクトリアマイルと安田記念は時計が出やすい。春開催よりも秋開催の方が馬場は良さそうなものだが、そこは出走メンバーのレベルやレースの立ち位置の影響があるのだろう(富士SはマイルCSを目指す馬が多く出走する)。
重賞となってからの富士Sは過去に20回あり、これまでの最速の勝ち時計は2003年にミレニアムバイオが記録した1分32秒0だった。今回、ロジクライが計時した1分31秒7はレースレコードで、富士Sで初めて1分31秒台が記録された。しかも、ロジクライは2番手追走から直線で抜け出してこのタイムを叩き出していて、これは驚嘆に値する。
これまでに東京芝1600mの重賞を1分31秒台で優勝した馬は9頭いた。コースレコードは、2012年の安田記念でのストロングリターンと今年の安田記念でのモズアスコットが記録した1分31秒3で、それらを含めて1分31秒台で優勝した9頭は次の馬たちだ。
【東京芝1600mの重賞を1分31秒台で優勝した馬】
レース | 勝ち馬 | 勝ち時計 | 4角での 位置取り |
18年安田記念 | モズアスコット | 1分31秒3 | 12 |
17年安田記念 | サトノアラジン | 1分31秒5 | 15 |
16年ヴィクトリアマイル | ストレイトガール | 1分31秒5 | 10 |
15年ヴィクトリアマイル | ストレイトガール | 1分31秒9 | 5 |
13年安田記念 | ロードカナロア | 1分31秒5 | 8 |
12年安田記念 | ストロングリターン | 1分31秒3 | 12 |
11年ヴィクトリアマイル | アパパネ | 1分31秒9 | 11 |
10年安田記念 | ショウワモダン | 1分31秒7 | 8 |
10年NHKマイルC | ダノンシャンティ | 1分31秒4 | 16 |
勝ち時計に加えて4角での位置取りも記した。9頭はすべて4角5番手以下で、9頭中8頭はメンバー中3位以内の上がりで差し切ったものだった。これまで1分31秒台で優勝したのは、速い流れで脚を溜めて差し切った馬ばかりで、上記の9レースの前半3Fの通過タイムは33秒4~34秒3だった。
前述した通り、今回のロジクライは2番手を追走していたし、マルターズアポジーが逃げたとはいえ、前半3Fの通過タイムは34秒6だった。上記の9レースよりは速くなく、ロジクライは後半の1000mでラップを極端に落とすことなく押し切って、1分31秒台のタイムを叩き出したことが分かる。こんなレースをされたら、他の馬が完敗を喫したのも仕方ないと思わされる。
ロジクライは前走の京成杯AHで③着となっていたが、これまでの準OP以上での3勝は、シンザン記念(京都芝外1600m)、節分S(東京芝1600m)、六甲S(阪神芝外1600m)で、広いコースの方がレースをしやすいのだろう。加えて言えば母(ドリームモーメント)の母父がダンチヒで、ここにも高速決着での強さの秘密がありそうだ。
過去に東京芝1600mの重賞を1分31秒台で優勝した馬がのべ9頭いたことを記したが、そのうちモズアスコットとストレイトガールは4代血統表内にダンチヒを持ち、サトノアラジンとロードカナロアは母父がストームキャットだ。スピードタイプのノーザンダンサー系を持っている馬が目立ち、これまで富士Sのレコードを保持していたミレニアムバイオは母父がダンチヒだった。ロジクライも母系のこの血脈が爆発力を生む源になっているのではないだろうか。
ロジクライは順調ならマイルCSへ向かう可能性があるとのことで、これだけの先行力と1分31秒台で走破できる持続力があれば、当然、有力馬の1頭として数えられるだろう。
気になるのは、京都芝G1でのハーツクライ産駒の成績だろうか。同産駒はこれまでに天皇賞・春に21頭、菊花賞に11頭、秋華賞に10頭、エリザベス女王杯に8頭、マイルCSに2頭が出走しているが、[0.11.3.38]で優勝した馬がいない。②着になった馬が11頭いながら未勝利なので、このジンクスを破って押し切れるかが最大の焦点になりそうだ。