速攻レースインプレッション
「現在の競馬とは」ということがよくわかる一戦だった
文/出川塁、写真/森鷹史

もっとも、これはスワンSに限った話ではなく、この秋の京都開催は少頭数のレースが少なくない。この10月27日は10頭未満の出走頭数となったレースが3つ。2週前の秋華賞当日に至っては全12レースの半数が8頭以下の少頭数戦で、他に10頭立てと11頭立ても1レースずつあった。
これは決して偶然というわけでもないのだろう。今年の秋のG1シリーズの潮流のひとつに「休み明けでの勝利」が挙げられる。秋華賞で史上5頭目の三冠牝馬となったアーモンドアイはオークス以来5ヵ月ぶり。その翌週の菊花賞でもフィエールマンが3ヵ月半ぶりで大輪を咲かせている。3000mの長距離G1を休み明けで制すなど、これまでの常識では考えづらかったのだが、もはやそうした固定観念を捨てなければいけない。
この両馬を生産したノーザンファーム陣営を中心に、休み明けから能力を発揮できるのが当たり前の時代。レースを叩いて仕上げていく必要がなくなれば、出走頭数が少なくなるのは自然の流れといえる。遠からず「おっ、次のレースはフルゲートか。珍しいな」なんて将来が訪れるのかもしれない。
それはさておきスワンS。出走11頭は実績の格差も大きく、安田記念勝ち馬のモズアスコット、桜花賞馬のレーヌミノルの両G1馬に加えて、NHKマイルCで②着があるロードクエストの3頭が明らかに格上の存在といえた。ただし、レーヌミノルは近走不振が続いており、単勝12.4倍の3番人気。事実上、1.3倍の圧倒的な支持を集めたモズアスコットに、5.6倍のロードクエストが挑む構図となった。
レースでまず先手を奪ったのはレーヌミノル。ダッシュ力は相変わらずで、鞍上が手綱を押すベステンダンクやキングハートをよそに、ほぼ持ったままでハナに立った。2ハロン目からは後続を引き離して逃げていく。人気のモズアスコットとロードクエストは後方からじっくり進んで末脚に懸ける構えだ。
離して逃げるレーヌミノルを除き、2番手以下は一団。少頭数戦ということもあって馬順の入れ替わりは少なく、3~4コーナーでは後続馬群も追いついてほぼ直線勝負のレースとなった。
まず苦しくなったのがレーヌミノルで、残り300mを過ぎたあたりで一杯になってしまった。内からグァンチャーレ、外からベステンダンクに為す術なくかわされていく。早くから天才的なスピードを誇ったこの馬も、どうやらたそがれどきを迎えつつあるようだ。
残り200mを切って明らかに脚色がいいのが、やっぱり外のモズアスコットとロードクエストの2頭。ほかの馬は眼中にありませんといわんばかりの末脚で追い込んで一気に中継画面のセンターに躍り出る。ゴール板の寸前まではモズアスコットが優勢かとも思えたのだが、最後まで諦めずに伸びたロードクエストが最後の一完歩でハナ差つかまえた。
ロードクエストはこれで重賞3勝目。16年京成杯AH以来2年ぶりの勝利となった。今年に入ってからは1200mを使ったり、先行したりと試行錯誤を続けていたが、末脚を活かすレースでこそ持ち味を活かせるのだろう。
というより、今回が勝負の一番だったのはジョッキー欄を見れば明らかだったか。2歳時のホープフルS以来、ミルコ・デムーロ騎手が約3年ぶりに手綱をとっていたからだ。本番のマイルCSではペルシアンナイトという有力なお手馬がいるなか、前哨戦だけとなっても騎乗以来するとなれば、陣営の期待も大きかったはずだ。
モズアスコットも主戦のクリストフ・ルメール騎手が乗っており、前週の菊花賞からは①着②着が入れ替わっての「デム・ルメ」決着。もちろん、前述の通り、この両馬が抜けた人気を集めていたわけで、鞍上どうこうという話ではないかもしれないが、「現在の競馬とは」ということがよくわかる一戦ではあったように思う。