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速攻レースインプレッション

本格化と鞍上の好アシストが噛み合って悲願のG1初制覇

文/後藤正俊(ターフライター)、写真/森鷹史


3歳女王アーモンドアイ、古馬女王ディアドラを欠くメンバーとなったエリザベス女王杯だったが全体的なレベルは高く、馬券的にも面白い1戦となった。またこの日の京都競馬場は1Rから10Rまですべて外国人騎手が勝つという前代未聞の展開になっており、エリザベス女王杯も1~3、5番人気が外国人騎手で占められ、ルメール騎手を中心に猛烈な勢いで勝ちまくっている外国人騎手同士の争いも、もうひとつの焦点となった。

はっきりとした逃げ馬が不在で、有力馬はいずれも差し・追い込みタイプ。スローペースの流れはある程度予想されていたことで、逃げたクロコスミアの前半5ハロンは61秒4。クロコスミアは昨年、前半62秒0の流れを2番手につけて②着に粘っており、昨年よりはやや速いものの、岩田騎手としては絶妙のペースに持ち込むことに成功した。

このスローの流れを予知して、1番人気モズカッチャンM.デムーロ騎手はスタートから仕掛けて5番手の好位を取りに行き、ルメール騎手ノームコアC.デムーロ騎手カンタービレも3~4番手と前につけた。人気を背負っている馬たちにとっては、この位置取りは正解だったはずだ。

だが3角で2番手以下に3馬身差をつけたクロコスミアは直線を向いても余裕十分に突き放しに掛かる。好位に付けていた有力馬たちも必死に追うが、その差は縮まらない。昨年②着の雪辱を果たしてクロコスミアの逃げ切りが濃厚かと思われた瞬間、外から1頭、別次元の脚で飛んできたのがモレイラ騎手リスグラシューだった。

モレイラ騎手もおそらくスローペースは十分に感じ取っていたはずだが、道中は中団馬群の中、10番手をじっくりと追走した。クロコスミアからは7~8馬身後方で、5ハロンの計時は推定63秒0。抑え過ぎにも思えたが、これが陣営とモレイラ騎手の作戦だったのだろう。

これまで2000m以上では未勝利、2000mを超える距離ではオークス着、昨年のエリザベス女王杯着とやや距離に不安を抱えている。またG1は②着4回と最後に詰めの甘さを残している。それらの不安を解消するために、スローペースでも折り合いに専念して、最後の瞬発力にかける作戦に出たのだろう。

直線を向いて馬群の隙間を縫って前が開けると、モズカッチャンノームコアらを横目に外から一気に突き抜け、内に切れ込みながらクロコスミアに襲い掛かる。モレイラ騎手はステッキを一瞬の神業で左から右に持ち替えて体勢を立て直し、馬体を併せる。クロコスミアも最後にひと伸びして抵抗したが、ゴール板ではきっちりとクビだけ差し切っていた。

③着モズカッチャンはこの2頭から3馬身差の③着とはっきりした差がついていた。リスグラシューのこの日の馬体重は462kg。牝馬三冠では常に430kg台で出走していた馬が、休み明けの府中牝馬Sを使ってもさらに体重を増やしていたのだから、馬体が成長したのは明白。奥手だった父ハーツクライ同様に、4歳秋を迎えて本格化したことが、悲願のG1初制覇をもたらした最大の要因だったのではないか。だがそれも、モレイラ騎手の会心の騎乗というアシストがあったからこそ成し得たことだった。

モレイラ騎手は短期免許で7月末から騎乗し、騎乗停止期間はあったものの、実質9週間で63勝。この日の京都では5勝を挙げて、ついにJRA・G1初制覇を飾った。勝率は37.7%、連対率は52.1%という驚異的な成績を残し続けている。エリザベス女王杯の直線ではカンタービレの進路をややカットしたように見え、多少の荒さが見られるものの、それだけ勝負に対しての激しさが表面に出ているとも言える。

すでに今年は1度の騎乗停止処分を受けていて、来年度の短期免許交付を考えると今回の制裁内容(制裁点数)が多少気になるが、それだけにJRA騎手免許試験が不合格だったのは残念でならない。通年免許という落ち着いた環境で年間を通して騎乗したらどれだけの成績を挙げるのか、ぜひ見てみたかった。

距離不安を克服したリスグラシューは、このレースでは1頭だけ33秒台(33秒8)の上がりタイムを計測。今後はさらに自信を持ったレースができるはずだ。9番人気で②着に逃げ粘ったクロコスミアも、最後までバテなかった脚は昨年以上に迫力を増しており、牝馬の有力どころがいずれも差し・追い込み馬という構成から、今後も中長距離路線では怖い存在になりそうだ。

アーモンドアイ、ディアドラ、アエロリットらとの対決が待たれるし、その中からエネイブル、ウィンクス級の世界的な名牝が誕生することを期待したい。


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